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ブレイキングワールド  作者: キィ
episode1ー始まりの大地
8/19

7ー薬師とその弟子

 行く先はルナが知っていると言った、薬師の住う魔法薬店。

 そこは、町の通りから少し外れた、薄暗い雰囲気を放つ場所に位置する。

 三角屋根が目立つその家は、確かに薬草屋『クサギリ』と書いてあるが、全く人気(ひとけ)を感じられなかった。


「こんなところに、本当に人がいるのか?」


 イナズマはそう言い放ち、疑問を隠さない。

 失礼などと言う意識は無く、思ったことを口にする。


「うん、いる」


 何の疑問も抱かないルナは、その身をすっぽりと包むローブごと頭を動かして頷く。

 そんな中、ギルフェルトは記憶を頼りに思い出す。


「ここ、知ってる!」


「本当?」


「うん。僕の知り合いも、ここで薬師の見習いとして住み込みでいるから、前に何度か顔を見せに来たんだよ」


 思い出されるのは、過去の記憶。

 そう言えば最近顔を出していなかったなと、不意に思った。


「凄い偶然」


「そうだね」


 全く、よく状況が重なるものだと互いに驚く。

 そんな中、1人取り残されるのはイナズマ。

 その会話に置いてけぼりの彼は、身体が先に動いた。


「お邪魔しまーす!」


 目の前にある木製の扉に手をかけると、内開きにそのまま開く。

 入る瞬間、甘い香りが内から漂う。


 そこは、入口から左右に広がる大きな空間が出迎えた。

 天井にまで続く棚。格段の上には、色鮮やかな液体を内包する瓶らが置かれていた。

 その色は見覚えのある緑から、怪しげな紫までで、不思議な雰囲気が漂っていた。

 イナズマはその中へ足を踏み入れる。

 その後をルナとギルフェルトも追う。

 すると、正面には開いた道があり、その先には大きな机。

 そして、そこには1人の少女が鎮座する。

 その少女は桃色の髪を持ち、机に置かれた分厚い書物を前に、下向きでそれを見つめている様だ。

 その状態はいつまでも続き、どうやら、客の侵入に気付いていない。


「おい、気付いて無いみたいだぞ?」


「そうですね」


 イナズマとギルフェルトは、互いに小声で会話した。

 集中している彼女を見ていると、その邪魔をすることが悪い様に思えたのだ。

 しかし、ルナだけはスタスタとそこへ迫る。

 そして、ついに机の前までやってきた。

 そこになってようやく、その少女が俯き様に瞳を閉じていることに気付かされる。

 揺れ動く肩は、スースーと呼吸するリズムとともに揺れ動き、完全に寝ている状態だ。


「ティナ、お客さん」


「っは!危ない、危ない。寝るところだった」


 首を勢いよく振り上げた彼女。

 辺りをキョロキョロと見渡し、危惧した存在が側にいないことに気づくと、客を前に接客をしようと試みる。


「いらっしゃいませ……って、ルナちゃん!?」


 目の前のルナは机とほぼ同じ高さに位置し、頭をひょっこりと出すだけの状態だったため、気付くのが遅れた。

 しかし、紫のローブに全身を包むその姿には、彼女はすぐに正体を見破る。


「うん、私がお客さん」


「わー、ビックリした。師匠がいなくて安心したけど、ルナちゃんが居たなんて。もう、早く言ってよ」


「でも、ティナは店に入ってからずっと寝てた」


「アハハ……師匠には内緒ね?」


 ティナはふとした時に現れたルナの存在を喜ぶ。

 が、その驚きは2度起きる。

 店の奥に人影を感じ、焦点をずらすと、そこには見覚えのある少年がいた。


「あ!ギルフェルトさん!」


 そう言うと、机をバン!とたたき、前のめりで身体を机から出す様にした。


「や、やぁティナちゃん」


 ギルフェルトはあたふたと返事を返す。

 ここには以前、何度も顔を出していた。

 しかし、最近になって冒険者としての状況は悪く、心の余裕は無くなった。

 そうして、顔を見せる機会が減っていたことで、ティナの反応は容易に想像できる。

 要するに、今までの申し訳なさが心にはあったのだ。

 ギルフェルトの存在を知覚したティナは、机を回ってギルフェルトの元へ迫ると、その胸元へ飛びつく。


「もー!心配してたんだから!」


