23 ひょっとして…… 胸が気になるの ?
里の皆が集まって食事とお酒も振る舞われ楽しく盛り上がったお披露目の宴会も夜半まで騒ぐようなことは無くて次第に静けさを取り戻した。
いつもなら僕はダークウルフとのお風呂タイムだけど、この日はリディアが訪れて少し変わったようだ。
僕がお風呂に行こうとするとリディアとリリホとルイ、更にゴブミとレミもやって来た。
宛ら騎士団に囚われた犯罪者のように、周りを囲まれて風呂場へと連行されたのだ。もちろん連行されるようなイヤな感じではなかったんだよ。寧ろ、美しい女性と一緒でわくわくドキドキ感で溢れてるのが隠し切れないほどだった……
いつもはスラクと一緒にダークウルフをゴシゴシと洗って入浴するけどね、今日は、イヤ、今日からは彼女たちも一緒にウルフたちを洗ってあげるのだ。
僕の可愛いリディアと一緒にウルフをゴシゴシするんだ。なんて楽しいのだろう ?
このひとときが永遠に続けばいいのになぁ。
しかし僕の最大の問題は隣にいるリディアをまだ恥ずかしくて、まじまじと見ることが出来ないということなのだ。
愛する妻だというのに、僕はウルフやゴブ人とばかり仲が良くて、人族とはキスや恋愛どころか手を繋ぐのも危ういものなんだよね ! トホホ !
恥ずかしながらも顔はチラチラと見たけれど、お風呂に来たらやっぱり胸が気になるのだ、胸が !
だってタオル一枚なんだよ、ドキドキしちゃうよ !
まずはチラ見に挑戦だ !!
彼女のそれはまだ直接見たことは無いけれど、細身のきゃしゃな割にはそれなりにご立派であられる。……気がする。
旦那様なら見る権利があるはずだけど、シャイな僕には未だにチラ見ですら確認できて無いのだ。やっぱり女性からしたら、じろじろ見られるのは気分が悪いものだろうなぁと思えてね……
こんなことで嫌われたら大変だ。細心の注意を払ってミッションを遂行しなければならないのだ !!
良ーーーーし !! 成功だ !
うぬぬっ しかし、タオルで全然見えないのだー !
こうなればもう一度 !
あうっ、ヤバい、リディアと目があってしまった。
……………っ
「リョーマ、ひょっとして…… 胸が気になるの ?」
ぶはーーー !! イカーーン !! 何故だ ? 何故にこのリョーマ様の完璧なるミッションに綻びが生じたのだーー ?
どうするんだ ? 何か違うものを見ようとしたことにするべきか ? それか、どうにか見てなかったということにできないか ? ダメだーー ! できない、リディアに嘘なんてつけないよーー ! ⤵⤵
「うっ、うん。恥ずかしいけど、気になってしょうがないってとこです」
もう、僕に残された道は素直に罪を認める以外に無かったんだ。
「私も恥ずかしいから、ちょっとだけだよ」
はえ ???
空耳ではありませんよね ?
良いのだろうか ?
確実に否定か罵られると思っていたのでリディアの言葉が耳から入って理解に到るまでに、ウルフのように三回くらい首を傾げてしまったよ !!
今、ちょっとだけと言いましたか ?
なんという奇跡 ?
チラ見を越えてガン見しても良いということなんでしょうか ?
おおーーー リディア !!
僕の女神様よーーーーー !!!
僕の心の準備が整ったのを読み取ったリディアは恥ずかしそうにうつむきながら少しだけニコッと微笑んだ。そしてゆっくりと少しだけタオルをずらして、ホンのすこーし見せてくれたんだ。
それは吸い込まれそうになるほどの究極に白い美しさで、緩やかな曲線を描いていたのだ。素晴らしい、なんという美しさなのだろうか ?
まだ青いリョーマの目に写ったそれは至高の美術品のようで、すっかり見惚れてしまった。
「とっても恥ずかしいけど、リョーマになら…… 」
すると、そのやり取りを聞いていたゴブミが我慢しきれない感じで対抗心を剥き出しにしてしまったのだ。
「ボスーーーーーー !! リディアが恥ずかしいなら私がいっぱい見せてあげるよ~」
ゴブミはタオルをすぱっと脱いでスッポンポンになろうとした。
「はいはい、ゴブミ、ストーープ ! ストーーープ !!」
リリホが止めに入ったけど、何故に ?
止めないでよ ⤵⤵
良いじゃん ?
ババーンとやってくれよーーー !!
フルで見たいんだーー !
「ゴブミ ! 今ね、リョーマとリディアが愛と性の狭間で盛り上がってたところなんだからね、邪魔しちゃダメでしょ ! それにね、ゴブミのそれじゃあ殿方には刺さらないのよ !
バーンと出して、ハイどうぞ ! ではダメなのよ。分かるかしら ?」
「ほえっ ?」
「……そうね、チラッと見えるか見えないかで、イヤッ、見ないで、と言って見せるのよ !」
ふーむ、なるほど~。言われてみればそうかも知れぬのぅ。しかしリリホ、お前いったいどこのおやじに教えて貰ったんだよ ! おい。
「う~ん、見ないでっつって見せるのか ? 分かりやした ! 師匠~ ! 練習するね !」
何はともあれ眼福でした。そして、バタバタしたけれど楽しく過ごすことがてきたよ !
