裸族云々カンヌン③ 〜蜥蜴の肉団子〜
です
森の中で全身が神々しく光りました。生物学的に人ではないかもしれない、と目を逸らして新事実をねじ込ませようとするが…まあ、嘘である。嘘で塗り固められてuvカットなまである。お肌のキューティクルを守れるね。人間性は守れないけどな。
危険そうなドラゴンから逃げてきたのにわざわざ目立つような光り方をしたのだ。見つけてくださいと言っているようなものである。以心伝心であった。
『グルゥゥウウウゥウウウ……』
涎を豪快に垂らし、こちらを見つめてくるのは案の定、ドラゴンであった。案の定って何だよ。理解が追い付かねえよ。
意外とドラゴンってかっこいい系じゃないんだね、グロいんだね。とか思っているが相手は人外である。そんな事お構い無しだった。
前腕が翼になっており、簡単に説明するならばムササビのような造形なのである。チンプさが増したな。命の危険はより増したけどなっ。
嬉しくない情報だった。
クンクンと、鼻を震わせ匂いを嗅いでくるドラゴンの一周回った変質者じみた行動に冷静さを取り戻す。幾ら人外と言っても生物は生物なのだ。エルダートレントが俺を襲ったように、ドラゴンだって人間の女をソッチ目的で襲う可能性はある。…それで命の保証はできてないんだけどな。寧ろ貞操概念的に危機感をヒシヒシと感じるわ。
ドラゴンセックスって…と、新しい道が導として見えてくるが見なかったことにし、現状を打破できる手段を思考する。幸か不幸か、お相手さんは匂いを嗅ぐのに真剣である。不幸の方が優っているけどな。
現状を打破できるものとは?
そんな題材にエルダートレントから逃げる道すがらに落ちていた剣の事がふと、頭の中を過るが…この、小枝のようにか細い腕では存分に振るうどころか掴みあげることすら難しいだろう。女の子を求める救世主さんは今が出所さんですよ、とゲームであればいい感じのシチュエーションに期待を含ませる。
頭はそのままに目だけを動かすが人っ子一人居ない。聞こえるのは荒いドラゴンの鼻息と、風によって擦れる木々の音だけだった。
八方塞がりとはまさにこの事である。
何が好き好んで女体化し、ウェディングドレスを着て森の中でドラゴンと対峙しなくてはいけないのか。どんだけ前世で悪行を重ねまくったんだ、と思ってしまうが俺に一切非はない。強いて挙げるとするならば職業のところでお嫁さんの事を考えたから…と、思ったが
「(いや、女の子になったらソッチの未来を考えるのが普通じゃね? まさか、普通じゃない…?)』
前提がそもそもおかしいが。
俺は悪くない。
なら誰が悪いか? 消去法を使うのなら残るのは神isゴットの自称さんだけである。寧ろそいつしか怪しくなかったわ。灯台下暗しとはこう言うことを言うのか…。
日本文学の便利さに身を振るさせる妄想を繰り広げながら内容を思い返す。ドラゴンは気長な性格なのかまだ襲ってくる気配はなかった。代わりに変な甘い、発情期の猫のような声を発し始めているが…まさかのエルダートレントの二の舞?
大慌てで思い返す。
「(えっと確か…って、思い返す内容もなかった。重要と言えるものは魔法という概念がある、て話だったよな…)」
いきなり森の中に連れられ、コスプレしてドラゴンと対峙する。打開策は魔法!? とかどこの企画モノだよ。新し過ぎて理解が及ばないわ。
行動で示せるものは心許ない刃こぼれナイフを突き刺すことだけなので考えを魔法にチェンジさせる。マジで森の中でこの装備って舐めているとかしか思えない。まあ、森とか森林って小学生以来行ってないんだけどな!
