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Module17.再会

飛んで出た先は…普通の小部屋だった。

6畳間くらいの白壁の板間で、カーテンのかかった窓に、質素な机と椅子がひと揃え。

昔テレビで見た豪奢なベルサイユ宮殿の部屋みたいなところを期待していた俺は拍子抜けした。


「あれ?」


戸惑う俺。

千鳥ことミスティ・バードと一緒に待ち受けていた、剣氏こと大魔術師ミィ・トゥールが首を傾げる。


「何か?」

「あ、いや、ロウランディアの王宮に出るものかと」

「ああ。あそこは昨晩会食の後すぐに失礼してきました。

 ここは、王都にある私の持ち家のひとつです」


ひとつってことはいくつもあるんだ。細かいことが気になる俺。


まあ、ともかく座って話をしましょう、と促されて、俺は着席した。

千鳥=ミスティが机の上のポットから、並べられたカップにお茶っぽい何か(以下お茶)を注いでくれる。


「あ、どもども」


そのお茶をずずっとすすり、何をどこから聞いたものか、と思いあぐねる。

と、大魔術師のほうから口を開いた。


「まず、吉田さんを巻き込んでしまってすみません」


その口調や声音は剣氏のものだ。

そのものなだけに外見の食い違いに違和感がある。

長いプラチナブロンドに白い肌、とがった耳。

それらは、北方人ではなく、かつていたというエルフの特徴である。

額には簡素なデザインの銀色のサークレットをつけ、質素な魔術師のローブをまとったその姿は、最後に見たときのCGでのごてごてした姿と比べると随分とおとなしい。


そして、何より、見た目の年齢が、若い。

あっちでも、40代にしては若いなぁという感じだったが、こっちは20代くらいにしか見えない。

なんか、俺より若くね?ずるくね?

俺は、おじさん呼ばわりされたことを思い出して、呪った。


まあ、それはさておき。


「ああ、いや、まあ、そこは…」


勝手に接続して、うっかり現場に乱入したのはこちらなんで、ともごもご言う。


「まあ、前もって相談しておいてもらいたかった、という気はしますが、

 でもきっと、剣さんが実は異世界から来たんだ、と本気で言ってたら、

 ストレスでおかしくなったのか、と思ってたでしょうし」


大魔術師は苦笑した。

まわりくどく話してても仕方ない、本題に入ろう。


「で、それはさておき、

 ぶっちゃけ、俺らは元の世界に戻るんですか?」


「俺ら」という単語に、お茶をちびちび飲んでいたミスティがぴくり、と反応する。


「結論から言えば、戻れます」

「ほう」


緊張して握り締めていた俺の拳から力が抜ける。


「ただし…」


おっと。


「ただし?」

「場合によっては、安全とは言えないかも知れません」

「ええと、どういう意味ですか?」


質問を挟みながら聞き出したところによると、

まずひとつには、初めてのことなので断言できかねる、ということ、

そして、俺らの体は魔術的に作りだされたもので、

意識というか魂みたいなものだけ連れてきて、その中につなぎ止めた状態であること、

そのため、つなぎ止めている魔術そのものであるこの体が破壊されれば、

その魂みたいなものは自分の世界に帰るだろう、

ということだった。


「ええと、つまりこの体が死んだら元の世界に戻れるってことですか?」

「外的な要因、例えばモンスターの攻撃などで死んだ場合は、

 戻れるかもしれませんし、ショックで死ぬかもしれません。

 おそらく、向うの体は眠って夢を見てるような状態になっていると思われるので、

 受けたダメージの印象が悪影響を及ぼす可能性があります」


ああ、なんか火傷する夢を見たら、実際に火傷ができた、とかいう話聞いたことある。


「安全に戻る方法はないんですか?」

「転送陣を用いつつ魔術で解放するのが一番安全だと思います」

「転送陣?」

「来る時に使ったあの魔法陣のことです」


なるほど。


「今ならまだアクティブですから、ほぼ間違いなく戻れると思います」


ん?今ならまだ?


「今ならまだ、というと、時間が経つとまずいんですか?」

「向う側の出口がいつまで動いているかわからないので…」


ぽむ、と手を打つ。

アルファ版サーバプログラムが停止されたりするとまずいのかな?

そうなのか、と聞くと、そうだ、と頷かれた。

社長には簡単に、

「故郷で大変なことが起こっていて戻らなければならない。

 しばらくあるいはもう戻れないかもしれない。

 戻らなかったら私物は処分してもらっていい。

 ただ、しばらくは、今のままにしておいてほしい」

というような書き置きをしてきたらしい。


しゃちょー止めないでいてー


「じゃあ、早く戻った方がいいんですね」

「そうですね、吉田さんはすぐ戻られた方がいいと思います」


ん、俺だけ?

