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ブレイキングワールド  作者: キィ
episode1ー始まりの大地
13/19

12ー聞き耳

 ギルド中央には、5つの窓口がある。

 そこは、依頼主が依頼を伝える場所であり、また、冒険者がその依頼を受け、報酬をもらう場として、全てが等しい役を担っていた。

 ギルフェルトらはそこに向かい、クエストの報告を行う。

 辿り着くと、依頼書を机の上に出したと同時に、その内容に記載されている討伐対象の浮遊石の中核の欠片5つを提出した。


「では、こちらが報酬になります」


 受付の窓口に立つ受付嬢は、全てが記載されている通りの物か、魔導具であるルーペの様なものでかざして確認すると、報酬の貨幣をテーブルの上に出した。

 その額は記載されていた通りだが、実際に見て確かめ、思う。


「ま、低ランクの依頼じゃこんなもんか。今日はあと1、2件分受けるかな」


「そうですね。活動資金分の元を取らないといけない訳ですし、時間もありますからね」


 イナズマが報酬額分を受け取り、魔法袋の中へと入れ込むと、ふと手に当たったものを見て、ハッとした。


「ね、1つお願いしてもいい?」


「はい。私達にできる範囲なら、なんでも承ります」


 そのまま、目の前に立つ受付嬢へイナズマが声をかけると、魔法袋から1つの金の指輪を取り出す。

 それは、先ほどの森で見つけた、誰かの遺品である。


「この指輪を保管してやってくれないか?森で偶然見かけた、今は亡き誰かの、唯一の遺品なんだ。俺たちがこれを持っていてもあれだし、ギルドはそう言うこともしてくれるんだろ?」


「そう言うことですか……分かりました。責任を持って、こちらで預からせていただきます」


 受付嬢は白い布を下から取り出すと、指輪を優しく包みこもうとした。

 すると、後ろからそっと、見守る様に眺めていたアンジェリーナが、ポツリとつぶやく。


「悲しくて、綺麗な指輪ですね……まるで、物語の王子様がつける様な指輪なのに、持ち主さんはもう……」


 指は、持ち主を無くして虚しく輝いている。

 そんな思いが溢れ出た。

 その呟きを溢した時、それを受付嬢の背後から聞いている者がいた。


「ん?思慮分別のない軽率なBランク冒険者が、互いにドンパチやってると聞いてやって来たのに、もう静かになってるのか?威勢もなく、あっけないな。それに、何やら大事な話が舞いこんでるじゃないか」


