Module12.アルファ版グラン・ロウレル
剣氏のユーザ名を確認して、俺は眉をひそめた。
顔を上げて、窓際の剣氏の机を見てみるが、もちろん、誰もいない。
その表示は、しかし、その机に設置されているパソコンからログインしている、ということを示していた。
(ログインしたあと席を外したのだろうか)
もしかすると、俺が来た時にちょうど入れ違いになったのかもしれない。
トイレとか、コンビニへ買出しとか。
(トイレにしちゃ長いけどな)
俺が作業を開始してから、すでに15分以上の時間が経過している。
俺は、剣氏の作業状態を確認しようとコマンドを打ち込んで、さらに眉をひそめた。
takuro@gl_srv$ ps -u mtsurugi
PID TTY TIME CMD
25362 ? 00:00:00 sshd
25363 pts/0 00:00:00 bash
25364 pts/0 00:00:00 gl_alpha
グラン・ロウレルのアルファ版サーバプログラムが剣氏のユーザ権限で起動されていた。
(なぜ、このマシンで?)
このサーバマシンは、本来ベータリリースのためのもので、アルファ版サーバプログラムを動かす予定はないはずだ。
というか、そういう余計なものを動かしてもらっては困る、というのが本音だ。
ただ、何かグランドデザイナーとして確認したい、ということかも知れないので、うかつにこのプログラムを止めるわけにもいかない。
ちょっと失礼して、剣氏のユーザ領域にあるソースコードからバージョンを確認した。
どうも最新バージョンのようだ。
手元のプログラムの中から対応するアルファ版のクライアントソフトを探す。
設定をいじることで、この動いているアルファ版グラン・ロウレルに接続することができる。
軽く起動してみると、データ自体は開発版のものそのままのようであった。
ユーザ認証後の初期選択画面には、ここのところ使用しているファイターのキャラクターが選べる状態で表示されていた。
名前やレベル、位置情報が最後に終了したときの記憶と一致する。
「データは開発用サーバからひっぱってきてるみたいだな」
ネットワークの接続状況を調べてみると、そのようであった。
開発用サーバにもログインして、状況を調べてみる。
ここには現在俺しかログインしていなかった。
また、こちらではアルファ版のサーバプログラムは現在動かされていない。
ふむ。
剣氏が外部からゲームにログインしているなら、剣氏のキャラクターが今いる場所へ飛んでゲーム内で直接事情を聞いた方が早いかもしれない。
そう判断した俺は、データベースに直接アクセスして、現在ゲームにログインしているユーザの場所を取得することにした。
一応、グラン・ロウレルにはフレンドという仕組みがあって、友人であると登録しあった相手であれば、直接チャットできたり、相手のキャラクターのいる場所に転移できたりする。
だが、残念なことに、俺のキャラクターは最近作ったばかりで、他の開発者やテスターのキャラクターとフレンド登録をしてはいなかった。
フレンド登録をするには、相手のキャラクターを検索して、登録申請を送って承認されるのを待つ必要がある。
その作業をするのが面倒くさかったので、開発者ならではの方法で調べることにしたのであった。
「select uid,areaid,mapid,x,y from tb_login_user;、と」
一般人には謎の呪文のような、データベース問い合わせ言語という文字列を打ち込んでデータを引き出す。
結果は…
ログインユーザは一名のみ。
ユーザIDはJP00000021。
この位置は…数値ではさすがにわからないので、仕様書ファイル群からマップ情報ファイルを開き、該当箇所を探す。
「エリアES02、マップ0032…大魔術師の塔12F、このX座標とY座標はえーっと」
その座標が示している場所には「実験室」という名称が書かれていた。