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ifおとぎ話

シンデレラは魔女になりたい

作者: 天白 雲居
掲載日:2026/05/17

短編ですが人気が出れば連載版描きます

もし、シンデレラが魔女に願いを話す時、異なった願いを話していたとすれば、どんな話になっていただろう。

今や世界中で古くから話されてきたおとぎ話である『シンデレラ』は、両親を失い、後に残った義母たちからは、不当で酷い扱いを受ける、哀れで美しい一人の少女が、魔法によって王宮で開かれている舞踏会に参加し、そこで王子様に見そめられて王子様の運命の人となる、ロマンチックでハッピーエンドを迎えるラブストーリーだ。


物語の序盤で、主人公であるシンデレラは魔女にこう願った。


『────舞踏会に行きたい』


かくして魔女はこの願いを聞き入れ、魔法で美しいドレスに、白馬に従者、かぼちゃの馬車とガラスの靴を作り出し、シンデレラを舞踏会へと送り出した。

では、シンデレラがこの時、全く違った願い────例えば『魔女になりたい』と願っていれば、どんな話になっていただろうか。


                ***


とある村の一件の家、その庭で一人の魔女と、薄汚い服を来た少女が相対していた。

少女の名は──シンデレラ、彼女はこの村で一番不幸な娘で、そして一番美しいと評判の、金髪の髪を長く伸ばした幼い少女だ。

魔女の名は──ない、名前など、とうの昔に捨て去ってしまっていた。魔女は、大きな魔女帽子で顔を隠し、黒いローブを着こなすふくよかな女性だ。魔女は現在、家の中に閉じ込められていたシンデレラを魔法を使って救出したところだった。


前々から、魔女はシンデレラのことを気にかけていた。

両親は既に亡くなっており、現在は実父の後妻となった義母と、その際についてきた義姉たちと共に暮らしていて、実父が亡くなった後は、使用人の方が待遇が良いほどの不当な扱いを受けていると聞く。

その話に酷く心を痛めた魔女は、せめてシンデレラを王宮で行われている舞踏会へ参加させたいと、彼女を救いにきたわけだ。

魔女は哀れな目でシンデレラを見つめ、咳払いをして一言、


「おほん、それじゃあ早速だけど、あなたの願いをなんでも一つだけ叶えてあげるわ。この、魔法の力を使ってね」


魔女は懐から杖を取り出し、軽く魔法を行使して、シンデレラの薄汚い服を美しい水色のドレスへと変化させた。そんな魔法を行使した魔女はシンデレラの願いを知っていた。というより、聞いてしまっていた。

シンデレラを救い出す直前、『私も舞踏会に行ってみたい』とポツリと溢していたのを偶然聞いてしまったのだ?


「さあ、そろそろ願いは決まったかしら」


魔女がシンデレラに聞くと、彼女は呆然とした表情で魔女を見上げ、こう言った。


────魔女になりたい。


「……え?」


正直、そう来るとは思っていなかった。

予想外の願いに、魔女は一瞬面食らってしまう。何かの間違いではないか。そう思った魔女は動揺する心を抑えて再度シンデレラ願いを聞き返す。だがしかし、シンデレラは一言一句間違えずに「魔女になりたい」と言った。


「お嬢さん、確認のためもう一度聞くのだけれど、その……今あなたは、魔女になりたい、って言ったのよね。聞き間違えじゃないわよね?」


「はい、魔女様がよろしいとおっしゃるのなら、私も魔女になりたいです」


シンデレラは曇り無きまなこで魔女の目をしっかりと見つめ、再度その願いを話した。

当然だ。そう都合よく何度も聞き間違いをするわけがない。


「本当に……それでいいの?だって魔女は────」

「嫌われている、ですよね」


そんなこと既に知っていると言わんばかりにシンデレラが魔女の言葉を遮る。

そう、魔女は人智を超えた力──魔法を行使するため、どんなに善い行いをしたとしても、一般人から不気味だと忌み嫌われ、最悪の場合には火炙りにされてしまうのだ。そのリスクは、シンデレラに話しかけたこの魔女も例外ではなかった。


「ね、あなたも知っている通り、魔女になれば普通には生きられないの。だから、ごめんなさい。あなたを魔女にすることはできないわ」


「なぜ、ダメなのですか?私は今、家族から嫌われ、普通には生きていません。それに、私がいなくなったらあの人たちは喜ぶはずです。魔女になっても、何も変わらないです」


「それはあなたが今の家族しか他人を知らないからでしょう。これから先、あなたはきっとたくさんの人に出会い、恋を知り、やがて母親になるでしょう。魔女にならなければ、そういう未来もあるのです。よく考えてください。舞踏会に行きたいとか、そういう願いなら叶えられるけれど、それは聞き入れられないわ。お嬢さん、ここで焦って幸せな未来を手放すことはないの。もう一度よく考えて」


