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第2話 変わった世界

ガタン!


一夢(かずむ)の乗っていた自動車が、道路のくぼみに通りかかり、大きく揺れた。


景色は目に映っているだけで、ぼんやりとセンターのことを思い出していた一夢は、自動車の揺れで、はっ、と我に返った。


「ごめんね。大丈夫?」

ハンドルを握る天野(あまの)が、一夢に謝った。


昔と比べて、舗装されている道も随分と傷んでしまっている。


一夢が乗る車には電子装備らしきものが見られるが、そのうちの一つも動いている気配は無かった。

スピードメーターやタコメーターも、電子パネルらしきものはあるが、全て点灯してはいなかった。



今から19年ほど前の2050年からの約10年間、人類は「カタストロフィ」と呼ばれた自然災害を経験し、さらに全ての電子機器を喪失した。

これまでの理解を超える速度で地球磁場の極小化と太陽風の極大化が同時進行し、そのまま定着、強大な太陽嵐が恒常的に発生するようになった。

さらに未確認のエネルギーによる電磁波や電子機器動作への干渉が確認され、それが地球表層全てを覆いつくしたようであった。

そのため正確には、電子機器は依然として存在する。

存在するが動作することはない。

小さな玩具から人工衛星まで、全ての電子機器が動かなくなってしまったのだ。


わずかに、機械的機構・・内燃機関や蒸気機関などは稼働していた。

しかし、電子的器具は一切が動作することができない世界に変わってしまっていた。


さらには、太平洋に巨大な大陸が現れたが、影のような、漆黒のオーロラのような壁に塞がれ、それが世界各地の沿岸部から、まるで恐怖の象徴のように、暗黒が彼方の空を覆うかのように見えていた。

またこの過程で、人類の持つすべての大量破壊兵器、及び核燃料が文字通り失われたが、その原因は謎が多い。


大陸の出現を含むカタストロフィにより全世界で巨大な津波が発生し、海面は恒常的に大きく上昇し、地球上の多くの島々が海に飲まれることとなった。

日本もその例外ではなく、複数の諸島が岩礁となり、全ての砂浜が海岸線に没した。

これらに呼応するように、全世界の火山活動までもが異常に活発化した。


これらの経緯を経て、人類はそれまでの国家統治をほぼ失い、全世界的に旧文明レベルの社会統治システムへ後退した。

さらには、特に地続きではない土地では、通信及び人・物資の往来が極めて困難となり、孤立した。

その典型は、旧日本であった。

日本は過去の鎖国時代以上に、海外との情報・物資の伝達が些少となり、国内の新興勢力同士の争いが増えていった。(一部は海を越えた往来を妨害する勢力もあるようであった)

この国内の争いの様は、まるで時代が戦国へと遷り変わるかの様相であった。


しかし、この世界は人間同士の争いのみで終わることがなかった。


この全世界的な崩壊の中で、人類はさらなる試練に直面する。

人類を捕食対象とする、「特異生物」と呼ばれる未確認生物が大量に発生したのである。

2069年現在では、確認されているのは「自走植物」と呼ばれる、自力での走行と人間に対して物理的な攻撃を行使することができる植物型特異生物、及び「合成型動物」と呼ばれる、動物食性で植物型特異生物と同様に人間に対して物理的な攻撃を行使する獣型特異生物であった。


植物型特異生物は、体高が1~2mほどで、体幅と体長が1mほどの大きさであった。

その外見がウツボカズラに似ており、その根に見える部分はウネウネと動き自走し、蔓は筋肉を持つかのように動き振り回された。

自走植物は、その外殻の強度、移動の速度は、人間が相手をできるレベルではなかった。

人間が鉄パイプを持って殴りつけたとしても跳ね返され、全力で走って逃げたとしても、すぐに追いつかれてしまい、蔓のひと振りはコンクリート塊程度であれば破壊してしまうほどの威力があった。

当然ながら、人間にとっては確実に致命傷となった。

人間は根や蔓で捕獲され、蔓で締め上げられ、殴打され、そして捕食された。


獣型特異生物は、体高が2~3m、体幅が1~2m、体長が6~10mにもなった。

狒々(ひひ)の顔と虎の身体を持つ、人類が知る複数の動物を合成した姿・・キメラ的様態・・であったが、その身体能力は、過去世界で人類が知る獣とは一線を画し、極めて強靭なものであった。

その爪は小型家屋を一振りで半壊させ、その牙は鋼鉄に穴を穿つほどであった。



ここに至り、人類は、自らが霊長としての存在ではなくなったことを悟った。

文明を失い、捕食対象となる、自然界の食物連鎖の「頂点ではない一部」に組み込まれた存在となったことを理解した。


人類は、自然の猛威と新たな天敵からの脅威によって――そしてそのような中に於いてもお互いに争いを続け、自らを追い詰めているようでもあったが――、約3割の人口を失っていた。

しかし、世界を覆う情報ネットワークは全てその機能を失っているため、人々は自身の目に見える範囲を超えた世界が、今どうなっているのかを知る由は無かった。

ただ、自分の目の前にある凄惨な世界を見つめるのみであった。



人類は自らの滅亡をも想像し始めていたが、ひとつの光を見出しつつもあった。

特異生物との対峙の中で、人間にも「特異な能力」を持つ者が現れ始めたのだ。

その能力の由来は未だ分からない。

だが、力を持つものが、現に存在する。

人々はその者達に尊敬と畏怖を捧げた。


その能力は「(さい)」と呼ばれた。

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