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宙に名を刻め【完】  作者: 壱原 棗
宙に名を刻め
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星の生まれるところ


 Nova認定の儀式は、ネビュラルの迎賓館で行われた。卒業生たちの功績のおかげで勲章に近い位置づけをされており、それは誉れ高い称号なのだ。国の最高機関である人間たちと、王宮関係者が交えて行われる。


「超新星発掘プログラムをすべて修了し、リアン・アスターをNovaに認定します。これからも分野の発展に貢献してください」

「はい」

「あなたの未来に星々の加護があらんことを」


 胸につけられた星を象った紋章が認めらた証。これはゴールではない。この称号を得たと同時にやるべきことを成し遂げる義務があり、大義となる。星々の恩恵を受けるこの国から、新星たちは巣立っていくのだ。

 儀式が終われば、自分のもとへ代わる代わる国や組織の権力者がやってきて挨拶回りに勤しんだ。なるほど、エトが公の場を嫌がるわけだ。勉強している方がよっぽど脳が疲れない。

 リアンが内心ぐったりしながら、隣をちらりと見た。プログラム登録上の後見人はエトになっているため、彼女も隣に待機して同じように挨拶をしている。様々な団体の会長やら委員長など年配の重鎮たちとは独特のコミュニケーションをとっており割と笑顔で対応していた。聞けば彼女が幼いころからの出資者が多いようで、雰囲気は祖父と孫のそれである。


「やあ、リアン。認定おめでとう」

「モーガンさん!いらしてたんですね」

「そりゃあねえ。エトが珍しく何日も前から予定空けとけって連絡寄こすんだから、待ちに待ったよ」

「あ~ダメダメ~それ言わないでよ~!!」


 大方挨拶が終わるころ、離れた場所から長身の男性がにっこりと手を振りながらこちらへやってきた。

 ポコスカとエトに腰を殴られている彼は、彼女と同期のNovaだ。海洋生物関連の研究者でありネビュラルに拠点を置いている。リアンがここへ来た頃は、エトがサポートしきれない部分をモーガンに教えてもらっていたのでアメルス家以外の人物で唯一馴染み深い存在だ。

 エトは暴露されて居心地が悪そうに焦った様子を見せた。軽口を叩き合える仲のようで、同僚の教員たちではらこうならない。


「へぇ~!卒業後はゼレストラードなのか!アラステアはここと変わらないような気候だったから、あったかい服を沢山持って行かないとね」

「向こう出身の同期からさんざん買え、増やせって言われてます」

「異国で初めての一人暮らしかぁ。フィールドワークも多いだろうし、健康に気を付けるんだよ」


 よしよしと撫でられて珍しく整えたヘアスタイルを崩された。このまま移動するし、正直むずがゆかったのでもういいだろう。周りもまばらになっているのを確認して、リアンは首元を緩めて息を吐いた。


「おすすめあったら教えてください。給料出たら買います」

「OK。いくつかお店教えてあげるよ。二人ともこの後どうするの?」

「これから荷物の整理で大掃除なの~~あたしは今日しか来れないし」

「なに馬鹿言ってんの。ほとんどエトの廃屋だよ。僕もそっちに用があるし、終わったら食事でもしよう。お祝いさせて」

「ありがとうございます」

「モーガンありがとー!!」

「エトは一杯だけおごってあげる」

「むう」


 エトとリアンは儀式と挨拶周りを終えたその足で、研究所に向かった。

過ごした年数は少ないものの、エトの宿舎に増えたリアンの私物を整理して、ゼレストラードに送るためだ。こちらのように宿舎がないので、勤め先が管理する住居に住むことになる。とはいってもフィールドワークが増えることが決定しているので”仮住まい”が正しいのかもしれない。ホリデーのために帰る拠点のようなものだ。


「ぜんっぜん無いね!リアンの私物!」

「入学前にもずいぶん移動したし、増えた私物は寮にあるから」

「あたしはむこうにも住んでるのに、なんでこっちにも物が増えていくの~??」

「エトはそもそも二拠点生活なんかできる生活能力がないんだから今の寄宿舎みたいに至れり尽くせりの方がよっぽど健康的になるでしょ」

「なんか最近はドレスばっかり増えてる気がする……毎回父さんたちが買ってくるから」

「適当な格好で行けるところが減ったんだよ。エトはそのくらいすごい人なのにまだ自覚がないの?」

「あーー!これ探してたやつ!こっちにあったんだ!」


 収納スペースを開けては何か言ってるエトを軽くあしらいつつ、リアンは淡々と作業を進めている。生活用品のほぼ全ては寮にあるので、こっちには身分証だったり重要書類が多い。


「そうだ、プロムのディナーは予約した?」

「俺がそういうの興味あると思う?」

「リアンより相手には必要かもでしょ?一人で決めちゃダメ、ちゃんと打ち合わせしなよ~」

「ぐっ」


 クローゼットからあふれた白衣と戯れている彼女にマナーの正論を説かれて、パートナーがいないまま話すことに気づいてリアンは気まずくなった。


「エトも……そうやって準備したの?」

「ううん。あたし未成年だったから、同級生には頼めなくって。パパとママと一緒にパーティーに出たの」

「未成年……そうか。アラステアでもそこまではいないんだな」

「あの時はあんまり興味なかったけど、先生になってから卒業生のみんなが楽しそうにプロムの話してくれるから、あたしもみんなの準備が楽しみなの!!なるべく泣いちゃう子が減ったらいいなって思うんだけど……」


 足元で散らばっている白衣を畳みながら、懐かしむように微笑むエトの姿にリアンは少し驚いた。この人は、こんなに情緒がある人だっただろうか。

 良くも悪くも型破りな人生を送ってきた彼女が、普通の行事を楽しんでみたかったと夢見ている。


「ハ!また学生になれば、プロムに出られるってこと!?」

「怖い怖い!………エトの時間はたくさんの人を救える力を持ってるんだから、物足りなくなった時は……その時はきっとエトを助けてくれる人が現れるよ」

「んん?そうなのかなぁ?」

「それとも今物足りないの?」

「ううん!足りないのはむしろ時間!!もっとたくさん試作出来たらいいのに~!」


 彼女は周囲に導かれるまま早熟し、本質はどうあれ運命は彼女に”駆け足”を命じていたのだろう。湯水のようにあふれ出るアイデアを拾い上げて救うことができるのは、彼女ただ一人なのだから。


「でも、今年はちょっと……ほんの少しだけリアンがうらやましいとは思うよ」


 かつて「天才」と謳われた少女は、他の追随を許さない存在に成長した。両親に手を引かれて卒業したあの日、少女は踵の低い靴を履いてパーティーを眺めていたことを思い出して、エトは心が少しだけ揺らいだことを自覚した。


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