「アハハ、そうだよね。心配させたよね……」


「本当にそう!もう一年?あの日以来、ずっと、顔見てないもん!でも、よかったー。生きててくれて」


 ティナは目を潤めながらギルフェルトを見上げる。

 しかし、それに対してギルフェルトはどこか余所余所しい。


「それでさ、ギルフェルトさんはいつ、おねーちゃんと結婚するの?」


「はい?」 「え…」


 イナズマとルナは突然のことに、声を漏らす。

 それは意識してでは無く、無意識下で行われた。

 しかし、1人冷静なギルフェルトはいつもの様に返す。


「はぁ。君と言う子は、どうして、いつも最初にそんなことを」


「そんなの、前にも言ったわ!おねーちゃんには、ギルフェルトさんしか居ないの!」


 それが当然とでも言う様に、ティナはキョトンとした。


「あ、そっか。ギルフェルトさんはおねーちゃんと結婚するから、おにーちゃん?いや、おにーさんか!」


 そう言うと、更に強くギルフェルトへしがみ付いてきた。


「そう言うことじゃ無くて……そもそも、まだ結婚しないから」


「まだ?やっぱり!いつかはそうなるのね!」


 はぁ、とため息を吐きながら、己にしがみ付いて離さない少女の、桃色の頭を眺めた。

 思い返せば、彼女はギルフェルトに会う度に、いつもこんな調子で絡んでくる。

 それだけ、親しい仲だと言えるならいいが、彼女は結婚を本気で言っているため、その対応は蔑ろにできない。

 適当な返事ですら、彼女は本気になって披露宴の準備を仕上げるだろう。

 そんな様子を側から眺めていたイナズマは、驚いたと言う様な顔で目を見開いて語りかける。


「こりゃ驚いた。ギル、婚約者がいたのか。で、式はいつ上げる?」


 ここで、ルナも便乗。


「準備なら、ルナも手伝える」


「みんなまで本気にしないでよ……」


 ギルフェルトに抱きついたティナはその光景を眺めてニヤついている。

 と、ここで、さっきまでティナが座っていた机の後ろの、木時計に立たずまうフクロウのような鳥が、今では目を見開き、バサバサと翼を動かした。


「34分17秒!?長い!いつまで寝ているつもりだ!」


「師匠、今日はそんなところに……」


 その声は、鳥から聞こえるが、明らかに魔法の干渉であると認識する。

 その声の存在感と言ったら良いか、職務中の睡眠で、ハッとした時に一番最初に危惧したその存在。

 知りうる者の声だと気づいたティナだけが、ビクッと背筋を伸ばす。

 そして、しがみ付いていたギルフェルトの身体を盾として、その背後に隠れる様に回り込む。

 それから、そっと、木に足を付ける鳥を見た。

 が、変化はそれ以上起こらず、こちらをただじっと見つめているだけ。

 すると、その奥の扉から、その声が聞こえてくる。


「全く、真似フクロウが30分以上も目を閉じているなんていつ以来か。これじゃ、私の使い魔も寝る癖がついて、変な子になっちゃうわ」


 三角帽子を基調とした、全身を黒いローブで身を纏う女性が、扉の向こうから現れた。

 その手には小枝程度の魔法杖を持ち、それに付属するルビーの様な赤い、小さな輝石が輝いている。

 その杖を振ると、部屋中に飾られていた無色の水晶が黄色や紫に色を灯す。


「やっぱり、明かり色はこれに限るわ」


 その女性が優雅に歩くその後には、紫色の光の残穢が微かに見える。

 机の前までやってくると、先程ティナが座っていた椅子へと腰を下ろす。


「いらっしゃい、『クサギリ』へ。好きなものを見て回って。用があるなら、なんでも答えるわ」


 その一連の動作は堂に入っている。

 見ていたものを魅了し、この場にいるものはただ呆然と眺めていた。

 ただ1人、ティナを除いて。


「師匠ったら酷い!私をさっきから無視してるぅ!」


「あら、そこにいたのねティナ。この本は全て覚えたのかしら?」


 そう言いながら、机の上にある、先ほどまで読んでいたティナの本をパラパラとめくると、その中身を確認する。


「また意地悪。まだ、半分しか理解してないわ」


「そう、半分……」


 パラパラとめくると、魔法で印をつけた後がいくつも見受けられる。

 その痕跡は女性がかけている眼鏡にしか視認はできないが、その状況を見て心で呟く。


(もう半分ですか。優秀優秀)


