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Module21.和解

大変お待たせしました。

手さぐりで書いてますので、色々不備あるかと思いますがご勘弁を~

と、エクスキューズしながら、投下してみます。

次をどこまで書くかちょっと悩み中なのですが、あまり間を空けないようにはしたいと思います。

その日の夜は、峡谷から少し離れた位置にある林で野営をすることになった。


「これから、人里を離れることも増えますから、慣れていくためにも」


ということらしい。

慣れているのだろうエリスとフィリップは、野営予定地に来るなり、地ならしを始め、

てきぱきとかまどらしきものを作り始めた。


「ミスティ君とタク君は、炊きつけ用の枝を集めてきてもらえますか?」


戸惑う俺とミスティ=千鳥に、剣氏=大魔術師はやんわりとほほ笑みながらそう言った。


「枝、ですか」


反射的に聞き返す、俺。


「かまどは作っておきますから、乾燥したものをなるべく多めに、

 …わかりますか?」

「昔ボーイスカウトに参加したことはあるんで、なんとなくは」


求められてるものはわかる。

ただ…ちらりとミスティ=千鳥を見ると、こわばった顔をしていた。


「お願いします」


そんな俺たちの様子を見ていた剣氏=大魔術師の笑みが深くなる。

ああこれは、お前どうにかしてこい、と、そういうことですね。


「…わかりました」


俺は頷くと、行こう、とミスティ=千鳥に声をかけた。


/*/


「山口さん、キャンプの経験はある?」


雑木林の中を歩きながら、俺は努めて明るい声で、聞いてみた。

とぼとぼとうつむいて歩いていたミスティ=千鳥が黙って首を振る。


「そっか。

 じゃあ、地面に落ちてるこのくらいの大きさの乾燥した枝を拾ってくれるかな」


例を示すために、足元から枝を拾って見せた。

ミスティ=千鳥が顔を上げて、それを見て、頷く。

その顔は相変わらずこわばっている。


ううむ、気まずいなぁ…


「今日使う分くらいでいいと思うから、あまり遠くには行かないで、

 この辺でざっと拾って集めよう」

「…わかりました」


ぽつり、と言うと拾い始めた。


実際、千鳥=ミスティとこういう風に2人きりになったのは、

こちらに来てから初めてである。

合流後の口論から、その翌日は気が立ってる様子で声をかけるのも憚られ、

―――それは、俺が力尽きていたせいもあるのだが、

さらのその次の日の今日は新メンバーの合流などで、まともに話す機会がなかった。

こういう風に2人の時間を作ってくれたのは、剣氏の配慮なのだろうけれど…


(ぶっちゃけ、どうしたものか)


どうにも、若い女性相手と思うと、気が引けてしまう。

中学・高専・大学と男だらけの環境で、

年頃の女性と仕事以上の会話をしたことなど、自慢じゃないがほとんどない。

うむ、本当に自慢にならない…


(ここは、やはりあれか、まずはごめんなさいして機嫌を直してもらうしか…)


「…あの」

「あひゃあ!!!」


ぐるぐるしているところへ声を掛けられたものだから、

裏返ったすっとんきょうな声が出てしまった。


「…ええと?」


相手も戸惑ってるじゃないか、とほほだ。


「ああ、いや、ごめん。ちょっと考え事してたもんだから。

 何かあった?」


取り繕うように言うと、ミスティ=千鳥が両手に抱えた枝の束を見せた。


「これくらいでいいですか?」

「おお、すごい集めたね」


褒めると、かすかに笑顔が浮かんだ。

かくいう俺も、考えてる間に無意識に集めていたらしく、結構な量を抱え込んでいた。


「えっと、じゃあ、ぼちぼち戻ろうか…」


と、その前に…

俺が覚悟を決めた瞬間、先に動いたのは、しかし、ミスティ=千鳥の方だった。


「あの、吉田さん、昨日は…ごめんなさい。色々失礼なこと言っちゃって」


ぺこりと、頭を下げてくるミスティ=千鳥。


うあああ、先に謝られたあああ!


