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Module8.プロジェクト・グラン・ロウレル

その日は夕方から打ち上げだった。

それまで開発していた仮想現実多人数参加型オンラインロールプレイングゲーム(VRMMORPG)「グラン・ロウレル(Gran Laurel)」が無事ベータリリース、つまり試験運用とはいえ一般公開される運びとなり、そのためのセットアップを完了したお祝いであった。


ここに至るまでの道のりは長かった。

具体的な構想からは5年と言ったところだが、このゲームの開発は社長の学生時代からの悲願とも言えるので、そこから数えれば20年とも言っていいのかも知れなかった。

なんでも、CGはワイヤーフレーム、通信といえば電話回線、なんて時代に、大学にしかなかった研究用ネットワークを通じて、文字を中心として構成された「グラン・ロウレル」の前身であるマルチユーザゲームに嵌ったらしかった。

研究用ネットワークを遊びに使っていいものかとも思わなくもないが、それも社会の研究と言えば言えるのかもしれない。


「世界観がね、しっかりしてて、魅了されたんだよ」


まあ、ストーリーそのものは、世界を滅ぼす魔王を封印するために、プレイヤーが一丸となって協力し、魔物を討伐するという、ありがちなものだったらしいけど。

今回の「グラン・ロウレル」でもそうだけれど、NPCの設定が詳細で、クエストを進めていくと彼らの織り成す物語が生き生きと再生されていく、そういう物語性に魅了されたのだと、社長は言っていた。


「また、彼らに会いたいと思ったんだ」


そのゲームのデザイナーで開発者「剣充つるぎみつる」に出会ったのは運命だった、と社長は力説した。

とあるコンシューマゲーム機のお披露目イベントで隣り合って名刺交換したとき、すぐにその名前に気が付いたという。


かつてのゲームのファンだったこと、続編を期待していることを述べ、「続編の予定はないんですか?」と尋ねる社長に、剣氏は苦笑したらしい。


「構想自体はあるんですけどね、何しろ資金や人材の当てがなくて」


その言葉に飛びついて、ぜひうちで作らせてくださいとその場で拉致ってきたという。

強引というか、大胆というか、社長というのはそういう思い切りがないといけないのかもしれない。


ともあれ、その剣氏を統括であるグランドデザイナーにいただいて、「グラン・ロウレル」の開発はスタートしたのだった。


「グラン・ロウレル」という名称も剣氏がつけたものである。

その名前は、ゲームの舞台となる世界の名前、ということであった。


「まあ、『偉大なる大地』くらいの意味なんだけどね。『母なる地球』みたいなもんかな」


ロウレルというのは大地の女神の名前でもあるらしかった。

「グラン・ロウレル」には緻密な設定があり、何か疑問が出ると、それらについては全て剣氏が膨大なデータを提供しながら説明してくれた。


たとえば、どんな風景にしたらいいですかねぇ、と聞いたCG担当者の目の前に、各地の植生データがどん、と置かれたということがあった。

見慣れない植物の名前には形状のイラストや特徴の記述もついていて、CG担当者は目を白黒させながらそれらを立体にモデリングしていた。


それをすべて一人で考えたとすれば、すごいというか、マニアックというか。

まあ、RPGの元祖とも言える某有名小説にも壮大かつ緻密な設定があったので、こういうものなのかも知れないと納得してはいたが。


剣氏のすごいところは、その緻密な設定だけではなかった。

前身のネットワークゲームは彼ひとりで作り上げたものだった。

そのシステムを拡張することにより、文字データ処理レベルでの基礎システムは完成していると言っても良かった。


「でも、画像処理とかはからきしでね」


だから協力者が要る、ということで白羽の矢が立ったのが、当時院生だった俺だった、というわけだ。

その他にも音声認識部や、プラットホーム依存部分の専門家などが集められた。

総勢20名の開発チーム、それが「プロジェクト・グラン・ロウレル」だった。


そのメンバーだけでなく、都合のつくアルファバージョンのテスターまで加えた30名ほどの大所帯で、18:00から行きつけの飲み屋で打ち上げという名の飲み会が行われたのだった。

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