14ー他者のその後
時は、ギルフェルトが路地裏で、テイダに襲われた時間に遡る。
その後、彼は偶然ランブラルと会った。
彼は、魔力を可視化することができる識眼鏡を所持している。
彼は鑑定を趣味にしており、ギルフェルトから奪った器鏡魔晶も、彼から実物を見せられていたからだ。
テイダはランブラルに一度、鑑定のために渡すと、昼の再会まで少しの時間があるため、一度離れた。
今から見るのは、テイダのその後。
昼の集合を約束した場所まで赴く路上の出来事だ。
この町、と言うよりはこの小さな王国『ビギノア』では、現在、勇者誕生祭に即した観客や、魔物の活性化で稼ぎ時の冒険者が多く集まっていた。
中でも、Bランク以上の冒険者が1箇所に集まることは、この辺境の地では珍しく、時同じくして、今の国内には計23人のBランク冒険者がそれぞれの目的で集まっていた。
中でも、ガイルやテイダは、少し前からこの地に拠点を置いていたと言う例外ではあるが、それ抜きにしても、この地には戦力が集まっていることに変わりない。
そんな己の力を過信していそうな冒険者と対峙し、戦闘を経て、己より下の存在だと証明する事に快楽を感じるのがガイル。
逆に、弱者の最大の一撃を受け、その上で相手をねじ伏せる事に己の存在意味を見出すのがテイダ。
このパーティには元より常人が存在せず、ランブラルがそこへ加入したのも、彼なりの目的故だった。
追加で補足するなら、そんな自分達に逃げる相手には、興味を途端に失う。
テイダは路地裏からガイルの元へと向かうために大通りを歩く中、路地裏での事を思い出すと、無性に腹が立っていた。
「ったく、あんなに威勢はいいのに、何で歯向かわねぇんですかねぇ!?逃げるだけの獲物を追う事に、意味などねぇってんです!はぁ…… 収穫と言ってもこの器鏡魔晶らしい物だけ。これが偽物、もしくわ空っぽの器だった時、あっしのこの行動は、きっと無駄足になるんでしょうねぇ……」
そこで、2度目のため息を吐く。
そう思い込みながら歩く時、テイダは周囲への注意が散漫となり、通りでバタン!と肩が当たり、弾かれた。
「たく、誰です?あっしにぶつかってきたのは。今、あっしはすこぶる機嫌が悪いんですがねぇ」
しかし、それは一蹴される。
「“あ”ぁ“?」
顔を持ち上げれば、そこには気性がいかにも荒そうな男、と言うより少年が、頭を隠す様にフードをして歩いていた。
その時、テイダの目は白髪を視認する。
灰色の髪を持った男から睨まれ、普段は勢い付いているテイダも黙っていた。
(灰の悪魔…… こりゃ、またダンナが好きそうな人格の加え、珍しい獲物でさぁ。でも、あっしには決して敵わない相手。ここは、身を小さくしておきやしょう)
そう思って、途端に態度を変えた。
「こりゃ、あっしの勘違いでした。ぶつかってしまい、申し訳ない……」
しかし、少年は更に目力を強める。
そうしてテイダを凝視すると、突然こう告げた。
「おい、あんた。もしかして俺より強いか?」
「そんな事ねぇでさぁ……」
(おお、怖い怖い。いきなりかと思えば、突然なにを言い出すんですかねぇ。そんな適当な事言われても、こっちは困るんでさぁ……)
勘違いも甚だしい。テイダは本気でそう思った。
(こう言う輩は、すぐに人に突っかかる。ただの迷惑でさぁ)
しかし、相手も己の目利きに自信があると思っている。
いくら弁明しようとも、話が平行線。引くに引けぬ事態に発展した。
しかし、テイダにはガイルがこの先で待っている。
時間をこんな所で無駄にせず、早くに合流したかったため、テイダは少し強気で身を引こうとした。
そうして身を翻した時、背後から細い腕を掴まれる。
「おい、まだ話は済んでねぇぞ。こっちも今、イライラしてんだ。そしたらちょうど、強そうなのが歩いてきた。ただじゃ逃さねぇ」
少年は、自分の意見を肯定されるまで、引かない性格らしい。
彼は、今にも実力を試そうと腕に力がこもっている。
(出来れば、注目を集めることははしたくないんですがねぇ)
