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女の俺は世界で一番エロ可愛い  作者: 椎木唯
序章 目覚めは迷子の子猫ちゃん
9/28

大剣のお手入れ。二人の欠陥事実

ちょっとだけ長いです。ちょっとだけ

 夜は凄く寒かった。


 現代日本…て、言い方も変な感じだが野営なんてリア充じみた事をしたことは無い俺は夜の寒さを見くびっていたのだ。リア充を何だと思っているのか。


 日差しも遮られ、風は木々によってある程度遮られ、ちょうど良い気持ち良い気温だね、と大自然のアレを大いに感じ、気分良くなってきた頃にそれである。目覚めは最悪である。

 しかも、それが朝ならまだ良い。良くは無いのだがすぐに体を動かして温まる、そんな方法が取れる。迷子だしね。

 だが、生憎と寝袋に包まれた状態で見える視界にテントから溢れる光はなく、暗闇と、微かな呼吸だけが支配していた。


 ちょっと外に出るか。


 謎の息苦しさを感じ、寝袋から這い出る。気分は脱皮し終わった蝶である。どうも、完全変態のアクです。理科は得意だった気がする。


「ふぅ…結構、体凝ってるなあ。…なあっ!?」


 思わず声を上げてしまう。ビクッと。

 上体を起こし、伸びていた時だった。ふと、隣を見てみると口を縄で縛られている、目がギンギンのシェルダと目があってしまった。


「…え、そんな趣味が…?」


「んー!! ん! んん!!」


 モゴモゴ、と何かを言っている様子だったが…アクの目覚めの景色は徹夜三日目レベルの視線のシェルダの顔面である。目覚めが悪いとかそんなレベルじゃなかった。

 ある程度広いテントなので目を凝らせば奥にキルビアが寝ている事を確認できたのだが…


「さすがに俺でもんなことはしねえよ…」


 視姦と言うやつだろう。男としての過去がシェルダに対して理解を示そうぜ? と、言ってくるが視姦をする人は知り合いにいないので、そんな悪魔の囁きはあくびと一緒に吐き出す。後でキルビアにチクってやるからな。




 寝起きの悪さを実感しながら鳥肌の目立つ肌をさすりながら外に出る。

 焚火をしていた場所に剣の手入れか、大剣をコスコスしているギルバの姿があった。


 物音を感じてか、スッと視線をテントの方に向けるギルバだったが、正体がアクだと理解した瞬間に表情は柔らかいものになった。


「お、アクちゃんか。どうした? まだ夜は長いぞ?」


 優しさか。素直に心配した表情を見せるギルバだったがアクの内心はそんなことお構いなしだった。


「(急にキャラが変わりすぎて身の毛もよだつものがあるわ…いや、この感情はシェルダの地続きか?)」


 んなことはなかった。原因はシェルダだった。

 パーティメンバーの2人が行動に移しかねない変態とかどんな極地だよ。辺境でもんなことはねえぜ? そんなアメリカンジョークじみた事を考えてみるがやはり、極地にも辺境にも行ったことはない。

 寧ろ、その変態の中にお前が入っているんだぞ? と、そんなまである。

 まあ、そんな事実を知る者はいないのだが。



 焚き火を四角形に囲んで丸太を配置しているのだが、数秒迷い、ギルバの隣に座る。

 ここで対面に座るとか距離感がありすぎると言うものだ。思春期の娘に「お父さんの洗濯物、別にしてくれなーい?」と、言われるのと同義なものを感じさせかねない、と考えた末の心遣いである。

 まあ、ギルバはそんな事を考えれる筈がなく、


「え、アクちゃんまさかの脈あり? 一周回ってモテ期きた?」


 と、まで思っている。

 な訳。


 確かに、ギルバは40にしては結構若々しい見た目だし、筋肉質でイカしたおっさん風だがアクのストライクゾーンはボーイッシュな女の子である。もっと詳しく言うなら自分自身である。

 性に関してのあれこれは深く考えないタチだがストライクゾーンが狭すぎる。変態すぎてギルバ達に引けを取らない程である。


 話を戻し、アクがギルバの隣に座ったところである。


 永遠不朽、変わらずのウェディングドレスなのだがもう、一周回って慣れてきたまである。森の中の花嫁も定着してきて、ギルバ達の好奇の目は少なくなってきていた。まだあるにはあるのだが言わなければ気づことはない。



 咳払いを一つ入れ、説明を入れる。


「寝てたんだけど寒すぎて起きた」


 その話を聞く傍ら、ギルバは大剣を隅に置き、コーヒーを入れ始める。いや、コーヒーは苦手なんですけど…と、アクは言えない気持ちでいた。甘党では無いが子供舌なのだ。だからハンバーグもオムライスも大好きである。それは子供舌関係あるか?


