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すいません、連載をストップします
「世界の危機が迫った時、女神、人々は勇者に唯一の希望を託し、託された勇者は旅へ出た。」(再録記 第1章1節)
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見上げる上空、あるいは世界を包むその天井はそこにある。
澄み渡る透明は天井を埋め尽くし、そこには煌めく星々が輝いていた。
そんな光景を見渡せる、この大地の先の向こう側には、光の線が何重にも重なった巨大な光が巨柱を為し、世界を見守るようにそびえ立っていた
周囲は静かだった。
今まで何度も挑み、励み、救って、失った男はただ立ち尽くし、静寂な世界の中を傍観した。
そんな男に対するは、黒いフードで姿を覆った男。
その男は、闇を帯びているわけでもなく、輝いているわけでもない、だだ美しいだけの剣を右手に携えている。
その携えられた剣の刃は、それを見入る程に輝き、周囲には血が飛び散っている事すらおかしいと思わせるほどに純粋だった。
しかし、立ち尽くす男はその剣にすら目を奪われず、フードを被った敵に敵意を向けることすら忘れた。
ただ世界を傍観するだけの彼は、目的意識すら曖昧で、今はただそこにいたいのだ。
何故なら、周囲には自分が最も親しんだ者達の死体があるから。
1人は、男の遺体。
彼の両手首はその先が存在せず、心臓辺りには巨大な穴がポッカリとある。
右足も、途中から切断されていて、先が続いていない。
1人は、少女の遺体。
未だに、その両手が握る銃は、埋め込まれた宝石が輝き、少女の虚無な瞳に美しく輝く。
その少女も、男と同じく心臓に大穴が空き、男の死体のそばに転がると、辺りに広がっている血の池に沈む。
1人は、もう1人の少女の遺体。
その彼女は最後まで、赤色位に輝くその魔法杖を離すことはなく、今はただ眠っているだけに見えた。
そんな彼女の周りには、空間が白く光る様に裂け開いている。
ガラスのような空間の破片は辺りを漂い、まるで彼女を覆っているように見える。
(あぁ、俺たちは負けたのか)
世界の危機を託され、ここまでさまざまな困難を乗り越えた。
だが、男が愛用していた短剣はもはや剣先から欠けており、他の仲間の様に男の足場に転がっている。
だから、その両手には何も持たない。
既に、失われ左腕からは、地面にポタポタと血が滴る。
辺りに広がる血溜まり。
それは、水溜りとなって、輝く空を映す。
「なぁ、俺たちは間違っていたのか?ここまで来ても、無意味だったのか?」
それは、ただ己に対する問いでもあった。
ここまで来る必要はあったのか?と心に広がる虚無を埋める様に呟く。
そんな呟きをする顔は、次第に歪みを生む。
目には涙が浮かび、溢れる滴は輝きを外に流す。
「さぁな。もしかしたら、最初からこうなる事は決まっていたのかもな」
フードを被った目の前の影は、ぶっきらぼうに意地悪く答える。
もしかしたらそれが、彼なりの優しい対応なのかもしれないが、今はそんなことなど些細な問題。
決まっていた結果なら、無意味だったのだろう。
それからは、動かない2つの影。
その顔はどちらも闇がかかり、互いに姿を見ているようで、見ていなかった。
今はただ、世界の行く末を見守る様に空を見上げ、ただただ無言の時間を過ごそうとした。
その時の感覚は、今まで感じたことがないほどのやるせなさだ。
やり残した事、伝えたかった事、成し遂げたかった事、約束した未来の楽しみ、それら全ては無に帰したのだ。
これ以上は行き止まり。
結果の変わらない結末なら、最後に伝えるべきだったとやはり後悔する。
(あぁ、運命なんてクソ食らえだ)
そこで、周囲は電子的歪みが生まれ、モザイクブロックが景色を、色を、世界を崩壊させて行く。
「また、あれが始まる」
ただ立ち尽くすだけの男は、目の前で剣を握る男の言葉に首を傾げる。
この様な状況に、見覚えはなかった。体験も無かった。
だが、どこか懐かしい様な脱力感が身体中を包んで行く。
そしてー
前に進むことを諦め、立ち尽くす今を選んだ男は、ゆっくりと曖昧な意識を覚醒させる。
見覚えなどあるはずが無い、頭ではそう訴えている。
だが、実際にはある様な感覚が身体中に駆け巡っているのだ。
これは、そう。正しく、魂にでも刻み込まれた様な、深い思い出。
一帯は混沌と化し、既に崩壊を始めていた。
消える大地、飲み込まれる空間、己の足すら侵食され始めてる。
既に、未来は確定していた。
壁に阻まれ、世界の運命までもを道連れにした。
負けた、負けてしまったのだ。
男は、この世の全てが分からなくなった。
信じた道も、己も、過去も、未来も、運命もー
そこで、ふと浮かんだ疑問。
なんとなく浮かんだそれは、既に思考過程など置き去りにした。
存在した思考回路すべてを追い抜き、帰結した疑問。
ーこれから世界はどこへ向かうのか
世界は、果てることで本当に終焉を迎えるのだろうか?
そもそも、終わりなど存在しているのか。
そんな事は誰にもわかるわけがないと、結局はその考えを棒に振るも、尚考えた。
ーこれからどこへ行くのか
既に、下半身は感覚がなくなった。
きっと、辺りに見える崩壊の原因、光の粒子に飲み込まれたのだろう。
この世の行末は、結局は誰にも分からない。
そう、理解した。
もう、止まる余力も、猶予もなくなった。
目の前に見えるのは、ただ輝き続ける白い光と、それが創りだす巨柱の存在。
しかし、今は青い輝きを生む。
そして、消える直前。涙を浮かべた男は笑顔でー
「み◾️な、ごめ□ーー」
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世界は、蒼白の元に帰結する。
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