動揺を押し隠しつつ、何とか口を開く。


「あ、いや、俺も悪かったよ。頭ごなしに言いすぎた…」


わたわたしつつも、便乗して謝ることができた。

その様子を見て、ミスティ=千鳥が困ったように笑い、

俺も、頭をかいて笑った。


少し雰囲気が緩んだところで、俺はもう少し歩み寄ってみることにした。


「帰る前に、少し、休んでいかない?」


促して、その辺の出っ張りに各々腰を下ろす。

自動販売機でもあれば、ちょっとした飲み物でも買って場を繋げるんだけど、

ポーション出すのも変だしな、などと、インベントリの中身を思い浮かべて首を振る。


「そう言えば、剣さんから、これもらってたんですが、

 いかがですか?」


ミスティが腰につけた小袋から、赤い果物のようなものを2つ取り出して、

ひとつを俺に差し出した。


あー、なんだろう、俺いいとこない?

まあ結局のところ、剣氏が気配りさんなんだろうけどな。


「ありがとう。いただくよ」


バツの悪い思いは押し殺して、

手のひらの半分くらいの大きさの硬いその果物を受け取り、齧ってみる。

すっぱいリンゴのような味がした。


「山口さんはさ、なんでこの世界に残って戦おうと思ったの?」


なるべく、優しく聞こえるように口調に気をつけながら言ってみたが、

ミスティ=千鳥は戸惑ったようだった。


「…それは…」


ミスティ=千鳥は、うーん、としばらく考えた後、ぽつぽつと話し始めた。


「グラン・ロウレルの前身のゲームって、ご存知ですか?」

「ああ、20年くらい前の、ネットゲームってやつだろ?」


ミスティ=千鳥が、ええ、と頷きつつ、言葉を継ぐ。


「それが、オフライン版でリメイクされてたことは知ってます?」

「え、それは知らない」


ネットゲームが出た10年後くらい、PCが普及し始めた時期に、

パッケージソフトとしてリメイクされていたらしい。


「ボク、それをやったんですよね」

「へぇ」


10年前くらいというと、彼女は小学校高学年くらいか。

頷いて先を促す。


「…ご存知かも知れませんけど、

 うちの母親、今の父親と再婚なんです」

「…それは聞いてないよ」


そうですか、とミスティ=千鳥は一旦口をつぐんだ。

齧りかけのリンゴのような果物を手で揉んでいる。


「…その…前の父親と色々あったんで、

 ボク、そのころ大人の男の人がすごく苦手で、

 今の父親にもなかなか懐かなかったんですよね」


それで、学生時代からの親友といううちの社長に相談したら、

「子どもとはゲームで遊べ!」

と、そのゲームを押し付けられたらしい。

…あの社長は相変わらずというか、芯がぶれないというか。


「ボク、昔から妖精の出てくる本とか好きで、

 母親がそれを教えてたのもあったみたい」


ミスティ=千鳥はかすかに笑った。


「それで一緒にやってるうちに、それなりに仲良くはなれたんです」


まあ、またその後色々あったんですけどね、と、遠い目をする。


「それから、ご存知だと思いますけど、高校に行けなくなって、

 また、この世界のゲームで少し立ち直ることができて…」


なんて言ったらいいのかな、とミスティ=千鳥は言い淀んだ。


「ボクはこの世界のゲームに何度も救ってもらったから、

 この世界に恩返しできるんなら、したいんですよ…

 ゲームを作った剣さんに、って言ったほうがいいのかな」


おかしいですかね、


と言うミスティ=千鳥は所在無げで、少し胸が痛んだ。


「なるほど…」


俺は頭を掻く。

俺にとって、グラン・ロウレルというのはただのゲームで、仕事の対象だった。

剣氏とも、これまでは、ただの同僚、上司という関係だけだった。

彼女にそんな思い入れがあるということは、想像の外だった。


「話してくれてありがとう。

 …そういう事情を知らずに、頭ごなしに帰れとか言ってほんとに悪かったね」


深々と頭を下げると、ミスティ=千鳥が慌てた。


「あ、いえ、わがままだってのはわかってるんです。

 あっちの身体が寝たきりになるだろうってことは聞いてたから、

 また、家族に迷惑をかけてるのもわかってたんです。

 吉田さんの会社とかゲームとかまでは、考えてなかったけど…

 だから…図星を指されて頭にきちゃって」


ごめんなさい、とミスティ=千鳥はくしゃっと顔を歪めた。

あ、泣きそう。

わー女の子に泣かれるとか勘弁してほしい。


「えーっと、その辺は俺がなんとかしようと思う」


え? と、ミスティ=千鳥が顔をあげた。


「どっちにしろ、一旦帰った方がいいかと思ってたから、

 剣さんと相談しようと思ってたんだ」

「一旦、ということは、また戻ってこられるんですか?」


ミスティ=千鳥が首を傾げる。


「うん、まあ、その辺も相談結果次第だけどね…

 帰れても戻ってこれないかもしれないし」


で、と言葉を継ぐ。


「色々考えてみたんだけど、

 俺にもこっちで手伝えそうなことはあると思う。

 だから…

 手伝わせてくれるかな」


にっこりとほほ笑んでみせると、ミスティ=千鳥の顔が再び盛大に歪んだ。

歯を食いしばって我慢しいてたようだが、目にみるみる涙が盛り上がってきて、

…決壊した。


「えっぐっ」


ぼろぼろ涙をこぼし、鼻水をすすりあげながら、子どものように泣いている。


えええ、なんでぇ???