テイダは相手がその気なら、ただやられると言う選択を持たない。
彼にとって、弱者を虐げる以前に、己が弱者だと証明される事が嫌いだ。
強者に対しても、逃げて勝つ。そう、最初から決めていた。
それは、灰の悪魔であってもだ。
2人の間には一触即発の電線があり、通りを歩く人々は誰もそれに気づかない。
しかし、突然、少年のお腹が鳴る。
(あ…… そういや、アイツには腹が減ったってここに着いた後に言ったっけか?だからーー)
すると、握る手の力を弱める。
「すまん。腹へったから先急ぐ。今回は見逃すが、次は俺にぶつからねぇように気ぃつけろよ」
「へぇ、努力しやす」
少年は去り際にその言葉を残して、颯爽と歩き出した。
「全く、珍しい悪魔との出会いかと思えば、とんだ災難でやした」
そして、彼が先を行く背を見ながら、ハッと思い出す。
「そういや、あっしはダンナ達を待たせてやした!」
テイダは、人混みの中を、川を流れる魚の様に止まることなく進んだ。
****
行きついた先は、とある食堂。
店のオーナーとは一つの長机のみが隔て、その後ろにはちらほら席が置いてある。
そんな、僅かな客しか存在しない物静かな店の角席に、テイダ達は座っていた。
「で、どうです?ランブラル、これは偽物ですかい?それとも……」
「驚いた。正真正銘の本物。しかも、力まで注がれている」
「おぉ!」
ランブラルはそう言うと、テイダがギルフェルトから奪ったブローチを台の上に置く。
埋まる宝石は、今尚光り輝く。
「俺達がわざわざ合わせてやった甲斐があるってもんだ」
ガイルは器に注がれた飲み物を飲みながら、横で言う。
「それで、中身の方はどうです?」
中身とは、器鏡魔晶に込められた魔力について。
このブローチに埋まる宝石には、魔力が無制限に込められると言う特徴を備える。
これにもし、力が込められていれば、テイダがギルフェルトへ再び接触することが確定するが、結果はいかに。
「これ、ただ力が注がれているだけじゃないぞ」
「やっぱり、あっしの言った通り!まさかの、まさかで欠片の力ですかい!?」
テイダは前のめりになり、興奮して言う。
しかし、ランブラルは微妙な顔をした。
「いや、これは決して欠片の様なものではないが……」
「そうですかい……」
「この輝きは、それ以上の力かもしれない」
「おぉ!!」
肩を落として落胆したテイダは、再び興味を寄せて興奮した。
見つめる先は、輝く輝石が嵌め込まれたブローチ。
輝く光は目を閉じたくなるほどの眩さで、溢れる煌めきがそこにはある。
ランブラルの言葉を聞き、実際に見て確認することで、更に、感情は高まった。
「これで、まだギルと楽しめそうでさぁ」
テイダはこれから行おうとしている事を考えて、気分が高揚した。
そんな中、その凄さが一体どれほどなのかを知るランブラルだけが心の内で思う。
(それにしても、一体、これほどの魔力をどうやって……)
そう思いに耽っていると、横からガイルが迫った。
「おいおい、そんなに物と睨めっこすんな。お前も既に俺らの仲間なんだから、遠慮なく飲め!」
どうやら酒を飲んでいるらしく、酒臭い。
迫られたランブラルは逃げるように横に移動しながら、ガイルを見た。
そして、一つため息をこぼす。
冒険者として、昼から飲むことが、午後の活動にどれほど影響するのか、ランブラルはそう思わずにはいられない。
しかし、ガイルはランブラルが認める屈指の実力者。
並のBランク冒険者と実力は比べるまでもなく、それはAランクの境地に達していてもおかしくない。
それは彼の性格と、実績を除いての話だがーー
そんなことを遠目で思っていた。
「はぁ……ではこれから、今後の行動について、2人に知らせる」
「おお、やっとか!待ちくたびれたぜ!」
「あっしも、これからがワクワクしてきやした!」
ランブラルのその発言に、2人は歓喜し、話は本題へと入る。
しばらくその店の角は、3人の冒険者が占拠していた。