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ブレイキングワールド  作者: キィ
episode1ー始まりの大地
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4ー巡り合いと拒み

 ギルド内は錯綜としていた。

 祭り前は人が集まり、それは冒険者も例外ではない。

 そして、今年は活性期も重なる。

 故に、周囲からの依頼も増え、ギルドに大勢が集まっている。


 だが、雰囲気や歓迎は相変わらず。

 外ではリアクションのない人々が、ここではギルフェルトを知る者が、彼に対して排斥の目を向ける。


 そこにある感情は哀れみ。

 皆、その弱さを案じてこの業界から去ることを望んでいるのだ。


 しかし、それを気にする素振りも見せないギルフェルトは、ギルドに入ると、すぐ近くの場所に設置された椅子の方を見る。

 そこには、ギルドの入り口を門番の様に凝視しながら座る小さな影があった。

 その影は紫色のフードを深くまでかぶっている。

 そして、その手には床から伸びた大きな魔法杖を抱く様に抱えられてていた。


「ねぇ君。ここで、赤い仮面の人を見なかった?」


「……いや、見てない」


「そうか、まだなのか……。助かったよ、ありがとう」


 帰ってきた声は少し幼く、しかし、芯の通った強い言葉だった。

 そこから推測されるフードの中の正体はまだ幼い子どもか少女だった。

 しかし、そこまで追求するほど野暮な真似をする必要はない。

 求める答えがないと分かると、ギルフェルトは足を動かす。

 奥へ行って、更なる聞き込みを行うためにも、時間は有効活用しなくてはならない。


「待って」


 しかし、背後で声がしたので、急ぎを落ち着かせ、おもむろに振り向いた。


「あなたは、最近よく聞く“無謀のギル“?」


「そうだけど……。やっぱり、僕は悪目立ちしてるのかな?変な絡みなら僕は先に……」


「私が聞きたいのは、何故、赤い仮面をした誰かを探しているのか。それだけ」


「それは、僕の探し人だから?」


「そう……。ちなみに、その人とは今まで会ったことは?」


「それはないけど。もしかして君も、誰か赤い仮面の人を探してるの?」


「シッ……声を抑えて」


 ここでは、フードを被って正体を見せない”彼女“。

 指を鼻先へ持ってくると、ギルフェルトへ静かにする様訴えてくる。

 そして、辺りにいる人がこの話に聞き耳を立てていなかと見渡し、確認した後、再び向き直る。


「もしかしてそれは、情報屋から?」


「凄いね君。もしかして、なんでもお見通しなのかい?」


「まさか。単に、共通する部分が多いだけ」


「そうなんだ、だったら凄い偶然だね」


 こんな偶然が起こり得るのかと、素直に驚く。

 突然話しかけた者が実は預言者など、流石に無いだろうと思えば、彼女は必然的に同じ人物を探す者。

 ギルフェルトはそれに感心していた。

 しかし、目の前の彼女はローブ越しからでも、焦って見えた。


「あなたが得た情報、それは希少性の高いもの。それを大声で言うのは、他人に情報をただで売っているのと一緒。気をつけて」


 彼女は顔色を隠したまま教え諭す様言った。

 情報は、冒険者のみならず、その町に住む、又は旅をする中では必須の物。

 故に、それを売ってお金を稼ごうとする者もいる。

 無駄に捨てるなど、通常ではあり得ない。

 が、今回は単純な理由がそこにある。


「あ、ごめん。君も同じ人を探してるのかもと思ったらつい……」


「分かったならいい。困るのは私以外にもいる。エバルがせっかく教えてくれた情報だから……」


「ん?君、今エバルって言った?」


「確かに言ったけど、あなたに関係は……」


「ある。あるよ、関係」


 そこで、フードの揺れは一瞬止まり、体が硬直する。



「情報屋のエバルで間違ってなければ、彼は僕の友人だよ」


「まさか、そんな偶然がーーいや、でも。確かに、友人ならさっきの情報が伝わっててもおかしくない……。まさか、本当に?」


「あぁ、そうとも」


「凄い偶然」


「そうだね。互いに、同じ情報屋の利用者だ!」


 発見が関わりを作り、互いを隔てていた他人への壁は、今は薄くなって存在していた。

2人は共に、話の一歩を大きくする。


「それじゃ、もしかして君って、前にエバルが言っていた常連の人?」


「常連か分からないけど、よくして貰ってる。この街に最初にきた時、寝る場所も行くあてもない私を助けてくれた。それからはずっと、彼を頼ってる」


「そうだったのか。初めて常連ができたって、エバルが前喜んでいたよ」


「本当?」


「あぁ!」


すると、目の前の小さな影は俯き、僅かに沈黙した。


