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魔族の騎士ザルガスと幼女ネルの物語  作者: 沼口ちるの


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第十六話「銀の月夜、母の温もり」

 里帰りから戻ったネルは、どこか寂しげに、けれど大切そうに母の形見を握りしめていた。  その姿を黙って見つめていたモルテが、月が中天に掛かった刻、私を秘密の祭壇へと呼び出した。傍らには、覚悟を決めた面持ちのリリスとゼオラも控えている。


「ザルガス様……そしてネル様。死者に触れるは理に反する禁忌。……しかし、この娘が我らにくれた光に、一度だけ報いねば冥府の神に顔向けができませぬ」


 モルテが古びた杖を叩きつけると、祭壇に集められた銀色の魔力が、暴風となって渦巻いた。死霊術師がその全霊を賭して、一度きりの邂逅を叶える秘術――「追憶の召喚」。


 光の粒子が形を成し、そこに一人の女性が現れた。  穏やかな微笑みを浮かべた、ネルと生き写しの瞳を持つ聖女の姿。


「……ママ?」


 ネルの声が、世界で一番小さな羽ばたきのように震える。  女性は優しく腕を広げた。ネルは弾かれたように駆け出し、実体のないはずの、けれど確かな愛の温もりを持つその胸に飛び込んだ。


「ネル、大きくなったわね。……ずっと、貴女のことを見ていたわ」


 母の手が、ネルの髪を愛おしそうに撫でる。その光景は、戦いの中に生きてきた我ら魔族にとって、直視できぬほどに尊く、眩しかった。  やがて、母の視線が私を射抜いた。


「黒き翼の将軍様……。あの日、絶望の泥濘から娘を掬い上げてくださって、心から感謝いたします。貴方の魂は、誰よりも深く、温かい」


 私は言葉を返せず、ただ拳を握りしめていた。魔族に向けられた、一点の曇りもない感謝。それが、私の過去の返り血に汚れた手を、静かに洗っていくような気がした。


「おじちゃん、ママ……ママがね、おじちゃんにお礼言ってるよ!」


 ネルが泣きながら笑い、私の無骨な手と母の透き通るような手を重ねようとした。一瞬、漆黒の魔力と聖なる光が混じり合い、祭壇が夜明けのような輝きに包まれる。


「ネル。私はいつも、貴女の心の中にいる。……だから、もう寂しくないわね?」


 月の光が翳り、術の限界が訪れる。  母の姿が淡い光となって消えゆく間際、彼女は私にだけ聞こえる、さざ波のような声で告げた。


「……この子を、よろしくお願いします。お父様」


 心臓が、ひしゃげるほどに跳ねた。  将軍でも、死神でも、おじちゃんでもない。その言葉は、私の魂の最深部に、新たな「生」を刻みつけた。


 光が霧散し、静寂が戻る。  ネルは私の腕の中で、全ての荷を下ろしたかのように、穏やかな寝息を立てていた。


 私は夜空を見上げ、もはや隠しようのない震える声で独りごちた。 「……ああ。この命、端からお前に捧げている」


 翌朝。  中庭には、ネルの笑い声と、彼女を追いかけるリリスたちの騒がしい日常が戻っていた。玉座からそれを見守る魔王の視線も、どこか穏やかだ。


 魔族と人間。その奇妙な家族の物語は、今、揺るぎない愛を礎にして、次なる動乱の章へと進み出す。


【第一章 完】

あのね、ネルね、きょう「魔法」でママに会えたんだよ!


モルテおじいちゃんが、すっごく頑張ってくれたの。 ママの体は、ふわふわしてて光ってたけど、抱っこされたらとっても温かかった。 「大きくなったね」って、頭を撫でてくれたんだよ。


それからね、ママ、おじちゃんのことも「ありがとう」って言ってた。 おじちゃん、お顔が真っ赤になってて、ネル、ちょっと笑っちゃった!


ママはまた光の中に帰っちゃったけど、ネル、もう全然寂しくないよ。 だって、おじちゃんがいて、みんながいて……ネル、いま、世界で一番幸せだもん!


おじちゃん、これからもネルのこと、見ててね。 大好きだよ、お父ちゃん!



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