終末へ向かう序 かつての戦い、かつての想い
勇者騎士と呼ばれた聖騎士ガルデンは——、正しくは勇者ではなかった。
圧倒的な力とそれを正しく行使できる精神力。たった一人で一軍にも匹敵して、根源魔種とさえ対等にやり会える実力者。
そんな規格外の彼を示した言葉であった。
そして——、
彼は正義に反する者には容赦がなかった。
たとえそれが過去になにかがあってそうなったとしても、理由があって操られているのだとしても、
——害があるならば容赦なく切り捨てた。
まさに正義を行使し、その剣を振るうだけの正義の戦闘機械——、それこそが勇者騎士と呼ばれた聖騎士ガルデンであった。
無論、彼もまた月星教会に属する者——、そもそも幼い頃に双児女神に直接見出されて、その探索行を任された一人である彼は、何より双児女神にすべてを捧げた人物であった。
それゆえに——、唯一、少しばかり感情が向かったのかもしれない。
——そう、大魔女リリィ——、それが、その銀髪から赤い瞳に至るまで、双児女神が大人の女性の姿をとれば、まさにそうなるであろうと言う姿をしていたのだ。
ほんの僅かな感情の揺らぎ、それが非情な彼にしてリリィの素性を多少は調べる機会を生み出した。
そして——、その過去から【旅の魔法使い】のある意味妄執から、自分の意思によらず巻き込まれていた事を知った。
【旅の魔法使い】は常に——何かしらの闇を持つ人物に、その闇を煽る目的で【魔種因子】を埋め込んで操りやすくしていた。
そうして共犯関係となって、【魔種因子】保有者にとっての支援者となり、そこから精神支配へと繋げるのが彼のやり方であった。
——しかし……、彼女に対してはそれがなかった。
【旅の魔法使い】は、ある理由から彼女を欲して、そしてその衝動の赴くままに彼女を【玄鱗龍姫】の特性を持った【魔種因子】保有者に変えたのである。
——ガルデンは——、その理由に心当たりがあった。実は——、【旅の魔法使い】の正体に気がついていた。
——彼の素性を明らかにしなかったのは——、何より彼の信仰によるものであり、——なにより自身の手で謎のまま【旅の魔法使い】を討ち滅ぼすつもりであったからである。
だから——、ガルデン自身、自覚せずともリリィに対する対応は甘くなった。
何より他の【魔種因子】保有者が自身の決断で【魔種因子】保有者となったのと違う、【旅の魔法使い】の欲のために巻き込まれただけのリリィへの対応は——、
——最終的に封印と言う形で留めたのである。
これは——、それまで長く続いてきたガルデンの戦いにおいて最初で最後の慈悲であった。
——そして、【旅の魔法使い】の元へと到達したガルデンは、その彼との対話の後に彼を討ち果たすことになる。
しかし、何よりガルデンを知る【旅の魔法使い】は、彼の追跡からは逃れられないと悟っていた——、
——初めから討たれるであろうことを見越して対策を取っていた。
そして——、それ以上追われないようにするために——、彼に感知できないレベルの呪いをかけた。
そうして——、ガルデンはその災厄の終結の後に、急速に衰えて亡くなることになる。
——そして……、
……今、彼は——【旅の魔法使い】の手駒となっている。
——それはなぜなのか?
◆◇◆
その時、【旅の魔法使い】はガルデン——【絶剣のシヴァ】を送り出してから眉を歪めて考え込んでいた。
「……どうしたのかな? ■■——?」
「ああ……父上……」
そんな様子の彼に、側に控えるルクシリアが笑顔で問いかける。
その言葉に【旅の魔法使い】は、すこし困惑の表情をむけてルクシリアに問うた。
「……戦力の逐次投入はマズイのでは? それにあの男はリリィに対して……」
「ククク……、大丈夫です。彼は私が示した【運命線】に従って動くだけの仕組み……。正しく機能すれば間違いなくリリィを確保できるでしょ?」
「……」
「戦力の逐次投入も……、今のところ手駒はいませんし。万が一を考えて最強を送り込んだので大丈夫でしょ?」
そう答えるルクシリアに、それでも【旅の魔法使い】は困惑気味に考え込む。
その様子を——、内心とても楽しげにルクシリアは見つめた。
(……ククク……、■■……。貴方の心配は……、本当はそこにはありませんよねぇ(笑)。今までは平気なふりをしていましたが……、貴方は明確に彼女への執着を持っている。一旦、使命を果たすべく他国へ行って忘れていたでしょうが……、この間、リリィの姿を直接目撃したことで……、思い出してしまった……)
ルクシリアは——、ガルデンが知っている【旅の魔法使い】の正体を知っている。
なにより——、彼がそうなるように仕向けたからである。
だからなぜ【旅の魔法使い】がリリィに、強い意識を向けるのか——、そもそも彼女を【魔種因子】保有者への変えたその理由を知っていた。
(……ああ、執着……、ですか……。リリィの銀髪と赤い瞳——、あれは、血は薄いもののかつて魔種の血を引いていた者の末裔である証……。そう……、彼女は生まれたときからあの髪色と瞳の色をしていた……。そして……)
——なぜ、そんな彼女に……、
本来ならただの【一般的魔種】となるだけであった【魔種因子】を、【玄鱗龍姫】系の【上位魔種】へ変貌するように改変して埋め込んだのか?
一つだけわかっている事——、彼女の【吸精魔種】としての覚醒は……、ある意味で【旅の魔法使い】の欲望と執着からくる行為——、
——純真無垢なお姫様であったリリィを初恋で弄んだ事……、
……その結果によるものである。
(……■■……、やはり貴方は……。でも無駄です……、貴方は思い出せない……。思い出したところで今更……取り返しもつかない。まあ貴方の意識下でノイズ化するようにした貴方の名前を思い出せば……あるいは……)
ルクシリアはそう心のなかでほくそ笑みながら、他人の破滅につながる全ての行方を見守る。
——それこそが——、
——彼の何よりの楽しみであった。
◆◇◆
——ガルデンは、【エルデンの魔窟】への道を進みながら思う。
(今後を考えて意識から敢えて外していた【旅の魔法使い】の名前……、それをなんとかして伝えるべきか? いや……、もし今までの顛末や情報を鑑みれば……、すでにあの御方様方が動いてらっしゃる……か……)
——ならば……、とガルデンは思う。
(……あの者の……、真の黒幕を欺くためには……、情報開示を段階的にして最小限に抑えねばならん……。こうしてルクシリアや【旅の魔法使い】に操られるだけの私では……、出来ることも限られるし……、最悪を引いてしまうかもしれん……)
——だとすれば……、御方様方を信じよう……、そして……私は、今はただあの者たちの指示に従うべきであろう。
それが……、
……おそらく一筋の希望につながる。
ガルデンは遥か【エルデンの魔窟】を睨みながら……、その現在の主である者たちにとっての試練となるであろう戦いを思った。




