Module3.始めの一歩
乾パンみたいな味のパンを齧りながら、ある意味見慣れたメニューをひとしきりいじっていた俺はため息をついた。
大した情報はない。
わかったのは、さっき確認したようにゲーム上のスタート地点であるル・シェラにほど近いシェランド草原のど真ん中にいること。
装備は、ここのところずっと使っていたブレストアーマーにブロードソードといった、ファイターの標準装備にいくらかレベル相応のプラス補正がついたもの。
インベントリに入っていたのも、これくらいないと不便だろうと入れていた補助アイテム類と最後の戦闘で得たモンスターのドロップアイテムのみ。
後は、そこそこの持ち金といった感じであった。
ちなみにこのゲームでの通貨単位はガルーといい、Gで表示される。
視界のメニューにはHP/MPの表示とともにGも表示されており、今は23452Gとなっている。
どこに入っているのかと思って調べてみると、腰のベルトにぶら下がった革袋(小)に入っていた。
金色や銀色の硬貨が出てきて困惑する。
「まあ、確かに銅貨が二万枚もあったら重くていやだけどさ」
ぶつぶつ言いながら、試しに地面に数枚硬貨を置いて離れてみると表示が減った。
…どういう仕組みになっているんだろう。
インベントリの仕組みと同じで深く考えないようにし、表示を見ながら調べてみたところ、金貨が100G、銀貨が10G、銅貨が1Gにあたるということがわかった。
内訳は、金貨230枚、銀貨40枚、銅貨52枚。
「確か設定では1Gが日本円の100円相当くらいだったから、200万くらいの持ち金があるわけか」
まあ、とりあえず金欠で死ぬことはなさそうである。
(使えるかどうかわからないけどなぁ)
なお、他の地区についてのマップはまだ埋められてないのか空白で、見ることはできなかった。
元々このPCは動作テスト用に作ったもので、レベルも自分で上げたわけではない。
他の街や地区へ行くためにはいくつかのクエストをこなす必要があったが、当然それらもクリアしていないわけで、当然と言えば当然であった。
だってしょうがないじゃない、俺はプログラマであってテスターじゃないんだもの。
誰にいいわけするともなく呟く。
アルバイトのテスターの中には、リリース前のアルファバージョンであるにも関わらずプレイ時間が1000時間を超えると言う猛者もいたが、俺はあくまで動作確認時にしか入らない程度のプレイ時間だった。
ただ、開発者として、彼らの知らない設定情報などは知っている。
ある程度は街中でNPCから聞くこともできるが、他はクエストをこなしながら知って行くような隠し設定もある。
そういうクエストや設定がどの程度この世界の事情と一致しているかはわからないが…
(ル・シェラは確か、草原を貫く街道に交易拠点として作られ、発展してきた商業都市…だったか)
比較的文明が発達している大陸中央部にあるため、周辺の魔物は弱く、初心者の冒険者が開始するにはうってつけの場所、という設定になっていた。
商人が中心となった自治都市で、複数の商人からなる議会により運営されている。
今の議長は、街でもっとも大きな商会の主であるルパード・エルモンド。
その程度は卓郎も記憶していた。
(まあ、行ってみて状況確認するしかないよなぁ)
野っぱらにいつまでもいるわけにもいかないし。
と、卓郎は周りを見回してため息をついたあと、立ち上がった。
色々とメニューをいじっているうちに時間が経ち、太陽はすでにだいぶ傾きかけている。
急がないと日が暮れてしまうだろう。
俺、もとい、タク・ヨッシーは、始まりの街ル・シェラへ向けて歩き始めた。