 ん、と差し出されたコーヒーを受け取り、ゆっくりとすする。


「…あっぢっっ」


「ハッハッハッ! そりゃ、熱湯だからな! …ま、でも良い感じにあったまったんじゃねえか?」


 豪快に笑うギルバを横目に睨みつけながら火傷したベロを外気に触れさせ、冷やす。

 恨む、呪う、EDにしてやる…と、文句を脳内で展開していき、俺には魔法があるじゃねえか、と魔法で冷水を生み出す。

 一周回って、その発想に至れたギルバに感謝の念が出るまである。なかったけど。


 手を突っ込み、ゲロを吐くみたいに冷水で冷やしているアクの姿をどこか、懐かしむような優しい目で見つめるギルバがあった。一歩間違えれば変態である。


「あ、あったまるって…物理的にも程があんだろ…。つか、ギルバも寒くて目が覚めたのか?」


 そんなギルバの奇行を知らないアクは質問する。火傷したと思ったのだが、感じた瞬間に吐き出したのが良かったのかそこまで痛みは残らなかった。


 仕返しは絶対にしてやるが。そんな気持ちは残る。


 同じように自分のカップにコーヒーの粉を入れたギルバは軽くかき混ぜ、中身をすする。大剣を指差した。


「いや、自分の道具の手入れだよ。見張りのついでに、な」


「へえー」


 気の抜けた返事をしつつ、指差している大剣に近づく。

 こんなん持ち歩いていたら銃刀法違反で一発即発だぜ? コスプレにしては反射する刀身がリアルすぎるしね。そんな若手刑事の心象で歩く。

 目当てが剣ではなかったらぱっと見、子犬に近付く美女である。


 少し前のエルダートレントとの戦いを思い出す。あんなに力任せにブンブン振り回していたのだ。どんなものか私、気になりますっ! そこそこ、人並みくらいわね? 剣に人並みもクソもねえよ。

 どの時代でも男の子は武器に幻想を抱くものなのだが。力の象徴的な剣はいかなる時でも男の心を惑わせる。まあ、男では無いんだけどな! どちらかと言えば女寄り。


 馬鹿みたいにでかいそれは、小学生1人分くらいの大きさはある。


「(ってことはこのおっさんは小学生を振り回してるってことなのか…特殊性癖だなあ)」


 飛躍しすぎなのだが。

 そんな発想に至れる自分自身が特殊性癖のケがある事をまだ知らない。


 じっくり観察していると一つ、気になる点があった。


「なあ、これ、刃こぼれエグく無いか? 無知な俺でもわかるほどだけど…まさか、そう言う武器?」


 そう、刃こぼれがエグいのだ。刃こぼれレベルではなく、刀身にヒビが入っている部分もある。耐久度に難ありだ。

 アクの質問に、あちゃー、気付かれちまったか、と言う。今時、そんなありふれたあちゃーもそうそう見ないけどな。

 絶滅危惧種じみた反応に少し、珍し目を感じる。


「確かに、刃こぼれなあ…まあ、これはアクちゃんをパーティに入れたのと関係するんだけど俺たち、正直一戦一戦が今綱渡りなんだよ」


「…どう言う事?」


 カッコつけた言い回しに疑問が隠せない。刃こぼれと俺にどんな関係が?


