Module6.看板娘レイチェル
冒険者が利用する宿「青いグリフォン亭」の看板娘レイチェル――レイチェル・ガーランドは、宿で応対するだけでなく、いくつかのクエストでも重要な役割を果たすため、他の名もないNPCに比べて作りこまれたキャラクターだった。
人種は、北部に多いエルフの血を引くと言う北方人で、抜けるような白い肌に青い目、そして腰まで届く長いプラチナブロンドの髪をしている。
服装は大陸中央部の女性の一般的な衣装であるワンピースのような服である。
ちなみに、とある開発者が猫耳にメイド服を主張したが、グランドデザイナーに却下されたという逸話がある。
ただし、彼の切ない願いは一部かなえられ「レイチェルとメイド服」という特殊クエストが実装された。
クリアすると、猫耳カチューシャとメイド服が手に入り、一度だけですよ、とレイチェルが着てくれるらしい。
…当然だが俺はそのクエストをクリアしたことはない。
さらに念のために付け加えておくが、その主張をした開発者では断じてない。
「ええと、お客様?」
しみじみ脳内のグラフィックスと目の前のレイチェルと比べて感心していたら、レイチェルの表情が不信を通り越して不安にひきつり始めていた。
「おっと失礼。えーっと、前ここに泊ったことがある知り合いが、あなたが共通の知り合いに似てるって言ってたものでね」
「ああ、シージーさんって方?」
「そうそう、シージーって子」
適当にごまかすように言うと、レイチェルははにかむように笑った。
「そんなに似てるんですか?」
「うん、もう凄く似てる」
そっくりというか、どっちが本物というか。
「へー。会ってみたいですねぇ」
「それはちょっと無理かもなぁ」
何しろゲームの話だから。いや、ここがそのゲームみたいなんだけど。
「遠くから来られたんですか?」
「うん、すごく遠くから」
そうなんですねぇとレイチェルはほほ笑むと、仕事を思い出したようだった。
再度、お泊りになりますか?と問うのへ、数日の滞在を依頼する。
「前金で3日分をいただきます。300ガルーになります」
「これで大丈夫かな?」
俺は、金貨を3枚革袋から取りだしてカウンターに置いた。
レイチェルはそれを手に取り数える。
「はい、確かにいただきました。
お部屋は2階の奥、211号室になります。
お出かけの際は鍵はお預けください」
金貨に問題はなかったらしい。
レイチェルは金貨を仕舞うと、部屋の鍵を渡してくれた。
いかにも鍵!といった風情の鉄製の鍵で、数字らしき文様が握りの方に刻んである。
看板と同じで、その文様を見つめていたら211という数字がポップしたので、数字で間違いないようだった。
「夜と朝はそちらの酒場で賄いが出ますのでご利用ください。
お客さんは鍵を見せていただければ無料で食べられます」
なんと朝食と夕食つきだったらしい。
ぐう、とお腹が鳴り、空腹だったことを思い出した。