偏愛非攻
世界が分かれるごとき横薙ぎの一撃。
もの凄い風圧が私を襲い、腕を前に出し何とか風を凌ぐ。
恐ろしい一撃。
「ああ!またすぐ切っちゃったっきゅ!」
ピータが情けない叫びをするほど。
だけど、死神少女の方も予想外だった。
死神少女の前に、例の巨大な巫女服の女性が浮いていたのだ。
変わらず大きな札を顔に張り付けていて、キョンシーを思わせる。
そして、周囲には浮いている何枚かのお札。
……呪術、宮内省の人間しか習得できないとされるものだったはず。
どんどんと疑問が膨らんでいく。
「へぇ、今ので切れないんだ」
私が考える一方で、先輩は刀をブンと振りながらも綺麗なフォームで構える。
「……相手してあげろ。私はああいう戦闘タイプとは相性が悪いんだ」
死神少女が素っ気ない感じに言う。
「それでも勝てるでしょうに……分かりました」
巫女服の女性が構える。
呪術師の構え方。札を片手に、周囲に札を浮かせることで近距離から遠距離まで対応している。
だけど、その構えに対して先輩は興味深そうに薄い笑みを浮かべる。
「切りがいがあっていいね。でも最後は切れるんだ」
「それは叶う事のない希望です」
「ふーん。じゃあ試してみないと」
先輩がそう言うと、瞬間移動を疑うほどの速度で切りかかる。
だけど巫女服の女性は難なく対応した上に、刀を素手で挟んで止めたのだ。
「むむ……切れぬ」
「やはり叶う事のない夢でしたね」
巫女服の女性が煽るように言うけど、実際刀は止められたまま一切動いていない。
「……余計に切りたくなるじゃん」
対して先輩はそれだけ言うと、刀に魔力を込め、無理やり振り抜く。
巫女服の女性は後ろに飛ぶことでそれを避けた。
だけど先輩はそれを許さんとばかりに、魔力を込めた淡く光る刀を最小限の動きで振りかぶる。
巫女服の女性がそれを札越しに受け止める。
二人がぶつかり合う度に、辺りをドン、ドン、と衝撃波が襲った。
「あのような武闘派とは接敵したくないものだ」
死神少女が軽い溜息を吐きながら言う。
それから「さて……」と今度は私の方を見た。
「君はどう行動する?」
戦っている二人が離れていくからか小さくなっていく衝撃音を背景に、死神少女が問いかける。
……先輩は頑張っている。だから、私のやることは決まっている。
「……貴方を、捕まえて、木下副長のところに連れていきます」
魔法少女としてなすべきことをしよう。
だけど、死神少女は興味深そうに首を傾げた。
「ほう。素晴らしい考え方だが、可能であるのかについては疑問があるがね」
自然な煽り。だけど今の私は事実そう感じているから反論できない。
だから代わりに、地上から生やしたツタの鞭をお見舞いしてやった。
だけどツタはまるで死神少女を避けるようにしなった。
「一体どうなってるの……」
死神少女の魔法が一体何なのか。
情報が少ないので予想する以前の問題だった。
私の背中には険しい表情をする二体のマスコット。
「……ミドルミスト、あの魔法少女に勝つのは多分厳しいっぴ」
「そうっきゅね……マスターがさっきの巫女に勝つのを待った方がいいっきゅ」
マスコット達が勝てないと言う。
彼らは魔法少女のプロダクターで、魔法少女について詳しいからよく分かるのだろう。
だけど肝心の先輩は戦闘音が聞こえなくなったことから、私達のところからかなり離れている。
魔力を込めて耳を澄ますと、微かに大阪の方面から激しい重低音が聞こえる。
空の方を見上げると、遠くの雲が何かに切られたような巨大な切断跡。
だけどまた先輩は来てない。つまりはまだ決着が付いていないということ。
「……先輩本当に勝てるの?」
「世界トップの魔法少女だっきゅ。流石にあり得ないっきゅ」
「だけど少なくとも直ぐには来れなさそうだよ」
私がそう言うと、ピータは言葉を詰まらせた。
どうやら巫女の女性の方の実力は測り兼ねているらしい。
「……そっちが来ないのなら、私から軽い挨拶といこう」
痺れを切らしたらしい死神少女がそう言うと同時に、手に持っている白柄の本を開いた。
「さぁ、小説の世界は現実となる」
少女が高らかに叫んだ瞬間、鋭い光を放つ白柄の本。
すると、目を疑うような事が起こった。
レイヤーの不透明度を段々上げるように、空気中に何かが大量に現れたのだ。
それらは全て、ファンタジーの世界でしか見ないような派手な装飾の槍だった。
切っ先は勿論、私。その多さに、思わずたじろぎ息を呑む。
「主人公、君はどう動く?」
死神少女の発言に合わせて、槍は一人でに恐ろしい速度で私へと向かってくる。
「ミドルミスト!防ぐっぴ!」
向かってくる死の大群に、浮いているけど足が竦んでしまう。
