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おっさんはJKギャルを招く

「今晩……泊めてくれない…かな。」


「………いや、何言ってんだお前。頭大丈夫か?」


夜のコンビニ前。

緊張した面持ちの金髪ギャルの言葉に、俺は隠すことなく眉を顰めた。


「だ、駄目?」


「美人局なら他でしろ。てか、まさかさっきの奴らが仲間だったりしねぇよな?」


ヤンキーから助けた未成年ギャルを家に泊めたら実はヤンキーもグルで美人局してました……なんて妄想が広がった。


「は?なにそれ、意味わかんない。」


呆けて首を傾げている。

何かを隠したり騙そうとしているようには見えない。

どうやら俺の妄想は見当違いだったようだ。


そもそもあのヤンキー達が仲間だったところで、もう一度俺の前に現れるかと問われたら、それはないだろうと思う。

少し強めに痛めつけたし、去り際の怯え方から考えても、再び対峙してくるとは思えなかった。



「いやすまん、忘れてくれ。」


「あっそ。……それで、泊めてくれないの?」


「そりゃそうだろ。」


「何でよ。」


「見ず知らずの奴を家に泊まる程、セキュリティーの甘い人間じゃねぇよ。それが女で、しかも未成年とくれば尚更な。」


「ん…そっか……」


あまり食い下がるつもりはないようだが、困ったように眉を寄せてやや俯く。



「家には帰れないのか?ここから遠いとか?」


「そんなに遠くない………けど、帰りたくない。」


俯きがちにポツリと零した言葉。

しかし、そこには確固たる意志があった。

おそらくこいつは本当に帰らないのだろう。


その様子に、俺は小さく溜息を落とす。


友達(ダチ)の家は?ギャルなんだから、友達くらいいるだろ。」


「それ偏見じゃん……頼れるところはもう連絡したけど、今日は無理だって。」


「そうか。ネカフェとかビジホに泊まるってのはどうだ?」


何で親身になってこんな案を出してんだろうな、と思う。

んじゃ頑張れよ、と言って帰る事もできたのに。



「お金払って泊まれそうな所は、ほぼ確実に年確されるから無理。最近、そういうの厳しいみたいで、下手したら通報されるし。」


「マジか……どうすっかな……」


面倒な状況だな。

後頭部を掻きながら悩んでいると、ギャルが不思議そうに俺を見ていた。



「……何だよ?」


「何でそんな親切に考えてくれてるの?」


それはつい先程、俺も抱いた疑問だった。


「………何でだろうな。」


俺だって知るか。

昔からこうなんだよ。

ほっとけば良い事でもほっとけない。

面倒は嫌いなのに、気づけば周りから世話焼きな奴だと思われていた。


人間は誰しも二面性を持っているのだろうが、俺の二面性はそういうところに表れていた。



「……そんな事より、どっか泊まれそうな所はないか?」


どうでも良い事だと首を振り、建設的な話をしようとする。


「ない。友達の家は無理だし、ネカフェとかも無理だし。だからおじさんの家に泊めてもらおうとしたんだけど。」


「いや、それはありえないだろ。というか、お前ももう少し危機感持てよ。何で会ったばかりの男の家に泊まろうとしてんだ。」


「おじさんなら大丈夫かなって。」


「何だそれ。」


ギャルは疑う様子もなく俺の目を見てくる。

本当に綺麗な瞳だ。


「大人を簡単に信用するもんじゃねぇよ。お前みたいなのは尚更な。」


「私、これでも人を見る目はあるんだよ。男の変な視線とかには敏感だし。」


その自信はどっから来るのか。

まぁ、これだけの美人なら下心を持って接してくる男は数えきれない程いるだろうし、劣情の視線だって毎日のように浴びているだろう。


こいつの言っている事はあながち嘘でもないのかもしれない。




「だとしても男の家はやめとけ。誠実そうな男でも、状況が変わったら人が変わるな事もあるだろう。」