魔女はシンデレラを優しく諭した。

さあ、これで今度こそ彼女の口から舞踏会に行きたいと────「もう、無理です……」出なかった。


「もう限界なんです。あの人たちが怖い。夜も何をされるかわからないし眠れない。自由に行きたい。お母さんとお父さんに会いたい。友達と遊びたい。森へ行きたい。普通に生きたい……」


突如、シンデレラから発せられる怒涛の弱音。この子は今まで、どのような地獄で生きてきたのだろうか。彼女の弱音からは、彼女を絶望させる人生の片鱗がちらついている。

シンデレラの肩が、震えていた。


「このままじゃ……幸せな未来なんて来ない……待ってるだけじゃ、手に入らない。この家にいたら、私はきっと、死ぬまで働かせられる。だけど、魔女になれば、自由に生きられる。だから、お願いします。魔女様……どうか……」


シンデレラの綺麗な緑色の瞳に、淡い雫が溢れていた。それはまるで、今まで必死に堰き止めてきたダムが決壊してしまったような、そんな涙。


「魔女様のいうように、舞踏会に行ったって、明日からまたいつも通りの毎日が始まります。でも、それじゃダメなんです……」


シンデレラは、限界を迎えていた。

度重なる罵倒に、日に日に増えていく疲労と徒労。よく見ると、シンデレラの体中には痣が出来ており、彼女の痛みがひしひしと伝わってくる。

確かに、このままではシンデレラはその内、命を失ってしまうかもしれない。幸せな未来が来るよりも先に、終わりが来てしまうかもしれない。


「────本当に、願いはそれでいいのね」


魔女が、ポツリとシンデレラに話しかける。

すると、頭を下げていたシンデレラがパッと顔を上げ「はい」と覚悟を決めた顔をしていた。涙はもう溢れていない。


「────…………色々と思うところはあるけれど、私が首を突っ込んだものね。きちんと、最後まで責任は持つわ。さあ、この手をとって」


魔女はシンデレラへ手を差し伸べ、反対側の手で箒を生み出して魔法を行使する。

一瞬の静寂の後、二人を取り囲むように風が吹き荒れた。


「この手を取るということは、魔女になることと同義、これが引き返す最後のチャンスよ。準備は、いい?」


「はい、私はもう戻らない。自分の手で未来を切り開くの」


シンデレラは魔女の手を取り、夜空へと舞い上がった。

次の光が二人を照らし、空を駆けるカラスたちが鳴く声が祝福を奏でていた。


「こんなことになるなんて想像もしてなかったけど、これからよろしく頼むわね。お弟子さん」


「よろしくお願いします。魔女様」


「ふふ、いつまでも魔女様じゃその内困るだろうから、私の魔女名を教えておくわ。『願いの魔女』これからはそう呼んでちょうだい」


「『願いの魔女』様、ですね。わかりました」


「それじゃ、あなたへの最初の贈り物を上げるわ。あなたはこれから、シンデレラという名を捨て『灰被りの魔女』と名乗りなさい。あなたは灰の中から自由を目指す小鳥。ここから始めるのよ」


遠くに煌びやかな王宮の光が見える。

シンデレラ──否、『灰被りの魔女』の選択次第では、今夜はあそこで開かれている舞踏会に参加していたかもしれない。だけど、彼女はこちら側の世界を選んだ。


「これから忙しくなるわね。それじゃ、そろそろ行くわよ『灰被りの魔女』」


「はい、『願いの魔女』様」


こうして二人の魔女が夜空へと駆け上り、自由を求めて世界を駆け抜けた。

舞踏会から帰った義母たちは、いなくなったシンデレラのことなど気にせず、むしろ喜んでいた。そのうち存在も忘れ去られ、シンデレラがいたという痕跡も、自然と消えていくことになる。

この世界には一つ不思議な伝説が残っている。


「『灰被りの魔女』は貧しいもの、辛いもの、苦しいものの味方。あなたが困っていれば、きっと魔女様が助けに来てくれる」


『灰被りの魔女』は、晩年までその力を弱いもののために奮い続けた。

この世界で魔女への偏見を正したものとして、その名を後世まで残したそうだ。


fin


                ***


このように、何かが一つ違えば、全く違った話へと変わってしまう。

シンデレラは王子様と出会うことなく、その生涯を終えた。しかし、彼女は幸せだったと言えるだろう。幸せな形は一つだけではないのだ。

さて、次はどの話を見に行こうか。

ブックマーク&評価よろしくお願いします!

感想もくれたら作者が涙を流して喜びます。これマジです。

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