「嬉しい。でも、……やっぱりあなたの探し人も“赫雷(かくらい)”の人?」


「そうなるかな」


「ここは、同じ利用者仲間でも譲らない」


「うん、分かってる。これは当事者同士のの駆け引き。選ぶ権利も、挑む権利も同じじゃなくっちゃね」


「ならいい」


小さな影はそう言うと最後に、己の存在を語る。


「仲間の吉見で教える。私はルナ。見ての通り術師をしている。えっと……あなたはギル、ギル……」


「アハハ……ギルでいいよ」


「分かった。それじゃ、ギル。何かあったら私に頼るといい。代わりに、私もたくさん頼るから」


「うん。よろしく、ルナ!」


話を切り上げると、ルナは再び出入り口を見張っていた。

なる程、さっきからここに居るのはそう言う理由なのだ。

ギルフェルトはこれからのことについて考える。

ここでルナと共に“赫雷”を待つと言う考えも浮かぶが、先に場所を取っていたのはギルフェルトでは無い。

ならば当然、この場に残っても優先権は下がる。と言うより、自身で下げる。

きっと、目の前の小さな冒険者が“赫雷(かくらい)”に挑んだ後に、己で交渉を持ちかけるだろう。

それよりは、動いた方が先に遭遇する可能性は上がる。

つまり、この場から動くことが先決だ。


「それじゃ僕も、そろそろ探しに……」


 その時、ギルフェルトの背後から聞き覚えのある声がした。

 その存在は周りが知覚すればする程、ギルド内の喧騒を抑える波を発生させる。

 1人、また1人とその存在に気づき、周囲からは音の勢いが弱まる。


「あれれぇ?お前さん、どうしてここにいるんですか?」


「テイダ、さん……」


 背後を振り向くと、そこにはテイダ筆頭現在勢いづいている3人の強者が立っていた。

 1人はもちろん、その声の持ち主テイダ。

 以前、森で最初の蹴りをかましてきた、猫背の目立つ不審な輩。

 もう1人はランブラル。

 スラッとした外見の目立つ長身の男で、いつも、後にいる様な者だ。

 その男は片手に青い光石が目立つ魔法杖を持ち、いつも何かに備えるように周囲を見渡している警戒心の強い男。

 そして、その2人に挟まれているのがリーダー、ガイル。

 その背には、その力を示すように存在する大剣があった。


 そう、彼らは、昨夜ギルフェルトを騙し、暴力を働いた冒険者の面々。

 ギルド内でもその強さは噂され、弱者と定義づけられたギルフェルトとの会話を目撃すると、それを不思議に思い、周囲はそこへ視線を集めた。

しかし、当事者達は気にする素振りをあまり見せない。

ギルフェルトはまず、彼らに対して距離を取ろうとした。


「あなた達との冒険は昨日で終わり。一帯、今更何を……」


 すると、悪辣な笑みを浮かべたテイダがヌルッと近づき、ギルフェルトへと肩を組む。


「まぁまぁ、そんな連れねぇこと言わないでくだせぇ。一度組めば仲間じゃねぇですか」


「よくもそんなーー」


「おっと、いけねぇいけねぇ。抑えてくだせぇ」


 動こうとするギルフェルトの力は、上から押さえつけられる。

 それを跳ね除ける為、さらに力を込めようとするギルフェルトの元へ、テイダが耳元でささやく。


「でも、分かってるでしょ?お前さんがあんなに弱くなけりゃ、うちの旦那もお前さんをはぶったりしなかったって、ねぇ?」


「それは……」


「お二人はお知り合い?」


 ルナは2人の間柄を知らない。しかし、明らかにギルフェルトの様子がおかしかった。震える肩からは恐怖すら感じ取れる。

 そうと分かれば疑問が浮かび、声をかけずにはいられない。

 誰かがこの間に立ち、分断しなければならないと咄嗟に思った。

 善良な行動というより、むしろ本能的に、衝動的に動いていた。

 それに対して、テイダは似合わぬ笑みを浮かべる。


「ええ、そりゃもうふかぁ〜いふかぁ〜い仲でさぁ。ねぇ?」


「いや、そう言うわけでは……」


「ねぇ?」


「……」


沈黙が発生した。ギルフェルトはそれ以降口をつぐみ、歯痒い態度でしかいられなかった。

ここで事実を話しても証拠なしには何も始まらない。それどころか、悪化する場合も考えられた。

誰にも被害が及ばぬ様、人に迷惑をかけぬ様、最小限の行動に抑える必要があった。

そんな様子を側から覗くテイダは今一度微笑を浮かべた。

そして、話す対象を目の前に移す。


「それで、お嬢ちゃんはこいつの仲間……ってなわけねぇですよね。今は何かの話途中でしたかぃ?」


「ええ、まぁ」


 話しかけられたルナはそう言うと、踏み入れられたくないテリトリーへ踏み入ってしまいそうなテイダの存在自体を嫌悪し、フードを深くまで被って拒絶する様に対応した。


「嫌われちゃいやしたか?それはすいやせん。それじゃ、せめて手短にここで……」


