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女の俺は世界で一番エロ可愛い  作者: 椎木唯
第一章 力で商人のヒモになりたい
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モルリ商会の子会社はワイバーンを飼っているらしい。

です。

「なあ、知ってるか? 襲う奴は襲われる覚悟のあるやつだけだって話。だからこれは正当な行為だから。自衛行為的な?」


「自衛の意味を調べ直したほうが良いと思うけどな…」


 表情から判断するに心にも思っていない事を言いながらヴェイルは襲ってきた強姦未遂3人の財布の中身を頂戴していた。しっかりと細々とした小銭もだ。神経が図太いのか、細部にまで気がつく良い男なのか。まあ、分かる事はヴェイルと街中は歩けないって話な。マジでこれ。


 そんな事を考えながら、満更でもない表情のままヴェイルに近づく。

 こんな現状になったのには数十分前まで遡らなきゃいけないので軽く割愛するが、まあ、言ってしまえばドレス姿の俺の美貌に恐れ慄いた我慢汁ダラダラの野獣どもが襲ってきたって話だ。まあ、見た目良いとこの嬢さんなので圧倒的な場違いの薄暗い、裏道を歩いていたら絡まれるのは道理だよねって話。


「で、臨時収入だっつってここまで来たけどさ。これからどうすんの? 俺、はじめての仕事が美人局って嫌なんだけど」


 美人を餌に男を引っ掛ける。

 行為を文字に起こしてみると完全な美人局である。マジで。初仕事がそれって何なのよ。恐らく服屋的な仕事ではない。闇営業かしら?

 ほんのりと、解雇の文字が浮かび上がる。が、すぐに振り払う。バレなきゃバレないのだ。



 絡んだ瞬間に強烈な顎への蹴り、振り返り様の回転蹴り。立つ鳥跡を濁さず的なアッパーで締めた訳だが。

 色々漁り終わったヴェイルはホクホク顔で適当に麻袋の中にお金を入れ、立ち上がる。

 顔に浮かんでいる表情はさっきまで暴力を振るっていた人間とは思えないほど、良い表情だ。


「ん? ああ、散歩だよ、散歩。折角の後輩だし、色々と周りのことを教えていこうかなって。俺、後輩想いだし」


「後輩を思ってる奴は初対面数十分後にこんな事はさせないんだよな…まあ、怪我してないし良いけどさ」


 ヴェイルの厚顔もそうだが、アクの気にしない精神もすごいものである。枯れているのか。それとも女装している今に満足してそこまで思考が回っていないのか。恐らくその両方である。立たないし、出ない。ブツがないので当たり前なのだが。


 風が股を抜ける新感覚に身を委ねながらヴェイルを先頭に裏道を抜けて行く。

 さっきまでの行為が見られていたのか、最初の時とは違った目線を感じられる。だがしかし、そんな中アクの内心は


「(家の中で完結していたから出歩くのは初体験だなぁ…人の目線が気持ちいいわ)」


 見てもらうこと自体に快感を覚えていた。既にさっきまでの美人局は頭の中に残っていなかった。いい性格をしている。


 裏道、と言っても想像していたゲロや糞が塗れている、浮浪者の集まりではなく、ただ単純に人通りがない為ホコリが地面を覆い、所々にネズミかと思わせるうっすらとした線が見えるだけだ。まあ、少し広い道には浮浪者的な人も居るのだが。まあ、誤差である。人通りがない、それで終わりだ。

 そんな道を庭かのように意気揚々、自信に塗れた背中を見せながら進んでいくのが我らのヴェイル。戦いっぷりから結構な実力者であることが見て取れる。男心に溢れているアクはどのようにすれば倒せるのか? と考えたが魔法ブッパで終わんね? と考え、結論が出た。そもそも魔法に適性のある人間はいても抵抗力がある人間はいないと思うのだ。何だよ、魔法に抵抗のある人間って。

 銃は人が使えるが、使えるだけで撃たれたら死んでしまう。そんな感じである。一方通行だ。使えるだけ。


 そう考えればマジで天下統一を目指せるかも、と考えてしまう。そうなった場合、新作の洋服が出ないだろうから断念する。

 可能性の塊であるアクちゃんである。やったね、可愛くてエロくて男心もわかって強いね! 属性を盛りすぎて胃もたれしそうなまである。食べるな危険。


 なんやかんや、会話がない中で独りよがりしていると、急に視界が明るく染まった。裏道から出たのだ。暗く、ジメジメとした空気感ではなく、明るく、爛々としたお日様のお膝元がそこにはあった。太陽に膝ないけどな。


「…っと、よし、アク。行きたいところはあるか? まあ、言われても迷子だからわかんねぇんだけどな」


「分かんないのかよ…。でも、まあ、取り敢えずお腹が空いたから食べ物が食べたいな。野菜以外で」


「お腹が空いたで野菜食わせる奴がどこにいるんだよ。じゃあ、あそこで良いか。ここから近いしな」


「いや、迷子じゃないのかい」


 クソみたいなくだらない嘘に翻弄されながら道を進んでいく。

 丁度、時刻的にお昼時なのか。向かう方向の飯屋があるのか。人の流れに沿って進んでいく。気分はゼリーに包まれた錠剤である。歳をとると錠剤が飲み辛くなるらしいです。まだ分からない話だなぁ。

 錠剤になりながら進んでいき、目当ての店についたのか良くある家の扉を開けた。鍵はかかっていないようだ。マジで見た目はただの家なので少し強面の面を持っているヴェイルがやるとただの押し入り強盗に思えてしまう。