「俺たちが迷子になってから一ヶ月経つんだけどな、俺の武器は刃こぼれしてるしヒビすらも入っている。もう

、使い物にならないレベルだ。しかも、キルビアなんて触媒の魔法石の個数は一桁になったと言っている」


「もう、餌じゃん。その手ぶら具合…。で、シェルダは?」


「シェルダは…アイツは日に一回…自己発散の時間を作っていたから暴発するのも時間の問題、だな」


「…猿じゃん」


 見た目の年齢で気を使ったか、言葉を隠して言ったのだがアクにはお見通しである。まあ、隠してはいなかったが。

 少し、理解に時間がかかったが男のアレがあったのでそこまで嫌悪感は抱かなかった。寧ろ、アイツすげーな。こんな場所でもおっ立つのか。と、尊敬の念が出てきそうになるまであったかもしれない。そんな事実はなかった。



 主戦力たりえるギルバ、キルビアの武器が少なく、シーフ的な立ち位置のシェルダの性事情は罰発寸前。

 おっと、危ない橋を渡ると言うか壊れ始めのマンションに住んでいる危機感を感じ始めるぞ、俺。それ死、確定じゃねえか。

 そんな前門の虎、後門の龍的な危機的状況を聞かされ、徐々にアクの内心は追い詰められていった。安心が不安に塗り替えられた瞬間だった。


 だが、とギルバは続ける。


「そこでウィンドドラゴンを単身で倒したお前と出会った。俺は、これは運命だと思っている。俺たちの我が儘であるが、行動を共にさせてくれないか」


 さっきまでの保母のような表情が一点、真剣極まりない顔を見せられ、危機感が塗り替えられる。命の危険から、貞操的な危機感に、だ。

 このまま「死ぬくらいならいっそっ!! ……え、お、お前…無い、のか…?」的な展開になる予感ビンビンである。根拠はない。


 お花畑であるアクであるが実際、森の中でいきなり目覚めた時も、エルダートレントに貞操的な危機感を覚えた時も、ウィンドドラゴンと対峙した時も命の危険を感じたことは一回もなかったのだ。寧ろ、楽しみの延長戦と感じていた。

 やられるわけがない、死ぬわけがない。そんな妙に俯瞰した気持ちを後押しするような魔法が使える事実だ。慢心が自信に変わり始めている。


 そんなアクからしてみて、今の状況は楽しいものがあった。

 出会って、一日も経っていないのだが嫌悪感や居心地の悪さを感じたことはなく、寧ろアットホーム的な居心地の良さを感じていた。

 ギルバの言葉にNOと答える理由は一つもなかった。


「ギルバ、顔を上げてくれ」


「…アクちゃん」


 場違いなちゃん呼びに頬が引きつるものがあるが無視をする。


「ーーオッケーだ。今度から俺のことは隊長と呼んでくれ」


「隊長…」


 と、そんなクソみたいな茶番は捨てる。


「初めて会った時は不安がたくさんあった。でも、その不安をすぐに塗り替えてくれた。最初にシェルダが言っただろ、どっちにもwin-winな関係だって。俺は寝るときに安心感があれば十分だよ」


 役に立てるかは自信ないけどな。

 大剣を突っついていた体制から立ち上がり、屈折なき笑顔を見せる。本音である。


「つか、女に守られる男って情けねえのな。ギルバ40なんだろ? 良い歳なんだしさ…」


「…ん? どこ情報だそれ。俺まだ二十代だぞ? シェルダと同い年」


「…え?」


 オイオイ、キルビアさん? 40何歳ってどこ情報なんですか?


 この、熱い展開にも起きないキルビアに不信感を抱く。いや、ギルバもギルバでその風貌で二十代は信用できねえぞ? サバ読んでるか?


「サバ読む意味が分からねえよ…ん、もしかしてアクちゃんっておじさん系が好きなのか?」


「ねえよ…」


 妙に冷め始めた心に流されながらテントに戻る。殆ど八つ当たりと言っても過言ではない蹴りがシェルダを襲う。


 …そう言えば俺って今、スカートだよな? パンチラなう?


 もう一発蹴っておく。

 か細い手足であるが精神的なダメージはいくと思うのだ。殴られて興奮する変態ではないので多分大丈夫だろう。

 自信はないが。


 「(意外と質素な下着履いてるんすね…それでも可愛さが削ぐなわれていないところがすごいっすよね…)」


 もう、ほぼ想像通りのシェルダの変態的感想が心の中で呟かれる。蹴りの瞬間と、蹴りの瞬間でパンチラ済みであった。

 意外と鍛えているシェルダ。打撃時のダメージはゼロであった。これが鋼鉄のどMか…。


 微睡の中のアクは、そこ知れぬ寒気を感じたが…起きたときには忘れていた。流石、忘れる系女装趣味。どんな趣味だよ。渋滞すぎな。

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