第二話
大きな岩々の隙間から流れ出してくる水流をうまく利用し、洗濯を行う。源流近くは水の妖精がかなりの数暮らしているので、洗濯を早く終わらせることができる(魔力の残滓がなくとも水の妖精はきれい好きなので勝手に服の汚れを消してくれる)。ミキヤは水の妖精を視認するための魔法が使えないので、その姿はぼんやりとした青い光にしか見えないが、妖精の姿を視認できるものは幼い少女や少年の姿を見るという。
「今日もありがとな」
ミキヤは洗濯を手伝ってくれた妖精にお礼を言って、魔力飴を一つ川に投げた。魔力飴とは魔力と砂糖を固めて焼いたもので、おなかと魔力を同時に満たしてくれるミキヤが働いているお店自慢の商品だ。川に飴玉が沈んだ瞬間、それまでばらばらに散っていた青い光が川底に集まり、大きな一つの光となった。傍から見ている分にはきれいだが、そこでは苛烈な競争が行われている。いったい何匹の妖精が甘ーい飴玉にたどり着けるのだろう。まるで青春みたいだなと、ミキヤは口に苦いものを感じた。
洗い終わった衣服を持って店に戻る。水の妖精は乾燥まではしてくれないので、外にある物干し竿に衣服をかける。暖かな日差しを浴びつつ、手早く作業を終わらせる。衣服を入れていた竹籠を店の奥の居住スペース近くの物置にしまう。まだ日は高く、時間は十分にある。
物置の扉を閉めて、店に戻ろうとした時だった。
「あ」
ミキヤはなにかぬるっとしたものを踏んでしまった。彼は感触的になんとなく自分が踏んでしまったものが何かを把握した。
多分つるりん系のモンスターを踏んでしまった。ここで説明が入っていしまうが、モンスターとは人に害をなす魔力を持った動物のことである。つるりん系モンスターとは、比較的おとなしいモンスターで人に牙を剥くことはほとんどない、ゼリーのような全身と一頭身が特徴のモンスターたちのことを指す。
やっばいなーとミキヤは思った。
いくらつるりん系モンスターがおとなしいからといって思いっきり足で踏まれて怒らない個体はいない。
「みぎゃん!!」
つるりん系モンスターから聞いたこともないような鳴き声が聞こえた。それはそうだ。いくらゼリーのような見た目をしているとはいえ、特段、物理攻撃が無効なわけでもない。斬撃なんかは大の天敵だ。
しかし今は手元にナイフなどの刃物はない。
つるりん系モンスターが足を上ってきた。まずい、このままだと顔に張り付かれて息ができなくなってしまう。魔力のこもった一撃か、ナイフさえあればこんな魔物一発なのに。
ミキヤは泣きそうだった。小さなころからいくら努力しても劣等生扱いされ続け、挙句の果てに仕事中のほんの些細な不運で俺は死んでしまうのか。彼女もできたことないのに。
ミキヤは抵抗するのを諦め、その場に仰向けに倒れた。
どうせ人間いつかは死ぬのだ。それが今日であっても俺の人生には悔いはない。
つるりん系モンスターはもう首元まで来ていた。