「マジで家なのな。隠れ屋的な店なのか? なんかの専門店とか?」


「いや、知り合いの家。料理は別に上手ではねぇけど金がかからねぇからな」


「ただのタダ飯ぐらいじゃねえか…」


 そう言って手頃な椅子に座るヴェイル。見習って近くの椅子に座る。マジでただの家だった。内装も外装も。

 ただ一つ、違う点を挙げるとするながら玄関から入り、見える光景の中で調理器具が多い事だ。


「って言っても調理器具多いんだな」


「ん? あー、そうだな。まあ、俺が食いたいものを作ってもらってたら物が増えちゃってな。パッと見では器具の専門店みたいだろ?」


 ハッハッハー、と、豪快に笑う。それに釣られアクも笑う。そこまで面白いジョークではなかったがヴェイルの背後に見える人影を思えば嘘でも空気感を変えなければ。そう思ってしまう。


 照明が暗いので表情は分かり辛いが幽霊とかでは無い。

 手入れが行きちどいた髪は長く、キューティクルが異常なほど良い。少々垂れ目ではあるが圧倒的な美女の分類に入る人物だ。服装が給食のおばちゃん風なのが木になるところだがコスプレと思えばそう難しいものではない。既にアクの脳内ではそー言うもんだと理解が入った。

 手に持ったお玉で豪快にヴェイルの後頭部をぶつ。遠心力をブンブンと掛けての攻撃である。良い鈍い音が響いた。


 ん゛ん゛!! と、空気を変えるように咳払いを入れる。


「アンタが勝手に買って、勝手に作らせてるんだからせめて『ちっちゃい料理屋』でも言ってくれれば良いのに! まあ、でも良い子を連れてきたからチャラね。チャラにはできないけどね! …いや、本当に良い子ね。形成児じゃないわよね?」


 そう言いながら顔を両手で持たれ、チュウでもするかのように顔がグッ、と近付けさせられた。

 至近距離でもわかる美人具合。でも、活発な女の子も男のビンビンにグングンなんですわよ? と、男としてのアドバンテージを生かしながらマウントを取る。まあ、美人なのは疑う余地もないけど。


 内心驚き桃の木なのを隠すため、名残惜しみながら体制を後ろに引く。


 話題を変える。

 そう言えば、聞き覚えのない単語が出てきた。


「けいせいじ…? いや、自分はアクって言うんですけど…」


 名前かな、そう思って名前を名乗るが違かったようで吹き出すようにして正面の女が笑った。失礼だな。喪女って呼ぶぞ? どっちもどっちの無礼である。言葉にして表しているので今のところはアクが一歩リードである。不名誉すぎる。


 痛みが引いたヴェイルが補足を入れる。


「形成児。簡単に言ってしまえば顔を弄って整える事だ。児って名前に付くことから見た目が良いのは子供の時だけらしいな。大人になると成長して、顔のバランスが前以上に悪くなるんだとさ。モルリ商会の会長さん直々だから形成児ではないと思うが…」


「へぇ、あのリーンさんが…? あー、たしかに弄った痕は無いわね。ごめんね、急に。びっくりしたでしょ。何か食べる? ヴェイルと一緒ってことはお腹が空いたんだよね?」


 返答を待たずに喪女は奥の方へ走っていた。嵐のような人ね…。シミジミと思ってしまう。


「美人なんだけど色々と残念な人だね、あの人。本当の見た目がクソほど良いのに…」


「まあ、アレだ。見合い話もジェリ…ああ、アイツな? あったらしいが料理がしてぇって事で断ったらしいからな。相手はモルリ商会の子会社のなんからしい。家みてきたんだがクソほどデカかったな、アレ」


「へぇ。見てきたって一緒に住む家を先に用意してたのか?」


「ん、いや? ソイツの実家。ペットがすっげえ多かったぜ? 間違えて2、3匹首輪切っちゃってな。その後の自警団の騒ぎようが面白いのなんのって」


「…飼いならせてなかったのな。難しいもんな犬とか猫って」


「まあ、ウィンドワイバーンの幼体なんだけどな。ペットって。流石に俺でも危機感覚えたわ。そう考えるとアクってすげぇんだな」


「…ん? えっ、ドラゴン飼ってんの? 子会社?」


 モルリさんがドックフードを上げている姿が頭の中に過ぎる。無い無い。しかもドックフードって…。

 まあ、猫とは違って食えるらしいもんな。アレ、逆だっけか?


 クソほどにも役に立たないペットフード事情を垂れ流しているとヴェイルの否定の言葉が耳に入った。


「いや、ウィンドワイバーンはドラゴンじゃねえぞ。ドラゴンの近縁種だからドラゴンって言えばドラゴンだが…まあ、アレだ。人間と猿の違いって言えばわかりやすいか。構造は似てるが細部は全然違うからな。ワイバーンブレス吐けねぇし」


「…でも、近縁種でも飼ってんのはすげぇよな。しかもウィンドでしょ? アレ、顔面がグロかった印象しかないんだけど。マジで歩くグロ画像」


「えぇー、良いなぁ。俺もウィンドドラゴン見てみてぇな。俺の見たのはワイバーンだけだから判断材料が少ないけど…ブルドックの皮膚がないバージョンだったな。ワイバーン」


「なら、やっぱそれ以上だわ。ウィンドドラゴンはそれプラス肉が溶けている感じだったし。ドラゴンだったけど」


 それでもドラゴンの体を保っていたからほんのりと、料理で香る隠し味レベルにカッコ良さが残っていたのがもっと残念感を底上げする。



 そんなドラゴン、ワイバーン漫談を繰り広げていると奥の方から良い匂いが漂ってきた。

 カレーとも、シチューとも、ハヤシライスとも違う匂いだ。似ているけど似ていない。ふたなりと男の娘みたいな感じである。全然ちげぇな。それ。

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