ちなみに俺は誠実そうな男ですらない。


「ん……わかった。」


案外聞き分けの良い奴だ。

根が素直なのだろう。


「でも、本当に行くところないよ。野宿の方が危険でしょ。」


「そりゃそうかもしれんが。」


「お願い。今晩だけで良いから。もう時間もないし、おじさんしか頼れないの。」


縋るような眼差し。

俺は腕を組んで眉を顰めた。



見捨てるのは簡単だ。

だが俺の気分がこの上なく悪くなる。

そして助けるのは簡単なようで難しい。

一人暮らしのマンション住まいだが、そう狭い家でもないし部屋は余っている。

だが未成年誘拐でお縄になるような事になれば洒落にならない。


見捨てるべきだ、と理性が告げる。

大人らしい正論でこいつを諭し、家に帰らせるか警察に通報する。

その後、こいつがどうなろうが知った事ではない。

俺が逮捕されたり、彼女が何かの危険にさらされるよりよっぽどマシだと思う。



だが、こいつが帰りたくないと言った時の表情が脳裏を過ぎった。

大人には大人の、子どもには子どもの悩みや考えがある。

こいつはこいつなりに色々考えて家出をしているのだろう。


それを無視するのは簡単だが、俺の本能はそれを是としなかった。




俺は深く溜息を零し、頭を掻いた。


「……いくつか条件がある。それを守ると誓えるか?」


俺の言葉に目を丸くしていたが、やがてそこに希望を見出したのだろう。

綺麗な瞳をキラキラと輝かせて、強く頷いた。







「へぇ…ここがおじさんの家か。一人暮らしにしては結構良いとこ住んでるんだね。」


「まぁな。」


誇るでもなく謙遜するでもなく、淡々と頷く。

事実、俺はそこそこ良いマンションに住んでいる。

15階建ての12階、その角部屋で間取りは3LDKだ。

一人暮らしとしては分不相応だが、仕事がいい感じに安定してきた為、将来を見据えて思い切って買ったのだ。


3部屋の内、1つは自室、1つは書斎として使っており、テレビはリビングに置いている。

しかし俺はあまりテレビを見ない為、基本的には自室か書斎で日々を過ごしていた。

空いている1部屋はただの物置となっているが、保管する物もほとんどないので、単なる空き部屋となっている。



「おじさん、結構お金持ちなんだ。」


どこか揶揄うように目を細めるギャル。

俺は顔を顰めて返した。


「そんな大したもんじゃねぇよ。たまたま仕事がうまくいっただけだ。」


「ふーん。お偉いさんなの?部長?」


この女の中ではお偉いさん=部長らしい。

社長と言わないところが俺への評価を表している。


「偉くはねぇな。そもそもサラリーマンじゃねぇし。」


「まぁそうだよね。平日なのにスーツ着てないし髭生えてるしおじさんだし。」


おい。


「おじさんは関係ねぇだろうが。」


「それで、何の仕事してるの?」


無視かよ。


「……作家、だな。一応。」


「作家?おじさん物書きなの?」


目を丸くするギャル。


「何故言い直したか知らんがそうだ。」


「へぇ……売れてるの?」


「そこそこ、だな。」


「ジャンルは?」


「ミステリー。」


「渋っ」


「そうか?」


そうか。


「本の名前教えてよ!」


そう言いつつスマホを取り出すギャル。

検索する気満々だ。


「まぁ、そのうちな。」


「えー」


何となく気恥ずかしくなってはぐらかした。

不満げな顔だが取り合わない。


「それより、ちゃんと親には連絡したんだよな?」


「勿論。てかお父さんに電話してるの見てたし聞いてたじゃん。」


「いや、まぁそうなんだけどな。」


一応の確認というやつだ。





俺が掲示したこのギャルを家に泊める条件は3つ。


1つ、家族や知人を含め、俺の家に泊まる事は誰にも教えないこと。

