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女の俺は世界で一番エロ可愛い  作者: 椎木唯
第一章 力で商人のヒモになりたい
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上げて落とす、悪女アクちゃん

 前門の虎、後門の竜。とそんなことわざがある。意味的には八方塞がりである。文字数的にもそっちの方がわかりやすいじゃん。

 今の場合を表すなら前門のモルリ商会、後門のコロッセオ専属である。一端の女装高校生がどうしてこんな高待遇に…と、冷静になった頭でふと考えてみるが時既に遅しである。と言うかコロッセオでの戦いを振り返ると既に人では無いので人智外である。人のルールに縛られない変態ほど凶悪なものは無いのよ…。


 と、ビキニアーマーの試着が終わり、


「今日は解散だ。ちなみに明日は暇か?」


「ふっ…ニートに仕事の予定を聞くもんだぜ?」


「そ、そうか…」


 とのやりとりがあった為、帰路に帰っているところである。いやね、ニートって表現したけどモルリ商会の方から仕事の話ないんだもん。週に何回かの新作のモデル、とかそんなのは人伝てに聞いたけど…まあ、言って仕舞えばここは海外である。日本の尺度で測っている俺の落ち度だろう。


 それにしたって、もっと煮詰める話はあるでしょうに、と思ってしまう。だってコロッセオのオーナーに契約の穴をつかれたんだぜ? コロッセオのオーナーと言えば悪虐非道な限りを尽くして、自身の専属の美少女と駆け落ちしそうになっている主人公を法を使って、武力を使って脅して、最終的には殺されるような役回りだぜ? 知能戦で負けたら意味ないでしょうに…。

 まあ、モルリさんが俺の事をそこまで重要と思っていないのかもしれないが。


 結論としては、例え話で出たコロッセオのオーナーは正しい行動をしている、って事だ。自分の商品と勝手に駆け落ちしそうになっている主人公って…夢みがちなチェリーボーイである。世の紳士諸君は「大体十五を超えたら非処女である」を教えて差し上げないと。例え話の主人公は初物か否かで決める人ではないし、話の裏は存在しない。ソースは? と聞かれたら焼きそばの、としか答えられないだろう。




 と、まあ、ほぼ真っ暗な、魔法的な灯りだけが頼りな夜道をそんな妄想をしながら歩いていた訳である。妄想は妄想の域を出ないが…まあ、ダブルブッキング的に、二足の草鞋を履いている事は事実である。腹に溜まった食事の数々はクソとして実体を持っているし、何ならコロッセオの専属の件の契約書も持っている。拇印で良いよって用意周到かよ…。


 まあ、そろそろ認めよう。


 ジュリさんの店から出て、ナンパされるまではまだ帰りの道が分かっていたんだ。出てすぐ、真っ直ぐしか進んで無かったからね。で、ナンパから助けてもらってレストランに連れて行かれたのが運の尽きである。完全な迷子になっていた。だってしょうがなくない!? この街で生まれ育ったとかなら分かるけど、俺異世界転生者だぜ? 未開も未開、秘地も秘境よ。ファンタジー的なノスタルジーを感じるわとしか感じれない夜道を進んでいます。誰か、迷子の俺を助けて…。


 現在はビキニアーマー試着の時に新衣装としてメイド服を改造したエロチックな服を着ている訳で、全くの新体験をしながら迷子であるのだ。

 快感と、絶望感が入り混じった状況は、モザイクありと言われたAVでモザイク加工されずに海外の動画サイトにアップロードされた時と同じ…!! そんな奇天烈な体験はした事ないので例え話である。背徳感と絶望感のダブルアタックである。

 レストランで食事をとっている時に雨でも降っていたのか、水溜りが所々にあり、街灯で照らされた自身の姿が水の中に写る。とても映える。芸術作品として世に出さないと人類規模で損ではないのか? と、本気で思うような芸術性である。とても、儚く、それ故に美しい。