「ギ、ギルド長!」


 受付窓口の奥から現れたのは、受付嬢からギルド長と呼ばれる短髪の女性だった。

 身長はイナズマとほぼ同じか、若干低く、その背にはギルド職員が纏う正装を肩掛けにしている。そして、見た目は若い。

 そんな存在の突然の出現に、彼女の声を聞いた周囲の受付嬢は皆、驚愕の顔を浮かべる。

 その存在を知る他の冒険者も、等しい反応だった。


「そんなに驚かなくていい。さ、さ、みんな仕事に戻った!」


 彼女は辺りを見渡し、パン!と手を叩く。

 それには、騒ぎ立てていた受付嬢は仕事に戻らざるをえない。

 元に戻ったギルドの中、それでも騒がしい光景をその女性は見つめた。


「ここは少し騒がしいな。特別に奥を開けるから、私について来てくれ」


 ギルフェルト以外、彼女をギルド長と知るものは少ない。

 ギルド嬢が先ほど言葉でギルド長と入ったものの、それが信じられないのは、職員用の服を肩からかけ、少し着崩した様子が、それを連想させないからだ。

 しかし、それでも反論に出る者はいない。

 否、彼女の言葉がそれをさせなかった。


「これは少し借りるよ」


 彼女は机の上にある金の指輪を手に取ると、そのまま奥に引き返す。

 先をゆく様子を見ながら、ギルフェルトは一度、イナズマと顔を見合わす。

 互いに頷き合うと、その後に付き従うことを肯定して、黙ってその後に続いた。

 言われた通り後を追い、ギルドの窓口奥に設置された扉を通ると、奥には一本の廊下があり、それぞれの部屋に続く扉が左右にはあった。

 しかし、そのどれにも意識を向けることなく直線を進見続けると、最奥に少しの階段があり、行き止まりとなる形で大きな扉があった。

 そこで、先頭を歩いていた彼女が振り返って言う。


「さ、ここが話し合いの場さ。気軽に入ってくれ」


 そう言うと、彼女は軽く扉を押し、部屋へと続く入り口が生まれた。

 しかし、容易くは踏み入らない。

 先程は無言の会話でここまで来るに至ったが、今回は話し合う。


「な、俺たち、さっきのことで怒られるのか?」


 イナズマは周囲に聞きとられない様な小さな声で、周囲に聞く。


「でも、喧嘩をする冒険者ぐらいどこにでも居る気がしませんか?」


「そうだよな。じゃあ、なんだろうな?」


「分かりませんが、今はっきり言えることは、僕たちは皆、この中に入るしかなさそうだと言うことです」


一度、黙って先を見た。扉は既に開かれている。

迷う時間は、既にないに等しい。

ここまできたならと、黙ってギルフェルトの言葉に頷き、足を伸ばす。


 ****


 中へ入ると、大きな部屋が出迎えた。

 目の前には仕事机として使われていそうな、書類がたくさん積み重なる机があり、共に大きな椅子があった。

 そこへ目がけて、ギルド長と呼ばれた女性は歩みを止めずに近づくと、勢いよく椅子に座った。

 そうして椅子を前に向け、麺と向かうと、彼女は机の上で肘を突いて指を組み、そこに顎を乗せて言う。


「さてと、まずは自己紹介か。私は、この小さな国、ビギノア王国の現ギルド長を行っている元盗賊の、グラハートさ。気軽にモリアスと、そう呼んでくれても構わないぞ」


「元盗賊……」


「ぶ、物騒です!」


 ルナとアンジェリーナが順に反応した。

 彼女の相貌は、服の着崩し方からもわかる通り、少しお偉いさんには遠い存在だと思っていたが、成る程。過去に原因があったのだ。


「ハハハ、そう驚かれるのには慣れてるよ。これを言うと、皆同じくして怯えるからね。ギルフェルトにも前は驚かれたな」


 そう言って、視線をギルフェルトに移すが、その時を思い出すギルフェルトは、ただ苦笑いを浮かべている。


「ま、本音を言うと、君達の怯える顔が見たいだけだ。今はご覧の通り。似合わぬ仕事に追われる始末で、誰かをいじめたくなってね。実際そう怯えずとも、盗賊としての心得、君達の何もかもを奪おうだなんて、心の奥底で思うだけに留めているよ」


「思ってるんだ」


「やっぱり、物騒です」


 ルナとアンジェリーナが少しの懐疑心を抱いていると、その様子にグラハートが満足そうにして笑い、指組みを解く。


「戯れはここまでにして……アンジェリーナ様。まず、私から謝らせてくれ」


 突然、真剣な眼差しになったグラハートは、以前から交流があったのか、知る由のないアンジェリーナへ目をやると、謝罪を述べて頭を下げた。

 それに、困惑を抱いたアンジェリーナは聞き返す。


「何故、私の名を……それより、どうして私へ謝るんですか?私は、あなたの事を今初めて知りましたけど?」


 その言葉を聞いて、しまったと言う様な顔をしたグラハート。独り言の様に呟いた。


「何故ってそれは……ああ、そうだった。情報によれば、君は何も聞かされていないらしい」


「何をですか?」


 その疑問に対しては少しの沈黙を生むが、グラハートは心の内で勝手な自己判断を下した。


「……ま、言ってしまっても構わないか。ここで私が黙秘することは、君にとっての苦痛となりかねないぁらね」


「ん?」


今し方、この国へ入国したアンジェリーナにとって、その分かった風な口調は違和感を覚える。

たとえ貴族らしい目撃例があったとして、人の噂話ならばそこまで早くに伝わらないだろう。

その答えを語るべく、グラハートは一度、深く息を吸う。


「まずは、なぜ君を知っているかだが、私の知りうる情報を話すと、君は……アンジェリーナ様は、隣町の高貴族、ダグラス家の御息女として、初めての門出のため、また、契約の仲介者としてこの国へ赴き、大地との契約を再更新するためにやって来た。そう言う状況だったかな?」


「ええ……そうですわ」


 しかし、やはり何故という疑問は消えない。

 そんな中、隣では、ギルフェルトが驚嘆する。


「契約の仲介者って、あの?」


「なんだそれ?」


 イナズマは1人、状況がわからずに頭を悩ませる。

 それを聞き、ルナが捕捉した。


「仲介者、物語で出てくる天与鎖(てんよのくさり)


「ん?テンヨ、なんちゃら?」


「天与鎖だ。それは、『天から与えられた契約の鎖』。人が何も持たずに生まれ落ちた最初期、万物との繋がりを作るために与えられたと言われる伝説上の神の鎖だ。それと同じ様な力を有した人々も同じく、そう称される」