テイダはギルフェルトの首筋を睨み、手刀を構えた。


「テイダ」


 ここで、声をかけるのはランブラルだった。


「ッ、わかってやすよランブラル。あっしは少しふざけただけです」


ランブラルはそのへんとうに顔をしかめる。

その様子を伺い、してやったりとにやけ面をするテイダ。

ガイルはその様子を見て息をつく。


「たく、またいつものか。で、今回はその自分勝手を抑えれれるか?」


「ええ、ダンナァ。今回は特別に」


「あなた達は一体何を……」


 ルナは1人、この状況を理解できずに困惑する。

 そんな中、ガイルがギルフェルトと面と向かって話せるよう、前に歩み寄る。


「よぉ、ギル。よく帰ってきたな。昨日は俺らも心配してたんだぜ。『お前が無事戻ってこれるか』ってな」


「ガイル……」


嘘八百だ。これら全ての言葉に、一切の慈愛も感じられない。

昨夜の手加減もどうやら偶然か気紛れか。どちらにしろ彼らは害ある存在に他ならない。


「“力のある奴”は嫌いじゃないぜ。どうやって生き残った方法は知らんが、どうやら思った程弱いわけでもないらしい。なぁ、テイダ」


「ええ。だからあっしはいろいろ気になるんです。是非、向こうでお話ししやせんか?」


「……僕は特に何も。せめて、今後は不干渉でお願いできれば」


「いや、ならねぇ。俺らは“今”、お前に用があるんだ。だがな、ここだと流石に目立つだろ?俺らは最近有名だからな。だから、ちょっと場所を変えるだけだ。な?」


「ですが……」


 ギルフェルトはなるべく無力な存在であろうとした。

 自分が弱いことを誰よりも自覚しているギルフェルトは、互いに干渉しないことを約束するだけで、その内、彼らは弱者を相手にする気など無くなると思ったのだ。

 言葉は強くせず、ただ同行を避けるのみ。この一点において貫けば、後はこの場で彼らが引くのを待つのみ。

 根気はいるが、危険の少ない最小の抵抗。

 その結果か、彼らはあっさり撤退する。


「そうか、分かった。それじゃテイダ。俺らは先に行っとくからな。集合は昼。いつもの場所で」


「へぇ、ダンナァ。了解しやした」


互いに目を見て確認し合うと、ガイルら2人が出入り口の方へ向かって歩き出した。


「じゃあな、ギル」


 その言葉を最後に、ガイルとランブラルはギルド内を後にする。

 彼らの存在感が薄まることで、この場に発生した視線を集めると言う現象も次第になくなる。

 そして、ギルフェルトは残ったテイダとの2人っきりの対面を余儀なくされる。


「あっしはもう少し、お前さんと話をしたら、潔くどこかへと消えやすよ」


「ず、随分と引きが早いですね。僕は嬉しい限りですが、あなた達が何を考えているか僕には分からない」


ギルフェルトはそう言う今でも、警戒を怠らない。

今ここにいる1人が、一番予測不可能だからだ。


「なんです?信じてくれねぇですか?悲しいなぁ、これでも、あっし達は真面目なのに」


「今は、まだ信じません。ですが、今後次第では僕たちの関係も、昨日のことも記憶から消すと、僕は約束しましょう」


「ええ、ですから本心ですって。あっしらも、今後は“無謀”に関わることなく、気楽〜に冒険をやる事を約束しやしょう」


「では、僕はこれで失礼します」


 やっとの思いで会話を終わらせ、テイダの腕を振り払う事。

 それにより、肩から全ての荷が降りた気がした。


 これで、いいんだ。

 きっと、昨日は僕が弱いせいで、彼らはあんな事をした。

 他に被害は広がっていないはず。

 もう、掘り返すこともない。

 振り返らなくていいーー


 スルッと腕を離したテイダは最後、ギルドの外へ出ていく瞬間振り返る。


「そう言えば今日。あっしは手癖が悪いんで、“偶然”こんな物を拾っちまいやした。もし、持ち主を知っていれば、あっしらにお伝え下せぇ」


 そう言って指に紐を引っ掛けて、クルクルと空中で遊ばせているのは、ギルフェルトに見覚えのある青い輝石が埋め込まれたブローチ。

 そう、大事に首元にかけていた物だ。

 今、胸元にある筈のそれを確認すると、そこにある筈のそれは無く、心に穴がポッカリと開いた様な感覚が一気に押し寄せる。


「それは!」


「ん?もしかして、持ち主を知ってるんですかぃ?」


 ここでも、テイダは意地悪げに、悪意を笑みで表す。

 しかし、会話はそのまま続く。


「いや、まさかそんな筈ねぇですよね。この広い街、確率はそう高くない。しかし、万が一のこともありやす。もしもの時はその弱ぇ足ですがりにきてくだせぇ」


 言い終わると、テイダはふらっと気配を消した。

 ギルフェルトは意識が身体に戻るとハッとして、即座にその後を追う。

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