 ああ、俺が、俺で良かった……。


 一人で惚けていると見知った顔が曲がり角から出てきた。


「あれ、アクさん? どうしたんですか一人で。夜道で女性一人は危ないですよ?」


 モーリであった。

 そんな紳士的な発言をする彼の背後には一人、護衛として連れているのか屈強そうな男が斜に構えてこちらを見てくる。数秒目が合い、頬を赤く染め、目を逸らされる。照れるなら目を合わせるなよ…。

 ロングヘヤーになったアクである。清純さが表に出てきているのか、清純パワーで男の不純な感情が浄化されたのか。真剣そうな表情になって護衛の任務に向き合っていた。まあ、付き添って警戒だけなので向き合うもクソもないと思うけど。


 そんなモーリの護衛の男との青春ラブストーリーは数秒で幕を開け、幕を閉じた訳であるがモーリが知るところではない。無視されて、傷ついたのか少し表情が曇り始めたモーリを励ます。


「おお、ごめんなモーリ! 童貞なのに一丁前に紳士を気取るから驚いちまったわ!」


 肩をバンバン叩きながらのボディータッチ。想像するのは夜の街である。やはり行った事ないけど。

 少し体を近づけ、胸が当たるか否か、の間合いでか弱そうに言う。


「まあ、でも…心配してくれて嬉しい。心細かったから…」


 若干涙目で、小動物チックで。

 初めて会った時とのギャップがすごく、驚いているのかモーリの心配そうな表情が崩れる。頰が染まり、だらしなくニヤける。


「え!? えぇ!?」


 言葉にならないようで、単語ではない文字の羅列が壊れた機械のようにモーリから出てくる。


「な、何だよっ! 嬉しがっちゃいけねえってのか!?」


 と、追い討ちをかけるようにキレてみる。


 頬を染め、今度はツンデレのツンで反応を示すのだ。

 男は男まさりの女を男友達と見るが、それでも女は女である。ふとした女らしさに目を奪われ、変わったシャンプーの匂いで心奪われ、結局は男女の仲に戻ってしまうのが通説だ。情報源は恋愛ゲームである。

 俺がモーリに見せる顔として、エッチな事をさせてくれそうなお姉さんであると想像している。…自分で言ってて悲しく思う部分はあるが、女装した自分を認めてくれると考えると気分が良いモノになる。


 デレを、ツンを。

 ツンデレを見せた後は…


「でも、見つけてくれたのがモーリで良かった。モーリなら…」


「ぼ、僕なら!?」





「気兼ねなく家まで送ってくれそだもんな!! 良かったぜ、絶賛迷子中だったからな!!!! 一人寂しく徘徊するか、襲われて無理やり寝床に連れられるかの二択だったからな! 助かったぜ、モーリ!!」


 盛大に落とす。


 バカがッ!! 俺が真に心を許す相手は女装した俺って決まってるんだよ! どんなに輪廻転生してもそれは揺るがないし、マインドコントロールされてもそれは俺の魂に刻まれてるからな!!

 全身全霊で女装した自分しか愛せない、と語る俺はハナから見れば変態だろう。なんせ言ってる俺が変態だなー、と思うくらいである。


 気の迷いであったモーリのおちょくりも大詰め、そしてフィナーレを終える。残ったのは永遠と独り言を呟く抜け殻のようなモーリであった。


「…だろうと思いましたよ、ええ、だって相手はアクさんですよ? 奇想天外、奇天烈、悪鬼、メスガキの異名を持つアクさんですから勿論騙されているだろうな、イタズラだろうなっては思ってましたけど…お、お男の純情を弄ぶなんて…び、ビッチの所業じゃないですか…」


 その後はしっかりと家に送り届けてもらいました。家って言うかモルリ商会に部屋を貸してもらっているので、モーリとしては家に帰るだけって感じだと思うけど。まあ、からかって悪かったと、そこそこに余っているウィンドドラゴンの歯を渡したら機嫌を治してくれたので友達関係は継続である。それ以前に同じ職場で働く同僚だけどな。部署違うけど。

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