だけど自分が魔法少女であることを思い出す。
ここで負けていられるもんか。足の竦みは、すぐに消えた。
「植物の力を舐めたら駄目だよ!空中戦だけどねッ!」
オダマキの杖に魔力をこれでもかと込め、地上から極太の蔦を生やす。
それを私の前に展開した。
次の瞬間、蔦にたくさんの槍がズドンと重い衝撃音を鳴らしながら突き刺さる。
「頼むから耐えて―――ッ!」
マスコットと共に蔦の裏に隠れながら緊張の時を過ごす。
やがて激しい音は静かになった。
「何とか蔦、耐えてくれたみたいだっぴね……」
ルーが安堵の溜息をつく。
私達を守った蔦は穴だらけになっていたものの、ちゃんと役目を終えた。
だけど、私はまだ安心できない。
「まだ終わってないよ」
「――――その通り」
「―――ッ!!」
少女がいつの間にか私達の後ろに浮いていた。
「何を挨拶程度で安堵しているのか。油断大敵とはよく言ったものだ」
再び白柄の本が輝き、今度は私達に向かって単純な魔力の塊が放たれる。
単純な攻撃だけど、込められている魔力の量が恐ろしいものだった。
早くに蔦から離れ、ギリギリで避けていく。
「空中だから戦いにくい!」
思わず叫んでしまう。植物を自由に生やせる地上だったら……と何度も思ってしまう。
「だったら地上に行けばいいっきゅ」
「でもそうしたら相手に上を取られるじゃん!だから浮いてる系とはあんまり戦いたくないのッ!」
「なるほどっきゅ。ミドルミストは地上が得意なんだっきゅね」
背中にくっ付いているピータが一人納得するように頷いているけど、そんな暇はなかった。
次々と飛んでくる魔力の塊を魔法少女の動体視力で何とか避けきるが、やがてそれにも限界がきた。
「もう無理かもしれないッ!蔦ちゃん頑張って!」
余力とかそういうものを考えることを捨て、地上から自身を守るための植物や花を生やしまくる。
太い植物が生えては辺りを覆い、そこから伸びた枝や蔦が魔力の塊を防ぐ。
「薔薇よ!その棘を放てッ!」
蔦達が攻撃を防いでいる間に薔薇を生やし、その枝の棘を死神少女に向かって放つ。
私の対空敵に対する手段の一つである。地上でないと植物が活躍できないからだ。
だけど悲しいかな。
相手には何ら意味のない攻撃だったようで、魔力の壁で一瞬にして防がれた。
「もう!やっぱり質量攻撃が出来ないッ!」
「やはり分が悪いっぴ。ここは引くっぴ」
「それは自分が許せないのッ!」
脳裡を駆け巡るのは、私が魔法少女になったとき。
寂しいからなったというのも嘘じゃない。だけど私は、今では私が魔法少女であることを誇りに思っている。
誇りに思えることが少ないから、許せないのだ。
今度は射出する棘の量を何倍にも増やし、更に速度を上げ放つ。
弾丸のような速度で空気を突き進んでいく。
対する死神少女は、特に動きを変えるなどということはなかった。
「弾丸というのは、得てして逆に向くものなのかもしれない。君はその仮定を考慮したことはあるかな?」
突然よく分からないことを言ったかと思うと、死神少女に向かっていたたくさんの棘が徐々にノロノロとしていき、彼女の前で完全に止まった。
全て、落下さえしない。
そして、止まっていた棘はまるで時間を遡るように今度は私達へと加速を始めた。
その速度は、私が放った時と変わらない。
「――――ッ!」
自身の攻撃が自分に返ってくるというのは今までなかった。
一瞬、判断が遅れてしまう。
「ミドルミスト!幹で防ぐっぴ!」
背中から聞こえる大きな声で、ハッと我に返る。
目の前には空を埋め尽くすほどの棘の矢。
「ッ魔力限界まで絞って防ぐ!」
オダマキの杖にありったけの魔力を込め、間に太く長い幹を生み出す。
先ほどとは違って、カンカンと重い音ではなく空気の裂ける鋭い音が聞こえる。
やがてそれが収まり、私は肺に溜まった空気をふぅぅと吐いた。
「本当に、どんなオリジナル魔法なんだろう……」
魔法少女にはなった時に、個人個人に特有の魔法が発言する。
オリジナル魔法。非常に多種に及び、その強さもピンキリ。
「……君は主人公だ。特別に教えてあげよう」
ふと見上げると、死神少女が優雅に浮いていた。
まるで私のことが敵でないような振る舞いに少し悔しくなったけど、態々教えてくれるのだ。
じっと、死神少女の発言を待った。
「私のオリジナルは、”小説”。小説の世界を現実に実現できる」
そう言いながらゆっくりと開くのは白柄の本。
私はそのオリジナル魔法の恐ろしい力に、思わず息を呑む。
……その魔法は、まるでトップの魔法少女達のようだった。
主人公最強みたいになってますがこの先ちゃんともっと強いのがでてきます




