第十一話「最強の騎士、台所に立つ」
戦場で数千の首を撥ねるより、この小さな鍋を監視する方が、百倍は神経を削る。 これは、魔王軍最強の掃討隊長たる私が、ネルのために編み出した「対・幼女用究極兵器」――即ち、特製スープの戦記である。
【選別された資材】
魔界の太陽果(甘いカボチャや人参で代用可): 魔導師が魔力回復に用いる猛烈な栄養素の塊だ。人間には強すぎるため、私の魔力で「毒気」だけを丁寧に抜いてある。
白角牛の濃厚乳(牛乳): これを飲むとネルの口元に白い髭ができる。……リリスがそれを指差して笑うまでがセットだ。
黄金の蜜(蜂蜜): 死霊術師モルテが「脳の腐敗を防ぐ(活性化)」と推奨した逸品。
清められた岩塩: 私の鎧に付着した返り血の塩分ではない。最上級の浄化塩だ。
【遂行工程】
精密なる解体 太陽果の皮を剥く。愛剣を使えば一瞬で細塵にできるが、ネルが「包丁トントンして」と要望するため、私は慣れぬ調理器具を握り、鋼鉄の巨躯を丸めて慎重に刻む。一ミリの狂いも許されん。
熱量制御 鍋に刻んだ果実を投じ、煮込む。火加減は魔力を込めた指先で行う。強すぎれば炭化し、弱すぎればネルが待ちくたびれて床で寝てしまう。時間との戦いだ。
乳化作業 具材が形を失った瞬間、乳を注ぐ。ここが正念場だ。焦げ付かぬよう、木べらを「綿毛を撫でるように」回す。リリスが横で「ザルガス様、それが母性というやつですよ」と揶揄してくるが、私は無言で無視した。
最終奥義:詠唱 仕上げに蜜と塩を加える。そして最後に、椅子の上で身を乗り出しているネルに、最重要の「呪文」を言わせる。 「おいしくなーれ!」 ……この詠唱がないスープなど、ただの液体だ。これこそが、魔界の理を凌駕する最強の隠し味なのである。
あのね、ネルね、きょうはおじちゃんが「とくべつなスープ」を作ってくれたの!
おじちゃん、大きなおててで一生懸命カボチャをトントンしてて、なんだか面白いんだよ。 リリスおねえちゃんが「ザルガス様、お顔がこわいですよー」って笑ってたけど、ネルは知ってるの。おじちゃん、とっても優しく混ぜ混ぜしてくれてるんだよ。
最後にネルが「おいしくなーれ!」って魔法をかけると、スープがキラキラ光るの! お口のまわりに白いおひげができるくらい、いーっぱい飲んじゃった。
ねえ、おじちゃん。 明日も、美味しいスープ作ってくれる? ネル、おじちゃんのスープを食べると、とっても元気になるんだよ!