俺は途方に暮れつつ、なんとか慰めようとした。


「ご、ごめん、俺なんか悪いこと言った?」

「ち…が…」


溢れる涙と鼻水のせいで、言葉にならないらしい。

あーあっちの世界だったらティッシュでもハンカチでも持ってるのに!

とりあえず、持ってきていたバックパック(中)からタオルを引きずり出して渡した。


「きら…われ…てる、と…」


とぎれとぎれな言葉を聞きとるに、

始め怒ってたしひどいことも言ったし嫌われてると思ってた、と。


「あーうん、それはごめん、

 でも始めは、君に怒ってたわけじゃなくてね…

 その、剣氏が君をだまくらかして利用してるんじゃないか、

 と、剣氏に怒ってたんだよね。

 途中それに割り込まれて、怒鳴っちゃったけど、ほんとごめん。

 ひどいことについては、お互い様だし、

 今さっき謝ってくれたし、もういいんじゃね?」


俺がそんな風に説明すると、

ミスティ=千鳥はぽろぽろ涙をこぼしながらも、笑った。


「剣さんは…いい人ですよ。

 吉田さんに謝った方がいいって、言ってくれたのも剣さんだったんです」


ああ、なるほどね。

彼女が今日は昨日に比べて随分大人しいなと思っていたら、

剣氏に叱られたってことだったのね。


そして、剣氏=大魔術師がいい人かどうかは…保留しておくことにした。


その後しばらくして、ミスティ=千鳥が落ちついたので、俺たちは野営地へ帰った。

すると、エリスが目ざとく、ミスティ=千鳥の泣いた跡を見つけて突っ込んできた。


「何?ミスティ、タクに泣かされたの?」

「ち、違います。これは、転んで打ったところが痛くて思わず泣いてしまって」

「慌てるところが怪しいわ!

 あれね、タクがミスティとふたりっきりをいいことに押し倒そうとして…」

「人聞きの悪いこと言うな!」


更にきゃいきゃい言い募ろうとするエリスの頭を、

フィリップがぱかん、と殴ってようやくその場は納まった。

フィルまじ感謝。


そんなエリスたちの手によってかまどはすでにできていて、

運んできた枝をくべると、エリスとミスティ=千鳥がかけられた鍋で調理を始めた。

食材を切ったり、鍋に入れたりしながら、

ミスティ=千鳥はエリスに何か聞いているようだった。

材料や調理法についてだろうか。


そんな和気あいあいとした情景をしばらく眺めた後、

俺はテントの設営をしている剣氏=大魔術師の方へ向かった。

フィリップもその手前で作業しており、テント自体はおおむねでき上がりつつあった。


「何か手伝えることはありますか?」


そのフィリップに声をかけると、うーんとフィリップが唸った。


「もう、ほぼ終わってるからなぁ

 ああ、そうだ、

 そこの荷物に入っている食器を、あいつらのところへ運んでもらえるかい?」


…また、エリスたちのところへ戻ることになりそうだった。


「わかりました」


と答えてその荷物を手に取った後、剣氏=大魔術師のところへ向かう。

そして、俺が声をかけようとすると、あちらが先に気がついて声をかけてきた。


「…うまく行ったようですね」


うっすらとほほ笑む剣氏=大魔術師に、俺はバツが悪くなって頭をかいた。


「ええ、まあ…

 それで、ご相談があるんですが、

 食後でいいんで、ちょっとお時間をいただけますか?」

「いいですよ。

 片付けが済んだ後、寝る前に時間を作りましょう」

「ありがとうございます」


その後、ほどなく食事の準備ができ、

俺の運んだ食器に料理をつぎ分けて、和やかな夕食となった。

満天の星の中、火を囲んで摂る食事は、随分と昔に家族で行ったキャンプを思い出し、

俺は懐かしいと同時に、

これが異世界での出来事だという事実にひどく非現実的な感覚を覚えたのだった。

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