どこから話が漏れるかわからないので、保身の為にこれは絶対必要な事だった。


2つ、親に外泊の許可を取ること。

友達の家に泊まるとか理由は何でも良いとして、とりあえず保護者が警察に捜索願いを出すとかそういうのだけは避けたかった。

幸い、親に連絡する事すら嫌がるという事はないようだった。


3つ、家に帰りたくない理由を話すこと。

何も聞かずに泊めてやるなんて馬鹿のする事だ。

こいつの親に倫理的、あるいは法的な問題があるのかもしれないし、こいつ自身にそれらの問題がある可能性も無きにしもあらず。

親に連絡を取れた時点で薄い線ではあるが、とにかく事情も知らずに泊める事はできなかった。






「さて、それじゃまずは話を聞かせてもらおうか。」


「こういう時は『先に飯にするか』とか言うんじゃないの?」


「面倒な話は先に片付けた方が良いだろ。そんなに長い話になるのか?」


「ううん。探せばそこらへんにあるような話だし、そんなに時間はかかんないよ。」


自虐的な薄い笑みを浮かべる。


「…そうか。なら良いな。」


「うん。でもその前に、自己紹介でしょ。」


……そういえば、まだこいつの名前すら知らなかった。

よく家に連れてきたな、俺。



「…そうだな。俺の名前は鬼木政信(おにきまさのぶ)だ。」


「何か強そうな名前だね。てか強かったね。何かしてるの?」


あのカリアゲをのした時の事を言っているのだろう。


「小さい頃から柔道をやっててな。そう大したレベルでもないが。」


「へぇ、柔道……お父さんと一緒だ。」


「ほう、親父さんは柔道家なのか。」


「うん。お父さんも子どもの頃からやってたんだって。今は仕事が忙しくてあんまりしてないみたいだから、柔道家って言って良いのか知らないけど。」


「そうか。」


「それより、歳は?」


「今年で30歳になった。」


「……えっ、嘘!?」


目を剥いて驚いている。


「40歳くらいだと思ってた……」


ポツリと零れた本音。

よく言われるよこんちくしょう。


「老け顔で悪かったな。これでもちょっと前までは20代だったんだよ。」


思わず拗ねるような態度を取ってしまった。


「あっ、ごめんごめん。でも私、おじさんみたいなダンディなの嫌いじゃないよ。」


要らないフォローだ。

ダンディより爽やかと言われてみたい。


「はいはい、お世辞は良いから。次はお前な。」


「お世辞じゃないんだけどなぁ……」


ブツブツと言いながら、彼女はコホンと咳をした。



「私は星宮麗華(ほしみやれいか)。17歳の高校2年生だよ。」


どこぞの制服を着てる時点で高校生だろうとは思っていたが、やはりそうだったようだ。

口調は女子高生らしくやや幼いところもあるが、見た目や喋り方なんかはクールな感じだ。

洒落た服を着れば大学生と見せかける事は十分可能だろう。


「お嬢様っぽい名前だな。」


「実際、お嬢様といえばお嬢様なのかもね。これでも社長令嬢だし。」


なぬ。


「お前の親父さんは社長なのか。」


「成り上がり者だけどね。」


実の父に対してその言い方はないだろうと思うが、そこには父に対する侮辱の色はなく、むしろ尊敬している様子だった。


「お前が家出したのはその親父さんと関係があるのか?」


「ん、まぁね。…てか、自己紹介したんだから名前で呼んでよ。」


「……星宮?」


「何でそっち?」


違ぇの?


「他に何て呼ぶんだよ。ギャル?」


「いや、それ名前じゃないし。レイカで良いじゃん。」


良いのか。



「そうか。なら麗華、だな。」


「うん、よろしくニッキー。」


なにそれ、宇宙人か?


「何だそれ?」


「鬼木だからニッキー。」


「略したのか。」


「略した。ギャルだから。」


ギャルぱねぇな。

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