千鳥=ミスティは相変わらずお茶を飲みながら、我関せずという顔をしている。


「ええと、山口さんは?」

「…彼女には、やってもらわないといけないことがあるので」

「ボクは帰らないよ」


千鳥=ミスティはカップを置くと、にっこり笑った。


「魔王の封印をしに行くから」


俺は頭を抱えた。

うすうす予想はしてたが、やっぱりか、というかなんというか。


「えーとですね。

 彼女を置いて俺が自分だけ帰れるわけがないでしょう?」


それを聞いて、千鳥=ミスティが口をとがらせる。


「えーなんで?

 吉田さんはボクの保護者でもなんでもないでしょー

 第一、ボク成人してるしー」

「君を置いて僕だけ帰ったら、社長に顔向けができない」

「ナニソレ、意味わかんない」


すっげぇ冷たい目で見られた。

俺は盛大にため息をついて、剣氏=大魔術師に向き直る。


「あのですね、俺のことは事故だと思ってますし、

 剣さんが俺らに黙ってこっちの世界に戻ったってのも、

 さっき言ったように事情も気持ちもわかります。でもですね」


彼女については違いますよね。


「彼女を巻き込むのは筋違いですよね」


俺はけっこう怒っていた。


「だから、ボクはボクの意思でここにいるんだってば」

「君は黙ってて」


口を挟んでくる千鳥=ミスティにぴしりと言うと、彼女は膨れた。

ナニソレ、ほんと意味わかんない、とぶつぶつ言っている。


「剣さんだって、社長が彼女をご両親から預かってるってことはご存知でしょう?

 その彼女に管轄下で何かあったら、社長の責任問題なわけですよ。

 そして、俺は、その社長から、彼女については気をつけておいてくれと言われている」

「ボク、そんなこと頼んでないし」


うるさいな。


「じゃあ、聞くけど、君は、ご両親にこの世界に来ること、ちゃんと説明してきたの?

 もしかすると命を落とすかもしれない魔王の封印の旅に出かけてくるって」

「…言ってくるわけないじゃん」


そりゃまあ、言っても何の冗談?って反応かもしれんが。


「でも、どういう状態かわからないけど、

 推測では俺らゲームの途中で意識不明の状態になってるわけだよね」


言ってみて気がついたが、それってほんと大問題なんじゃね?


「君のご両親だってどんなに心配されてるか」


千鳥=ミスティの表情がこわばった。


「…吉田さんが、ボクの、ボクの家族の何を知ってるのさ」

「そりゃ、詳しく知ってるわけじゃないけど…」


少なくとも、俺の家族はすっげぇ心配してると思う、と、姉の顔が思い浮んだ。

そこへ、剣氏=大魔術師が、まあまあ、と割って入った。


「社長には申し訳ないと思いますが、

 彼女には戻ってもらうわけにはいかないんですよ」


なぜなら、魔王の封印ができる勇者が、連れてきた彼女以外、今のこの世界には存在しないから。

と、剣氏=大魔術師は説明した。

千鳥=ミスティが、ふふん、と、どや顔をしてるのがむかつく。


「…その封印の旅というのはどのくらいかかるんですか?」

「そうですね。

 実際、魔王の覚醒までに間に合わせるとなると、

 1ヶ月でぎりぎりな状況だと思っています」

「この世界での1ヶ月は、あっちの世界ではどれくらいなんですか?」


ほぼ同じくらいですよ、と、剣氏=大魔術師が言うのへ、俺は唸った。

1ヶ月も意識不明ってまずくね?

帰るべきか、いや、しかし…


「吉田さん、帰った方がいいんじゃないですかー?」


それは、売り言葉に買い言葉だったかもしれない。


「帰らねーよ」


すでに俺は、引き返せない気になっていた。


「剣さん、俺もその旅に参加します」


場に沈黙が落ちる。

最初に口を開いたのは、千鳥=ミスティだった。


「えーでも、吉田さん、レベルすごく低いですよね。

 下級職の52レベルってw ワロスw」


ぬぐぐぐぐ。

いちいち挑発的な千鳥=ミスティを、剣氏=大魔術師が、まあまあまあとなだめる。


「僕には吉田さんの言いたいこともわかります。

 だから、こうしましょう」


剣氏=大魔術師の提案は次のようなことだった。


魔王封印の旅に参加するには、せめて、上級職のLV50は必要である。

一方、実のところ勇者のレベルも足りないので、修行しなければならない。

修行期間は1週間。

その間に俺がそのレベルに到達すれば一緒に行く。

そのレベルに到達しなければ、諦めて、元の世界へ帰ってもらう。


「わかりました」


俺はその条件を飲んだ。

それが、地獄の特訓への入り口だった…

最終行修正。


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