その後、リディアは僕の隣の部屋に入る事になったんだ。そしてその両隣の部屋にルイとリリホが入った。
「新しいお部屋ね ♪♪♪ 素朴でシンプルで実用的。私好みよ !」
「気に入ってもらえて良かったー ! 小さな一人用の部屋だから僕と隣通しで良いのかな ?」
「う~~ん、それは寂しいかなぁ~ ……うん ‼」
リディアはナニか閃いたようだ ! するとこんな ""二人の愛をを阻む壁があってはいけない"" という大義名分の元に、何だかものスゴい魔法によって僕とリディアの部屋の間の壁は一瞬で消えたんだ。
どういう仕組みか分からないけれど彼女の可愛らしい手からビームみたいなのが出て、ミユミユミユと壁が消えました。 ハイ !! 恐い魔法です。
だけれど僕達の間を阻む物が無くなってとても嬉しかった。自然と二人のムードは盛り上がったんだよね。
「君に出逢うことができて心から感謝したいよ。こんなに素敵な女性と一緒にいられるなんて、どれだけ幸せなんだろう ? 」
「私も幸せよ !」
リディアは不思議な少女だった。ホワイトドラゴンという人とは隔てられた存在なのに、僕と良く似ていて凄くシンクロしている気がする。
それでいてお互いのオウトツは自分たちの弱点を相手の長所で補い合っているような気さえするんだ。
僕とリディアは自然と抱き合いキスをした。
僕の魔力とリディアの魔力が混ざり合うように全身を駆け巡り、頭の芯が痺れるような… 今まで感じたことの無いような心地好さだった。
それは彼女も同じだったようで、僕らはゆっくりとお互いを確かめ合ったんだ……
翌日
二人は共に清々しい朝を迎えた。
リディアと一緒に部屋から出ると、最初にモフモフウルフの洗礼を浴びた。
彼らは新しくやって来た僕の大切な伴侶に、とっても良くなついてしまい、すぐに受け入れてくれたんだ。
リディアが大好きなご主人様と、自分達を惹き付けて止まない魅力的な雰囲気がどこか似ていると感じ取っていたんだ。
二人はモフモフに囲まれながらも溢れんばかりの幸せを噛み締めていた。
「リディア、今日は何をしようか ?」
「う~~ん、そうね。私、久し振りに街に行ってみたいわ。これからは人の姿の時が多くなりそうだから、シャツとか下着とかが足りないかな ?」
僕はボルトなどの、人との対立や裏切りによって心に傷を抱えた為に、町から逃げるようにして来た経緯があったんだよね。
彼女に言われて少しだけ不安がよぎったけれど、それよりもリディアや仲間と一緒に町へ行きたいという、期待や楽しみの方が大きい事に気が付いた。
苦痛でなく楽しみに感じたのだ。
僕は壁を越えたのかな ?
僕はリディアを軽く抱きハグをすると、複雑な喜びの気持ちも込めて「ありがとう」と言った。
あんなにドギマギしていたハグも嬉しい気持ちにはなるけど、そんなに恥ずかしがらず自然にできた。一歩前進かな ?
「これは私からプレゼントよ !」
リディアが手渡してくれたのは特に何の変鉄もない白い袋だった。
「魔法の袋よ。空間魔法はちょっとだけ得意だから、たくさん入るように頑張ったからね❤」
「ありがとう、大切にするよ !」
普通の袋に見えるけど何だか凄そうなアイテムを貰ってしまった。
町には側衆とコタローと一緒に出掛けることにした。
当然のようにダークウルフ達が付いてきたものの、森から出るのはちょっとマズイよね !
ウルフたちは仕方なく、とっても未練がましそうに僕達を見送ってくれた。クンクン、クークー言って可愛いのだ。
僕も残念だけどコイツらが町に来たら大パニックだ。考えるだけで恐ろしい。
心を鬼にして別れたんだ。
やがて町に入った。少し緊張したけど大丈夫だ。
「美しい街並み。オレンジと白色が相まって、ステキね~」
「うわああーーー すごーーーい !!! ワタシ、町なんて初めてよー !」
「そうだね。うちのゴブ人たちにとっては初めてだね」
「そうだゴブミが完全に人に見えるように変化の魔法を掛けておくわね !」
「えー、そんなことできるのー !」
「リリホも素養はあるんだから、頑張ればできるんじゃない ?」
リョーマ死亡説も出ているそうなので、僕は一度ギルドに顔を出しておくことにしたんだ。
久し振りにギルドの扉を開けると、見覚えのある光景だった。
「おいおい、リョーマ久しぶりだな !」
「元気かよ ?」
「うわっ ! 化けて出たな ?」
知り合いの冒険者から次々と声を掛けられ軽く挨拶を交わす。
顔を合わせるとものすごく驚いた顔をする奴も居て、やっぱり半分死んだことになっていたようだ。
それは良かったのだがすごく苦手な人がいた。ボルトと仲の良いモーリーというBランクパーティーの戦士だった。
当時の僕なんか軽くしのぐ力の持ち主で斜め上から絡んで来て、言いたいことをズケズケと言ってくる、面倒でイヤなヤツなのだ。
「おう、リョーマ。死んでなかったのか ? ルイとスゲー綺麗なねーちゃん連れてどーした ? 俺に譲ってくれるのか ?」
「………。」
「私とリョーマに勝てるならね !」
何て答えようかと考えていたら、すかさず横からリディアが答えてしまった。えっ ? そんなにあっさり ?
まあ僕はともかく、リディアに勝てる人はちょっといないだろうから良いけどね。
「えっ、良いのか ? ねーちゃん。俺の事知らねーみてーだなー。良ーし、運がむいてきたぜーーー !! 可愛がってやるからなぁ」
モーリーはリディアの美しさに目が眩んで完全に先走っていた。
一刻も早く彼女をものにしたいという気持ちに、完全に支配されていたんだろうね。
ギルドの中なのに、スゴい勢いで僕に殴り掛かって来たんだ。