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格物致知

「私のオリジナルは”小説”――――小説を現実に再現できる」


花柄の魔法少女、ミドルミストは驚愕した。


まるで世界トップの魔法少女、”魔女十結”に比肩するほどだと感じた。


「まさか……そこまでのものだとは思わなかったっきゅ……」

「ミドルミスト。ここは引くのが良いっぴ……」


マスコットであるピータとルーが各々に呟く。


だが、ミドルミストは覚悟を決めた表情をしていた。


「でもやる。私は主人公って言われた。なら、絶対殺されないはず」


彼女はオダマキの杖を握りしめた。


手汗で少し滑る感覚。


「この辺りに人はいない。だったら、私も遠慮はしない……!」


残りの魔力のほとんどを費やし、新たな植物を生み出す。


モモのような花色に、葉が竹のように鋭いことを中国語から取った植物。


そして同時に、恐ろしい毒性を持つ植物。


名を―――――夾竹桃と言う。


ミドルミストと死神少女の下の地面一体にそれらが咲き誇る。


見た目だけは非常に美しく、心惹かれるものがあった。


「ふむ……あれは夾竹桃か」


死神少女が呟く。


黒のパーカーで目元が隠れていても、興味深そうに夾竹桃の方を見ているのが分かる。


「夾竹桃はね、燃えた方が怖いんだ」


ミドルミストがオダマキの杖を振ると、地上に咲き誇る夾竹桃がボッと燃えた。


大きな炎から煙が立ち上り始める。


何の変哲もない、至って普通の煙だ。


だがその煙は死の体現であり、吸うとやがて死に至るほどで、一説によるとその毒性は青酸カリの約1000倍とも言われる。


その煙が、大量に二人の高さへと迫っていく。


「……末恐ろしい攻撃だ。まぁ私に対しては特に意味はないが」


二人を煙がやわらかく包む。


死ぬかと思われた。


だが、ミドルミストは一切影響を受けていない。


そも彼女が生み出した植物であり、彼女自身植物関連の魔法少女だからだ。


勿論、マスコット達も基本そのような物理攻撃は通じない。


では死神少女の方はどうだったか?


