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宙に名を刻め【完】  作者: 壱原 棗
宙に名を刻め
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迫る卒業とプロム

◆国名  ※おさらい

・アラステア

 大陸のほぼ中央に位置する小国。周囲を5カ国に囲まれていて交易が盛ん。人材育成に力を入れており、魔術研究の最先端を走る。

・ディーダラス

 大陸の西に位置する。鉱山地帯がある。全ての分野が二番煎じ。魔術は武器などに宿す傾向がある。産業も学問も伸びにくい。

・ネビュラル

 大陸の東に位置する。自治都市。魔法アイテム研究が盛ん。武器や幻獣の捕獲アイテムなどに定評がある。大陸中の図書館を集めた王立図書館や世界一大きな天文台が有名で知識人が多く集まる。観光資源が豊富。

・ゼレストラード

 大陸の北に位置する。大陸最大の国領を持ち、軍事や資本主経済を推し進めるが、国民格差が広がる。宮廷での後継者争いが絶えない。


(by:マニアック会社幻想課 共同世界観企画『アラステア王立学術院』)

 雨期が明ける頃、アラステア王立学術院の最高学年の生徒たちは、卒業認定試験を迎えていた。卒業単位はほとんどの生徒が取得しており、研究論文の提出や資格認定、入隊試験などがこの時期集中している。

 上級生になると実地研修やインターンを兼ねた授業内容が増え、学内にいる時間が減っていく。その間に就職活動や進学に向けての準備期間に入るのだ。


 魔術工学部のリアン・アスターは、同い年の生徒たちよりも一年早くこの場所を巣立つ予定である。残りの学生生活は研究テーマに奔走していたら、あっという間に過ぎ去った。

 発表と提出はネビュラルの機関にも報告され、無事にNova認定を受けることは決まっている。その流れで、ゼレストラードの研究機関から声をかけられており、卒業まではもっぱら三拠点を行き来して準備を整えていた。


 進路先からは、サマーホリデーをフィールドワークに充てることをすでに告知されており、時期をずらして休みが設けられていることに感動してしまった。ネビュラルの研究者たちは仕事と趣味の境目が曖昧な人間が多く、休みもまばらなことを知っていたから。


「だからダメだってば。キミはまだ5年生でしょ」

「だぁってズルくないですか?上級生だけなんて!!」


 魔力鉱物学教授の研究室で定期レポートを提出しに訪れたら、ゼミの後輩につかまった。教授は不在だったため、ついでにサンプルの整理をしていたら、後輩が入ってきて雑談をしていたらプロムの話題になった。いつの間にか教授も戻ってきておりひさしぶりにダラダラと長居してしまっている。


「ずっとそうなんだから仕方ないでしょ。いずれキミの番が来るようになってるし」

「けど!リアン先輩とご一緒できるのは今年だけじゃないですかぁ~~」

「ご一緒って……」

「リアン先輩とエト先生がダンスしてるところが見たいだけなのに!!!」


 オレンジがかった明るい茶髪の三つ編みを耳の後ろで揺らしながらぐいぐいとジャケットの裾を引っ張られる。作業を止めないまま背中越しでわんわん騒いでいるのは、琥珀館5年生のメイプル・ヒギンズ。彼女も魔力鉱物学を取っているようで、ここで鉢合わせるうちに懐かれた。


「俺、先生とダンスするつもりないんだけど……」

「私知ってるんですからね!各学科の首席生徒たちが、最初のダンスをするって!もう逃げられませんよ」

「じゃあメイプルを誘ったら俺と踊ってくれるの?」

「先輩が!!私と踊るのは!!解釈違いです!!」

「……難儀な子だなぁ」


 卒業前のプロムパーティーには、7年生以上の上級生に参加が許されている。パートナーとして同伴する下級生に限り参加することができるのだ。だからこうしてプロムの前は、憧れの先輩に告白するという浮足立ったイベントが多発している。

 それは生徒間だけにとどまらず、寮監のナルムクツェ先生はこの時期いくつもの意味で忙しそうでピリピリしていた。


 アラステア王立学術院では人数が多いため、卒業式とは別に特定の成績優秀者への賞授与が行われる第一部と、学生主体で運営される一般的なプロムパーティーの第二部に分けられる。メイプルが言う”ダンス”は第一部に行われる社交ダンスであり、少し格式高いものでもある。


「プロムのパートナーも大事だけと、タキシードの準備は大丈夫?色合わせとか……」

「色?去年進級祝いにアメルス夫妻に何着かいただいたものがあります」

「キミがこれからそういう場にも呼ばれることを見越してだね、良い方々だ」

「今から写真をくれのアピールがすごいです」

「はは!それは期待に応えないとだね、僕も楽しみだ。パートナーと色合わせはきちんと打ち合わせするんだよ。毎年ケンカする子たちが後を絶たない」


 教授はどこか遠くを見て肩をすくめた。「私も学生時代は準備に苦労してね」と困ったように笑う。プロムでは様々なマナーが存在するが、それらを完遂するかどうかはペア同士に委ねられる。

 ドレスとタキシードの色味を合わせたり、コサージュの花をセレクトしたりするのは恋人同士や恋人未満の関係性であればそれはそれは重要イベントになる。それをじわじわと目の当たりにするリアンは頭を痛めていた。



「アラ。琥珀アンバーコンビの漫才はもう見られないのねン」


 キラキラとした鱗粉を時折振り撒きながら自由に浮遊していた晶食種しょうしょくしゅのイオンが、いつの間にかメイプルの頭にちょこんと座って肩をすくめていた。


「も~イオンさん!なんで私も『アンバー』なんですか~?確かに琥珀館の寮生ですけど、私のブルーアイはチャームポイントなのに!」

「デレクの教え子以前の問題ねン。あなた希少価値でしか鉱物を見ていないもの。ねぇ、シロップちゃん♪」


 おそらくイオンは琥珀が樹液をもとに化石化した鉱物であるため、彼女の名前とかけてそう呼んでいるんだろう。メイプルはそうとも知らずに自分の目を指さしてイオンに主張した。彼女はトレジャーハンターを夢見て学術院で勉強に励んでいるが、鉱物学はあくまで希少価値を学ぶためで、細かい知識などがさっぱり頭に入らないのだ。


「んん~!鉱物はキラキラしてて高く売れて好きですけど、分類覚えるの難しいんですってば」

「メイプル、錬金術の成績いいもんね」

「まぁ、それ以外の価値を正しく学んでほしいところではあるよ。キミの夢にも関わるところだからね」

「わかりましたよう」


 そんなメイプルの泣き言に苦笑しながら教授が彼女の頭にテキストを乗せると、彼女は渋々それを受け取った。


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