ワンチャンカブトムシいないかな…。
忘れかけていた幼心に隠れていた男心が顔を見せる。
だが、そんな純情もすぐにかき消される。原因はドラゴンの下半身から飛び出る突起物である。
「かっ…んぜんに性交渉準備完了じゃねえか!? マジで異種属に興奮できるってどこまで見境ねえんだよ…」
やれやれ、これだから男の子は野蛮なのよ。と、俄然に広がる六分の一サイズの電柱に、一周回って理性を保つ事ができる。巨根とかのレベルじゃねえぞ。リアルに突かれて死ぬじゃん。
完全に、俺個人を狙う視線に身の毛が逆立つものを感じ、もう無我夢中! と目がハートマークのようになっているドラゴンの正面に手を差し出す。
「魔法なんだから…『止まれ』!!!」
『ギャンッッッ!!??』
魔法とは何か、その疑問が解決される前に魔法の使用に伴ってか倦怠感が少し襲ってきた。例えるなら賢者タイムである。
そんな賢者タイムと引き換えに放った魔法は『止まれ』の言葉通りにドラゴンの目の前に厚さ十センチ弱はある壁を作り出すことに成功した。その結果のドラゴンの痛々しい声である。
目の前に現れた砂の壁に恐れ慄きながら魔法が使える、魔法使いの称号に一人興奮状態だった。どうも、興奮冷めやらぬアクです。マジで悪じゃねえか。何がだよ、少し変態なだけじゃねえか。悪じゃねえか。
いつものように自己完結漫才を行い、自身が変態だと言うことに合点が言ってしまう。話し合いの結果なのだ…これは否定できないだろう。
先程のドラゴンの声で安心感が出たのかその場から去ろうとした時、全身を炙るような高熱が襲ってきた。
発生源は…崩れた砂にうもっているエメラルドグリーンの勃起ドラゴンだった。見た目的に木属性感がすごいのだが…ドラゴン全国共通なのか。ドラゴンと言ば、で出される鉄板のドラゴンブレスが波のように襲ってきた。火の海である。涼しげな印象は毛ほども浮かんでこない。
「『消火』!!」
止まれ、で魔法が使えるのなら…同じように俺の考えることに対してのイメージを含ませて発動出来るのではないか? と、ノーベル賞並みの発見を短時間で導き出し、多量の水が俺の背後から守るように火の海へと突っ込んでいった。
一瞬で周りは水蒸気で覆われ、視界が封じられてしまった。
先に動き出したのは深緑の色のドラゴンだった。
上体を起こして両碗の翼を大きく羽ばたかせる。
先程までの霧の世界が嘘だったかのように一瞬で視界が開けた。ここで先に動き出せたのは俺の方だった。
「『貫け』ッッ!!』
イメージしているのは鋭い岩が向かって飛んでいくものである。
それに沿うようにして、向けた左の掌から幾十にも及ぶ魔法陣が展開され…そこから無数の破片がマシンガンかのようにドラゴンを襲った。
鈍く、気持ちのいい音である。
ドラゴンの恐らく硬いであろう鱗を貫通し、後ろで伸びていた木にスカーん、と音を響かせ当たり、勢いを無くす。威力抜群である。気持ちは無双ゲーの主人公である。服装だけ見てみればそう言われても違和感は無い筈。いやあるけどな。
R指定がかかりそうなグロに成り果てたドラゴンの生死を確認しようと、脱力し身体中に開いた穴から青い血を出している体に追い討ちの石礫をプレゼントする。これほど嬉しくないプレゼントはそうそうないと自負できるわ。誇っていいことではないと思うけどな。
先程と同じ要領と、だが前よりは数は少なく、場所も当てずっぽうではなく頭部を狙って。狙撃手アクである。距離感は十メートルもいかないくらいなので狙撃もクソもないのだが。心持ちの問題である。
見事に頭部に直撃した石礫。追加効果が入ったのか太く長い、ドラゴンらしい首が先程のブレス同様の熱量で弾け飛んだ。
「やっぱり、死体に鞭打って良かった…。最後っ屁でブレスとか卑しいにも程があるだろ。流石ドラゴン」
アニメ系でよくある話である。
詠唱途中、又はブレス攻撃の発動途中に攻撃を加えると外部からの衝撃に耐えきれず暴発して自滅する、と。マジでどこ情報なんだよ。異世界情報に精通している日本人って意味がわかんねえよ。