 内で微笑むと、気を取り直して真顔で当たる。


「ティナ。どうやら1人、初めてのお客さんがいる様なので、暇を持て余す貴方が案内してあげなさい」


「むぅー。暇じゃないけど仕事だし……はぁい」


 3人はティナの後を追って、鮮やかな瓶の森の中へ入っていった。

 ティナは、そこらへんの瓶の配置を整えながら聞いた。


「見ての通り、ここにあるのはたくさんの魔法薬。奥の工房で師匠、コホン。この店の店主が生成したものを多く取り扱っているわ。名前や効果は側に置いてある紙に、単純に書き記してあるけど、複雑だから分かりにくいものも多い。取り敢えずは、私に何でもきいて」


 一通りの説明を終え、ティナは三者の、特に初見であるイナズマを見る。

 イナズマは、この空間の不思議さを体感していた。


「しっかしまぁ、よくこんな量揃えてるな」


 イナズマは辺りを今一度見渡し、感嘆の声を上げる。


「そりゃ、有名ではありませんが、師匠のお店なので!」


 まるで自分のことの様に胸を張り、誇るティナ。

 その様子を見て、ギルフェルトは安堵する。

 彼女らの師弟の関係は良好的に見えたからだ。


「師匠とは仲良くやってるみたいだね」


「はい!いつも怒られてばかりだし、師匠はよく店を開けて私に任せっきりだけど……それでも、師匠はいい人ですし、学ぶことがはたっくさんあります!」


 にこやかに答えるその顔を見ると、間違いないようだ。

 この店はこの地域では密かな人気店。

 表通りのオーソドックスなお店に行く者は多いが、優秀な情報屋は、ここを第一に勧めることも多いだろう。

 ルナも、勧められたその内の1人。

 ティナの行きつけ先には、その様な経緯があった。

 そして、行き着いたこの店で、同年代のティナと出会い、彼女と交友を築いた。

 この場で驚かされたのは、友人となったティナが、本日を期にパーティを組むことになったギルフェルトとも交流があったこと。

 側から見れば、ルナは今、何も語らない。


「ティナちゃん、さっきから呆然としてるけどどうしたの?」


「驚いてた、ギルフェルトと知り合いだったなんて」


「私も驚いた。ルナちゃんがギルフェルトさんと一緒に来たんだもの。2人は知り合い?」


 ティナは2人を交互に見る。

 すると、ギルフェルトが答えた。


「いや、実は僕たち、パーティを組むことになったんだ」


「本当に?本当の本当?」


「そうだよ。ね?」


 ギルフェルトが求めた同意を、ルナはうなずいて返す。


「ギルフェルトさん、やっと仲間ができたんだね。これで、私の心配の種も一つ消えた……ルナちゃん、ありがとう。そっちの赤い人もありがとう」


「お、おう」


 突然の感謝にイナズマは戸惑った。ティナは律儀に感謝を言うが、イナズマは他人の立場。他人に感謝を述べるには、それだけの意味が伴う。

 その事実から、ティナは相当の感謝の想いを抱いていると悟る。そして、その想いの元凶はギルフェルト。

 最初の出会い方からも明白で、彼は、今までティナを不安にさせていたに違いないのだと感じた。


「ギル。お前、相当この子に心配かけてるんだな」


「えぇ、まぁ……」

 