イナズマはそれに違和感を覚え、首を傾げる。


「それじゃ、そんなに大事な役柄のある大の家のアンジェが、どうして手放しにされてるんだ?さっきだって、あんなに危ない目にあってたんだぞ?」


先程は、イナズマ達がいなければ騒動が発生しなかったとはいえ、結果は結果として捉えなければならない。

それは、例え低かった可能性でもだ。

目の前でアンジェリーナが冒険者に囲まれる光景は、見ていて気持ちのいいものではなかった。

それを察した様に、グラハートは続ける。


「だから今、私がこうして謝っている。元は、付き添いの、白髪の冒険者がいたのだろう?私は彼と合流する手筈だったんだ。しかし、それは間に合わなかった。だから、こうしてね」


「成る程!だからさっきのやつとアンジェが一緒に。確かに、あいつは性格を除けば、守ることに関して力不足ではないだろうな」


 そう言うと、アンジェリーナがイナズマの方を向く。


「イナズマ様、アズベル様をそんなに悪く言わないで下さい。元は、私が悪いんです……」


「やはり、彼は離れてしまったか。君のお父上、アンジェス様からの手紙で、『冒険者の方に、多少難あり』とは書いてあったが、成る程。これで待ち合わせの理由も頷けるが……はぁ、だから大雑把な私にこんな仕事向いていないと言ったのに、クソ」


 1人、机の上で暴言をはく彼女を遠目に、ギルフェルトらは『大変そうだな』と、僅かな同情の目を向ける。


「コホン!まぁ、話を戻すと、そう言うわけで私が君の、いやアンジェリーナ様の……」


「もう“君”でもなんでも結構です……」


グラハートは先程から、何度も言い直しを図って苦い顔を浮かべる。

 グラハートの仕事と性格との噛み合わない現場に、アンジェリーナは密かな慈悲をかけた。


「そうか?では遠慮なく……えーと、それで、どこまで話したっけ?」


「謝罪の理由、中でも、手紙が何とかで、アズベル様のお話までですわ……」


 この状態には、流石に皆が呆れた。

 グラハートはそれに対し、一度気を取り直す。


「悪いな。ま、そう言うわけでまとめると、君のお父上から頼まれた私は、君を出向かう予定だった。故に君を先に知っていた」


「お父様ったら、心配しすぎですわ!」


「あはは……」


ギルフェルトは微かに笑う。


「だが、さっきは君が危ない目にあっていたそうじゃないか」


「それは……」


沈黙してしまった。

返す言葉が見つからないのだ。

アンジェスが危惧した通り、何かしらの問題は起きている。

それに、何も間違いはない。


「なんでも知ってるんだな」



「いや、こればっかりは突然聞きつけた内容でな。さっき、ここにやってきた職員から、『白髪の男が、赤髪の男と暴れている』との情報を聞くと同時に、『高貴な身なりの少女が冒険者のゲス共に群がられてる』なんて報告を受けて、初めて現状を理解したのさ。あの時はピンと来たさ。白髪の冒険者と貴族らしい姿の少女、知っていたセットの組み合わせだからな。ま、その冒険者と暴れていたのが君らしいが、君はそこまで問題児じゃないらしい」


 グラハートはイナズマを横目に見ると、全てを言い終えて息をつく。


「だから同時に、君たちには感謝を伝えなければいけないな。君達が彼女を守ってくれていなければ、手遅れになりかねない事態への発展もあり得た。そうなれば、最悪の事態に繋がっていただろう。それら全ての意味を込めて、もう一度謝罪と感謝をしよう。すまなかった。そして、ありがとうと」


 アンジェリーナはグラハートの話を聞きながら、彼女の態度をも見据えていた。

 元盗賊と言うからには最初から信頼に欠けていたが、どうやら、本心から謝ってくれているらしい。

 今までの彼女に対する偏見、評価を少し位上げる。


「気持ちは十分伝わりました。そう言うことでしたら、こちらも謝罪を述べなくてはいけませんね。アズベル様が『ギルドに用があるから、少しジッとしていろと』とおっしゃっていたのには、この服装以外にも意味があったのに、私は軽率にも行動を起こし、あろう事か彼の機嫌をも損なわせましまったわ。今まで聞いたグラハート様のお話、“父上の手紙”等、今回の裏の話はいろいろと初耳ではありましたが、私にも非があります。ここはお互い様ということにしましょう」


 その言葉を聞いて、グラハートはほっとした顔を浮かべた。


「そうか……では、言葉に甘えるとしよう。勿論、今聞いた話は全て、お父上の前にはお控えお願いする。君の父親は、どうやら相当な過保護らしいからな」


「ええ、“容易い御用”、ですわ」


 アンジェリーナはその時、グラハートとの話の終着に安堵すると同時に、父への強い軽蔑を抱き、ニコリと笑みを見せた。

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