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宙に名を刻め【完】  作者: 壱原 棗
宙に名を刻め
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アメルス研究室

 講師として着任してから数年。ようやく勤務態度が落ち着いてきたエト・アメルスは、研究室に生徒を受け入れることを許可された。それでも技術向上に特化した特殊な形態ではある。

 今は資格試験に向けて最後の追い込みというなのしごき(彼女いわく『ちょっと難しいやつ』)を泊まり込む生徒に与えていた。


「そこの回路組むの丁寧にね。トントントンじゃなくて、パチパチって感じ。付加する術式は通知されて決まってるんだから、落ち着いてやれば大丈夫」

「はい!」

「用途に特定の属性耐性が必要な場合は、素材選びに注意すること」


 試験項目は事前に通知されるため、こちらもある程度対策ができる。あとは本当に苦手な部分を体が覚えるまで叩き込めば大丈夫とエトの持論に従って生徒たちは必死に取り組んでいる。魔術工学部では研究室での泊まり込みも時期によっては常態化するので、もう何日も同じメンバーと顔を合わせているもどうにかしてくる時がある。


「エト先生プロムの日付、ちゃんと覚えてますか?」


 ふと、だれかがそう問いかけた。生徒たちの間で妙な空気が流れる。「ついに聞いた!」というチキンレースじみた何かを感じた。日中のはずなのに、深夜の談話室のテンションである。


「え?次の満月??」

「そんなメルヘンな日数計算してる人初めてなんですけど!!?」

「ん~?18日後だけどあってる?占星術の先生がそうしたって言ってたけど」

「メルヘンじゃない……だと!!」

「うっ、月齢計算なんて忘れた!おれ占星術はもう取ってないし」


 何でもないように言うエトに対して理数的な発想に頭痛に襲われる生徒たち。中でも比較的余裕そうな__蒼玉館の生徒がはてなを浮かべているエトに苦笑しながらあることを聞く。

 

「まぁ、先生も今年は特別なんじゃないですか?とうとうリアン君の卒業ですし」

「そうだね。思ったよりも早かったねぇ、飛び級するとは思わなかった」

「え!先生も予想外だったんですか?」

「学生の成長速度なんて、予測できないことばっかりだよ」


 すばらしいレシーブをたたえる無言の熱気が生徒たちの間にはあった。

 長らくこの優秀な講師に技術の教えを乞いている身として、同学部のリアンとも接する機会は多い。すっかり名物コンビの二人を見ることができなくなってしまうとどこかさみしい気持ちもある。


「先生何着るの?」

「先生はぁ~きみたちがはしゃぎすぎないようにローブ着て見回りですぅ。あ、それ違う。魔力封じの素材を変えて」

「はい!」


 第二部のパーティーになれば寮監の教員はドレスコードに従った正装をしているが、そのほかは学生と区別をするために式典用ローブを着て交代で見回りになる。エトがやることと言えば、監視用のドローンを提供したり操作画面を眺めていたりする。なにせ膨大な学生の数が参加するため、騎士道学部の教員がメインとなって指導に当たっていたが、エトのアイテム導入によって見回りに割く人員がだいぶ減った。


「ほら!楽しくパーティーに参加するために、最後の追い込みがんばろ!!もうすぐピザ届くよ」

「うっわ、サイコー!エトちゃんマジか!!」

「ありがとうございます!!アメルス大先生!!」


 ここに来た当初は教育の難しさを痛感していた。あまりに突飛な勤務態度は他の教員の混乱を呼び、学生を受けもつ条件はそれはそれは厳しかった。

 エトに課せられた条件は【自ら志願してきた学生のみ】最後まで受け持つこと。目の前にいる彼らは、この数年間で彼女の教育者としての資質を見極め、賭けに出た部分もある。やっと持てた自分の教え子たちの気持ちを踏みにじるわけにはいかない。


「せっかくあたしのゼミを選んでくれたんだもん。みんなでパーフェクト合格だよ!!」

「はい、先生!!」


 魔術工学部の日常はこうして今日も怒涛に過ぎていく。

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