今度は大丈夫だろう。
頭部がなくなったドラゴンの残骸をしっかりと確認し、初の戦闘は終了を迎えた。結果は圧勝の一言である。ワンサイドゲーム。この世に敵はいないのではないか、世界に俺の名前を広めよう。と、徐々に悪の道に進み始めている思考に恐れ慄きながら脳内に響く無機質な声に意識を傾ける。
<一定数の経験値を獲得した為、レベルアップを行えます>
<1→31。30上昇するので合計63個の魔法が使用できます>
<独自の魔法を確認しました。既存の魔法と同化し、簡略化します>
名前;アク
性別;両性具有の具有無し
職業;お嫁さん
レベル;31
ステータス
『ドラゴンキラー系花嫁』
魔法
『・基礎魔法lv2 ・中級魔法lv4 ・上級魔法lv1』
ユニークスキル
『真実を告げる瞳』
称号
『異世界転移者。異世界転生者。両性。ドラゴンキラー』
半ば強制的に出てきたステータス表記に開いた口が塞がらなかった。
異世界転移者、転生者って書いてんじゃん…もう、ここ異世界確定じゃないすか。ステータスが実際に出てくる現代社会を来ていないのでその時点で異世界は確定しているようなものなのだ…まあ、そこまで見れていない時ってあるよなって話。
そして性別に関しても…これは両性無しから具有無しに変更されたのか? 何の違いなのかは理解できないのでスルーだ。スルー、するぅー? と、一人で突っ込んでおこう。
職業はもう周知の事実なので別にいいが…ドラゴンキラー系花嫁って何だよバワーがすぎるだろ。何そのスタミナ丼並のエネルギッシュな単語。ちげえな。噛み合ってなさすぎて新鮮味が強過ぎるのか。言い換えればフレッシュになる気がするので同義だろう。
「…そう言えば戦う前にドラゴンを鑑定、ユニークスキルか? それで見ておけば良かったな。情報があるのとないのとでは戦い方が
違ってくるよな」
前世高校生に何生死を賭けた戦い望ませようとしているのか、思ってしまうが飲み込んだ。ただでさえ独り言多めな時なのだ。独り言で内容がある事を口走ってはいけないのだ。そうした場合、周りの人が興味を示してくるからだ。
何これ、俺カウンセラーの人?
ウェディング姿のカウンセラーって新し過ぎて一周回っても新聞にすら取り上げてもらえないじゃん。そう言うプレイなんだ、て
判断される時が多そうである。
変態は感染するらしい。
道中のエルダートレント、ドラゴンとの出会いで変態成分を過剰に摂り過ぎてしまったか。脳内はいつも以上にピンク一色だった。元から説が濃厚だけどな。
ステータスの確認が終わり、俄然に広がる血の池に佇むドラゴンの肉塊。フリーホラゲーでもここまで露骨なグロシーンは出てこないものである。やったことないから知らないけどな。
ドラゴンは高く売れると相場がきまっている。
ワニ皮みたいなものであろうか? 喩えにワニを出したがワニのどこが希少性が高いのかを理解できていないので意味がないかもしれない。ワニじゃなくてヘビ皮だった気もしてくる。
そうならばこの肉塊の高そうな部位を取れば良かったのだが…流石に肉塊過ぎて触る気にはなれませんでした。
だがしかし、空腹とは逃れられないものである。
そんな異様な空腹感に「ああ、そう言えば朝から何も食べてないよな…」と、その理由を知る。ならしょうがない。動いたからお腹減るもんねしょうがないしょうがない。
肉塊について「キャーあたし怖ーい」的な女子高生を醸し出し、女としての自分を曝け出し終わったよな、と自己完結する。
さて食べるか。腰を下ろし分からないながらも食べられそうな部位を探す。
ラノベや漫画の世界では美味いと不味いの両極端な意見に分かれるドラゴンなのだ。楽しみやワクワクが先行する。
適当に肉を剥いで魔法で作った火で焼いていく。マジで夢も幻想もクソもない。ただ真面目な食事時間である。毒あるか分からないからロシアンルーレットみたいな面白さが感じられる。
自己完結のロシアンルーレットはもう自殺じゃねえか。