 それに対して、ギルフェルトが言える事はない。

 目の前では、実際に孤独から抜け出すギルフェルトに安心している少女がいた。

 きっとそれは、他の人も同じ様な状態だろう。

 冒険者として孤独でいたギルフェルトを知るものは、ギルフェルトの身を常に案じる。さすれば、相当の不安を募らせるはず。それが、今は彼のまわりに仲間ができた。

 彼に心配を寄せる者を、イナズマやルナと言った仲間の存在により、少しは救ってあげられる。

 しかし、それだけでは足りない。不安の脱出には、ギルフェルト自身の力にもかかってくる。

 それを理解したイナズマは、声をかける。


「じゃぁ、これからしっかり頑張んねーとな。俺らも支えるし、お前はもう1人じゃない。しっかり、みんなを安心させろよ?」


「はい!」


 その光景は、励まし合い、支え合う仲間そのもの。

 ティナは側からそれを見つめ、内心ほっとする。

 このメンバーなら大丈夫。そう思えた。

 一先ず、心を落ち着けると、ティナが本題に入る。


「本日はどんなご用件?」


 ティナは淡々と伝える。


「実はこの2人、あんまり回復薬持ってない。ギルフェルトなんかはゼロ。だから、回復薬が欲しい」


 その要件を聞くと、ティナは驚愕する。

 その内容は彼女にとって用件以外に、報告の意味を持った。


「うそー!ギルフェルトさん、回復薬持ってないの?」


「アハハ……まぁ」


 遂に、バレたくない存在のうちの1人に、その情報は流れる。

 それも、一番過剰に反応しそうなティナへ。

 更に、ギルフェルトの雲行きは怪しくなる。


「そんなの、冒険者としてどうなの?」


 ティナは、他の2人へ質問した。


「ダメダメ」


「ま、一本もってのはあり得ないかもね」


 ルナもイナズマも、同様に難色を示す。

 が、イナズマは多少ギルフェルトに近い立場。

 ルナはそれも詳細に伝える。


「イナズマも、治りが早いとはいえ、一本だけ」


「そんなのはいいの。だってイナズマさん?は強そうだもん!ま、一本も大概だとは思うけど……よし!分かったわ。回復薬ね」


 状況把握をしたティナは、場所を変え、緑や黄色、透明に透き通る液体が並ぶ元へ足を運んだ。


「さ、ここが回復薬の場所よ。左から効果の低い順に、小瓶の緑色、中瓶の黄色。そして一番小さな小瓶の透明。値段は順に銀貨1枚、銀貨5枚、金貨2枚ってところなんだけど、うちは自作故の安売りが武器。正すなら銅貨8枚、銀貨4枚、金貨1枚よ!」


 物流の基本単価、貨幣は全て硬貨を扱う。感覚は、銅貨1、2枚で、安い内の串肉やパンと言った単品の品が買える。別の例えなら、銅貨10枚で着飾らない程度の無地の洋服が、安いもので1着。

 価値は下から銅貨、銀貨、金貨、聖金貨。それぞれは下の価値の硬化10枚分で、等価値となる。

 例外的に、聖金貨だけは発行数が少ないと言う点、材質が貴重な点、所有する状況になりにくい点から、金貨100枚分で等価値となる。

 庶民一般の感覚を言うと、銀貨までは手軽に買えるが、金貨からは皆慎重になり、手が安易に出せない。その様な感覚が存在している。その事実を理解して、左から順に見ていく。


