表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

第一話

 この世界では魔法が日常的に使われる。しかも誰でも低級魔法くらいなら義務教育の中で習得してしまう。

 だから魔法の使えない者がこの世界で生きるのはかなり厳しい。

 たとえば、朝、目玉焼きを作るにしても低級火魔法が使えなければいけない。なぜなら薪を燃やすのにいちいち原始人のように木の棒をこすって火種を作っているような時間の余裕はないからだ。低級火魔法を使えば、薪に火をつけるくらい簡単だ。指先を軽くはじき、火を灯し、それを薪に移すだけでよい。洗濯をするにしても低級水魔法が使えなければわざわざ川にまで赴き、水の恵みをありがたく頂戴しなければならない。低級水魔法が使えれば、水桶にたまった水に手を触れ、水流を引き起こし、そこに服を入れておけばよい。あとはきれい好きの水の妖精が人間の魔力の残滓にひかれて魔力の残りかすを食らうのと同時に服の汚れまで食べてくれる。

 ほかにも魔法というのは本当に様々な用途に利用できて、全くもって全世界の人間の生活を全面的に支えてくれている。

 そんな世界で魔法が使えない男がいた。ただ一つの魔法を除いて。

 彼の名はミキヤ。生まれてこの方、治癒魔法以外成功したためしがなく、低レベルな魔法高校を留年ギリギリで卒業した男。年齢は22歳。圧倒的劣等生だった彼は知り合いも少なく、今は親の紹介で雇ってもらった魔法道具店で雑用をさせてもらっている。

 この世界の人間は基本的に低級魔法くらいならば義務教育のうちに習得することになっている。しかしそれ以上の中級魔法、上級魔法、超級魔法、大魔法、魔術レベルにまでなると習得するのには、かなり高度な教育と鍛錬そして才能が必要となってくる。ただ上級魔法使いくらいにまでなれば冒険者や教師、王国兵団など就職先は色とりどりになってくる。だから多くの若者は凄腕の魔法使いになるべく名門魔法大学を目指し、日夜、受験勉強とともに魔法の鍛錬に励む。

 ただし治癒魔法しか使えないミキヤには関係のない話であった。

 ミキヤの学生生活は非常に苦しいものであった。周りの者たちが次々と様々な種類の魔法を習得していくのに追いつけず、ひたすらに劣等感を刷り込まれる日々。どうして自分だけできないのだろうか。どうして自分はほかの人と同じようにできないのか。前世でなにか悪いことでもしてしまったのだろうか。

 答えは見つからないまま、ただ補習と嘲笑と諦観の眼差しを受け続けた。しかしそれでもミキヤは耐え続け、何とか高校を卒業することができたのだ。

 もうあんな所には戻りたくないなと、川で服を手洗いしながら、ミキヤは思った。ちなみに川は基本的に環境保護のために洗濯をすることが禁じられているのだが、ミキヤは森の奥の源流近くで洗濯を行っているため、人に見つかることはめったにない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