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Module10.シナリオ「大魔術師の帰還」

クエスト名調整しますた。

レベルも調整…

それからしばらくして、俺はテスターたち数名に囲まれていた。

社会人的な事情で、チーフプログラマという立場についている俺は、テスターたちと接する機会も比較的多く、かなりの面子と顔見知りになっている。

そのため、余り面識のない他の開発者より話かけやすいのだろう。

ちなみに、千鳥は限界だったのか、トイレから帰ってくると自分の席に戻ってしまい、それきりであった。


「俺ら、まだクビになったりしないですよね?」


古参のテスターのひとり、鈴木悠司という大学生が幾分心配そうにそんな風に聞いてくるのへ、


「だいじょぶだいじょぶ。

 最初の乾杯のときに社長も言ってたけど、

 これで終わりってことはないから」


笑って否定する。

パッケージソフトのゲームと違って、オンラインゲームというものは、開発してはい終わり、とは行かない。

日々の運営ももちろんだが、新しい企画を順次組み込んでいって、興味を持続させないと、飽きっぽいユーザたちは、すぐ新しいゲームの方へ行ってしまう。


そのために、グラン・ロウレルでは、定期的に新しいシナリオや、それに必要な新機能を搭載していく計画になっていた。

それらのテストにまだまだ君たちの力が必要なんだよ、と、説明する。


「新しいシナリオってどんなんなんですか!?」


ほっとした悠司を押しのけるようにして、やはり大学生の谷崎林太郎が、興味深々といった風情で聞いてくる。


「いやいや、そこは自分で発見しないと面白くないだろう」

「そうだそうだ、ネタバレいくない!」


押しのけられた悠司が、林太郎にぶーぶー言う。

彼らは、大学は違ったが、学年が同じで開始時期が近かったということで、テスターの中でも早くに仲良くなったようだ。

ゲームでも2人を含むパーティがよく組まれている。


「ちょっとぐらいいいじゃん。

 ね、吉田さん、ヒントだけでもw」

「うーん、どうしようかなぁ」


林太郎が食い下がってくるのに苦笑する。


「そうだなぁ、君らはもうクエスト「勇者志望者募集」はクリアしたのかな?」


悠司だけたちだけでなく、その場にいるテスターたちは全員頷いた。

おお、と心の中で驚く。

あのクエストは、ベータリリースでのストーリーシナリオとしては最後のシナリオである「魔王の胎動」のトリを飾るクエストにあたり、適正レベルは上級職LV75以上、しかも4人以上でのパーティを組んでのクリアが推奨されるという難易度を誇る。


あれをクリアしたということは、ここにいる4人はそのレベルをクリアしているということで、かなりのヘビープレイヤーだということだ。

もちろん、テスターがヘビープレイヤーばかりではバランス調整がおかしくなるので、そうでないテスターもいるが、こうした内輪の飲み会に声をかけたらやってくるということは、熱心にやりこんでいるということでもあるのだろう。


「じゃあ、ちょっとだけ教えてもいいかな」

「やった!」


林太郎だけでなく、全員が目を輝かす。

悠司も遠慮はしていたが、やはり知りたかったのだろう。

俺はヒントだけを教えてやることにした。


「ヒント。次のストーリーシナリオの名前は「大魔術師の帰還」と言います」


4人のテスターから、おお、という声があがった。


「大魔術師って、あの大魔術師ですよね?」


それまで黙っていた、松田仁という名の青年が聞いてくるのへ、


「まあ、この時代、大魔術師といえば一人しかいないねぇ」


と、にやにやしつつ答える。

そう、この時代のグラン・ロウレルで大魔術師と言えば一人しかいない。

かつての戦いで、勇者を魔王の元へ導いた、大魔術師。


「でも、彼は確か、20年前の魔王との戦いで、封印には成功したものの、

 勇者とともに姿を消してしまったんですよね」

「うんうん」


そのせいか、本来であれば100年は持つはずの封印が破れかけていて、各地に魔物が増え始めているということがわかる、というのが、クエスト「勇者志望者募集」の中身だった。

だから、彼らはそのことを知っているはずである。


『各地で魔王の封印から漏れ出た力を受けたモンスターが増え、通常の手段では殺すことができないものも出てきた。

 そうしたモンスターは、勇者の特技でしか滅ぼすことができない』


そうした事情が明かされて、このクエストをクリアした君たちならば、とパーティのメンバたちは勇者へ転職が可能になるわけだ。


「そうした状況で、かつて魔王を封印した大魔術師が、満を持して帰還するわけさ。

 今度こそ魔王を確実に封印するためにね」


おおー、と興奮の声があがる。

そのメインストーリーである魔王封印をおこなう特別クエストの参加パーティの選抜コンテストや、

一足先に復活してきた、魔王の副官モンスターと彼らが率いる魔王軍との多人数によるレイド戦イベント、

そんなイベントがすでに色々企画されている。


ベータリリースではまだそれらの搭載は先だが、開発ブランチのアルファリリースではもちろん先行して搭載されていくことになっている。

そのうちいくつかはボツになるかもしれない。


「ま、たくさん戦ってもらうことになってるから、よろしく」


俺がにやりと笑うと、4人はうひぃと言いながら笑った。


「え、お手柔らかにお願いしますよ」

「クエストの難易度を決めるのは、剣さんだからなぁ

 剣さんに頼むといいよ」


そう言いながら、その剣氏の方へ目を向けると、いつの間にか席を移動して、千鳥と話していた。

ゆっくりと話しかける剣氏に、顔を真っ赤にした千鳥がしどろもどろに受け答えしている、といった感じのようだ。


「いいなぁ、俺も剣さんと話したい」


それを見た林太郎がうらやましそうに言う。

そして、行った端から、よーし、俺行っちゃうぞーと移動していった。

俺も俺も、と他の3人が続く。


乱入された千鳥は、ほっとしたような残念なような複雑そうな表情をしていて、俺は、おやおや、と苦笑したのだった。

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