「無難に考えると、緑5本を1人分ですかね」


 ギルフェルトは自分の所持金も加味して、そう結論付ける。

 3本は使う分。2本は予備として十分に余る計算だ。


「そうだな。多めに買うのもいいが、ギルは金が少ない。お金は貸せばいいだけだが……」


 イナズマは予算がこの中で一番少ないであろうギルフェルトを心配し、その打開策をきちんと伝えておく。

 自分たちは立て替える意思があることを明示することで、なるべく不憫な想いをさせまいとした。

 が、勿論、それを受け入れない事も知っている。

 ギルフェルトの性格上、お金を人から借りる様な柄ではない。


「僕は結構です」


「だよな。ま、それも考慮しての5本だろうが、足りない時は遠慮なく言えよ?」


「はい、頼れる時は頼ります」


 とすれば購入品は決まり、と思いかけるが、ここでルナが提唱する。


「ギルフェルトは5本分でいいけど、お金の余裕がある私と、イナズマは黄色を3本、緑2本がいい。もしもの時、その方が安全」


 それぞれに余裕がある分で、購入する内容を変えるという事らしい。

 確かに、皆が同じにする必要はない。

 パーティ皆で共有し合えば、実質価格0とまで言わずとも、かなりの負担額を減らせる。

 そして何より、安心感が違うのだ。

 そうと分かれば、イナズマは更に上の発言をした。


「そうか。なら、それで行こう。ただし、俺は、緑2、黄色2、透明1だ!」


 回復薬の中でも、最上位品を買うものが出てくるとは前代未聞。

 その経験を持たないティナは、その事態を予測できず、声を上げる。


「イナズマさん。それ、買うんですか?」


 視線で刺すのは透明の液体が内包される小瓶。

 緑色を内包する小瓶とは違い、更に小さい小瓶に入っている。

 それは、それだけの量で効果を現す事を意味する。

 つまり、それだけ高水準の物。


 薬学に通ずるティナが知っている専門の知識では、色は、生成する際に取り出す液体の純度の差を意味する。

 初めの液体はまだ不純物が混ざり、色が少し濁った緑。

 効果は切り傷を一つ癒す程度。昨夜の様に、打撲程度ならすぐ治る。

 次に、緑よりも高濃度の液体となり、輝きを生む黄色。

 骨折などの内なる傷から、筋肉の疲れまで癒す。

 大抵の大怪我はこれで十分通じる。

 そして、最後に絞り出す様に作るわずか数的の液体。

 それは、色を全て失い、代わりに残る透明が輝く。

 魔法薬において、透明なもの、透き通るものは完結の印。

 あまりの高濃度さに、飲み過ぎると活発死を起こすとも言われる。


 そんな効果なものには、それ相応の値が付く。この店も、安いとは言え、金貨一枚。

 滅多にそれを買う客はおらず、ティナが店番をする中では、初の目撃例だ。

 ティナの純粋な質問に対し、イナズマは答える。


「あぁ、俺は金余ってるしな。特に使い道もなければ、使い切る算段もねぇ。ま、許容範囲ってやつだ」


「イナズマがそれでいいならいい」


 ルナはその意見に同意すると、それぞれに5本ずつ瓶を抱え、ティナが師匠と仰ぐ店主の元へ行った。

 先程の書物をパラパラと眺めている店主は、迫る存在に気づいて顔を上げた。


「おや?まさか透明薬を買うものが現れるとは、珍しい」


「はい、私は初めて見ます!」


 ティナは初の経験に、心躍る。

 大した変化は起きないが、その現象事態を見ることに意味がある。

 まるで、そう言うかの様に、目を見開いている。


「ま、それだけ危険が少ない街ということでもあるが。そうだね、これは何かの縁かもしれない。ちょうどいい。私から一つ、サービスを付けよう」


 そう言うと、店主は内ポケットから赤い液体を入れた、(ひとみ)大のガラスの玉を取りだす。


「さっき完成した試作品さ。大丈夫、もうそろそろ売ろうと思ってたんだ。安心してお使い」


「師匠、これって!」


 ティナはこの中で1人だけ、その価値を悟り、目を輝かせる。


「遂に完成したんですか!?」


「そうさ。魔力強化薬を凌ぐ強大な力。それすなわち、原初の魔力。かつて、失われた古代の魔力を、それが流れる地脈を媒体として液体化させることで作り上げた一級品さ。これを飲めば、3分程度、神たちが居たとされる神代の力を使える」


 イナズマは、あまりのスケールの大きさに実感は湧かずとも、凄い品なのだと知る。

 そうすれば当然、無料で受け取る事自体が憚られる。


「そんな凄いもん、俺がもらっていいのか?」


「あぁ、どうやら、ティナの知り合いみたいだし、最近見ない強い気配を君からは感じた。価格は軽く見積もっても聖金貨一枚で足りるかどうかってところだけど、初めの一つは君に上げるさ」


 すると、ティナが興味本位に横から聞いた。


「師匠、商品名はもう決めました?」


「そうだねぇ……瞳の様な外見。“原初の瞳”、そう呼ぼう」


 命名後、店主は手を伸ばさないイナズマに疑問を抱く。


「いるのか?それとも、いらないのか?」


「勿論いるさ!」


イナズマは手にとってそれを受け取る。

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