「これも効果がない、なんてね……アハハ」


煙が死神少女の周りに来た途端、まるで浄化装置を通したように透明になっているのだ。


おかげで死神少女は悠々とその場に浮かんでいる。


「いわんや効果はない」


ミドルミストは苦笑する。


既に地上に植物を一から生やすほどの魔力はない。


ではどうするか。


ミドルミストはオダマキの杖に僅かに魔力を込め、死神少女に接近し、力を込める。


物質に魔力を込めるとそれだけ強化されたりなど恩恵が多い。


だが勿論僅かにしか込めていないのでそれは高が知れており、魔法少女の動体視力を持ってすれば避けるのは容易い。


「はぁぁッ!」


振りかぶられたオダマキの杖を死神少女は余裕で避けた。


だが、次の刹那死神少女は驚いた。


「避けると思ってたよ」


振り終わりの態勢のミドルミストの身体から生えている数本の植物が、避けたばかりで態勢の悪い死神少女に向いていたのである。


その植物が持つのは、赤と黒という派手な色をした種。


死神少女はその植物に見覚えがない。


だが先ほどの経験から恐らく毒性植物だというのははっきりと分かる。


……死神少女はふと嫌な予感がした。


瞬間、種が死神少女に向かって弾丸のように射出されたのだ。


死神少女は防ごうと思ったが如何せん態勢が悪く、本を持っていない左腕でそれを受け止めようとする。


ドシュ、腕に種の弾丸が突き刺さる音。


「はぁ!」


追加とばかりにミドルミストがオダマキの杖を振り上げる。


だが死神少女は痛みを感じていないように左腕でそれを受け止めた。


衝撃のまま吹き飛ぶが、死神少女は同時に距離を取る。


「この種は何だったか……赤と黒……何処かで見覚えがなくもない。体内に入ったのは誤算だ」


腕を見ながら死神少女が呟く。


パーカーの腕部分は血が染みており、色が濃くなっていた。


一方でミドルミストはしてやったりという表情をしていた。


だが彼女には既に魔力がほとんどない。ゼロと言っても差支えがないほど。


事実、肩で息をしていた。きっと視界も霞んでいることだろう。


「ミドルミスト、ここまで粘ったのは凄いっぴ。けど、もうやめるっぴ。これ以上は魔力欠乏症になって最悪死ぬっぴ」


ルーが心配そうに声をかける。だがミドルミストには随分遠い声に聞こえた。


「はぁ……はぁ……でも、あの植物は、効果が出るのに、時間がかかる……」

「大丈夫っきゅ。これだけ京都のど真ん中でドンパチやってるんだっきゅ。そろそろ応援が来るはずっきゅ」


ピータが冷静にそう言う。


それと同時、遠くから何かが近づく気配。


「どこのどいつだ!この僕の担当地区で暴れる不届き者は!」


朗らかな低声と共に空から降りてきたのは、般若のお面を付けた軍服の少女。


お面からはみ出る漆黒のロングヘアーが曇り空でよく目立つ。


だがその体躯から漏れ出す魔力はミドルミストよりも遥かに格上であることを示していた。


「まさか、魔女十傑が来るとは思わなかったっきゅ……!」


ピータが目を見開いて驚く。


ミドルミストも肩で息をしながらも驚いていた。


あれは先輩に並ぶ存在。


魔女十結が一人、”魔力糸”のテバー。


「はっはは!この僕は混沌から舞い降りた封印されし存在!魔女十結のテバーさ!」


包帯を巻いた腕を顔の前に持って来ながら、圧倒的プレッシャーと共に高らかと叫んだ。




――――――――――――――――――




「さぁて、今回闇の力に屈するのは君だな?」


般若のお面を死神少女の方へと向ける。


そしてビシッと指差した。


対する死神少女は「ふむ……」と考える素振りを見せた。


「面倒な相手が来た。……潮時か」

「ふん、逃がすと思うか?」


テバーが軽く腕を動かした瞬間、死神少女はまるで何かに固定されたように動きが止まった。


「……これが魔力糸か。空中でもこれほどとは」

「ふん。支える為のものなど要らんのさ」


テバーが指をクイッと曲げる度に、ギリギリと締め付ける音が大きくなる。


だが死神少女は特に抵抗しない。


「……理解。だが今回は戦う気など毛頭起きない。失礼する」

「な、おい待て――――――」


テバーが慌てるも、死神少女は白の光に包まれ一瞬にして姿を消した。


「ああクソ、油断してしまった。力を借りた暗黒龍に申し訳ない」


悔しそうに空中で地団太を踏むテバーだったが、傍に一人のマスコットが姿を現す。


「……テバー。今回は仕方のないことだカラ」


テバーのマスコット、カラン。


白狼を基調としたマスコットである。


「それもそうだな、うん、そうしておこう」


般若のお面を付けたまま首を振り数回頷くと、ミドルミストの方を見た。


「ところで、君達は大丈夫だったかな?」

「……は、はい。大丈夫、です」


「あまり大丈夫じゃなさそうだ。だが僕の闇の力は太陽の力は持っていないのでね、暫く我慢してくれたまえ」


テバーはそう言うと、今度はピータの方を見た。


「おや、君はあの享楽切り裂き魔の所のマスコットではないか。何故ここに」

「話すと長いっきゅが」

「なら結構」


あっさりと断るテバーに、ピータは一瞬ムッとした表情をする。


相棒であるスレイスのことを切り裂き魔と呼ぶのは仕方ないと妥協しているが、一応は相棒なのである。あまり長く近くに居たくはないが。


だがテバーは一切気にしないように、再び突然叫んだ。


「あぁ!でもやはり無傷で逃したのは良くない気がするな!」


劇をしているのかというような大仰な残念がり方。


だがミドルミストが苦痛を何とか我慢しながら掠れた声で言った。


「無傷じゃ、ないです、よ。毒植物の、種を、打ち込み、ました」

「そうか、因みに毒に染められし種は何という植物なんだ?」

「トウアズキ、です。種に、猛毒が、あります」


テバーが興味津々に「へぇ」と呟く。


トウアズキ。それは青酸カリの約100000倍。


そしてその効果が表れるのは、数時間後――――――




――――――――――――――――――




時は少し遡り。


「いや~思ったより切りがいあったあった」


曇り空、大阪付近の京都の地上にて。


和風の着物を着た魔法少女が興奮収まらずといった様子で刀を煌めかせる。


「……想像よりも強いようですね」


顔に札を張り付けた巫女の女性は札越しに苦笑いをした。


左腕は手首で切断され、その先は何処かへ飛んでいった。


対して和服の魔法少女は無傷。


血の付いた刀を、ゆっくりと構える。


無駄な所の一切ない、ほとんど完成された構え。


恐ろしいほどの魔力のプレッシャーが掛かる。


「――――やっぱり、最後は切れるんだ」


一閃。


辺りがまるで豆腐のように真っ二つになる。


だが既に、辺りには幾つもの切断跡が広がっていた。













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