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女の俺は世界で一番エロ可愛い  作者: 椎木唯
第一章 力で商人のヒモになりたい
19/28

メゾット社長対談。採用理由はアクの匂いでした。

前半のソレがクドイかもしれないので書き直すかもです。遅れましたがブクマ、評価、感想ありがとうございます。とても励みになります。観覧数が伸びるのも嬉しいね。


 面接というものがある。

 企業や学校に就職、進学する人の内面や、思考を判断する場である。


 現在進行形で高校生だった俺はその枠組みに属し、高校受験で面接を体験したことがある。だから実体験を持って声を大にして言える。あれは緊張感が尋常じゃない。心臓がもう2、3個生えてやっと平常心で挑める物なのだ。そこまで神経をすり減らすものなのだ。


 個人面接、集団面接、グループディスカッション。そして圧迫面接。

 その並びに圧迫面接は異常なソレを感じざる終えないがどんな場面でも根性が座っている人材を求めているので、と言われてしまえば「そうですか」としか言えないまである。まあ、大抵が受からせる気がないのが殆どなのだろうが。


 そんな事を考えながら渡された女性物のスーツに身を包み、全身を簡単に写せるほど大きな鏡で最終確認する。妙に手慣れた手付きだった。


「…スタイルは言わずもがな。容姿は想像以上に俺からかけ離れているな…。いや、当たり前っちゃ当たり前なのか」


 女装のスペシャリストである俺にとってしてみれば似合う似合わないは論点ですらない。そんな考えで女装してるんじゃ無いだよっ! と、訴えながら髪を整える。


 すらりと伸びる足を上がっていくと見えるは腰から下るスカート。完全なスーツである。世界観がてんやわんやだが…まあ、日本と違って西洋は結構な発展してたって言うからね! 適当に納得する。

 そして見える自分の容姿である。1日経ってのご尊顔とのご対面である。楽しみかと聞かれたら楽しみでしかなかった。



 少し時間は戻るが、最初にモーリから着替えを渡されたときは「ん? 今着てるものって御社の製品だよな。なら面接の場に来て行っても良いんじゃねえのか?」失礼というよりか『こんな場所までウチの製品を着ていただけるとは…!! 君、採用! 新商品が出るたびに無償提供するからねっ』と言われると思っていたのだがそこまで現実は甘くなかった。


「いや、面接なんでそれ相応に相応しい姿じゃないと…まあ、たしかに出会って当日で面接ってのも変な話なんですけどね。それは本当にすみません」


 と、言われてしまったのならそうだよね、こっちこそごめんねとしか言えない。我が儘言ってごめんね。

 現実を見せられ、若干気落ちしながら開いた部屋に移動させられる。

 そして入った瞬間に見えた俺のご尊顔である。美形すぎて嬉しくて泣いたまである。まあ、想像以上でむしろ想像通りまであったのでそこまでの表情面で変化は見せなかったけどな。


 茶髪がかったボブカットよりの短髪で、少し切れ目で鋭さを感じる瞳。整った鼻に、小さくぷくりとある口。女性としての魅力を詰め込みました、とそう言わんばかりの顔である。この見た目ならあの男達の評価も納得いくものがある。俺もその場にいたら同じようなガヤを飛ばしていただろう。残念だったな、俺でっ!




 そんな自分の容姿に満足しながら最終確認を込めてもう一度全身を鏡に写す。


「…よし、どこからどう見ても完璧美少女アクちゃんだな。…スゥー、やっべぇよ。志望理由とか聞かれたらどうすんだよ…生い立ちとか知らないぞ? 経営理念とか。なんで異世界に来てまで就活しなきゃいけねえんだよ…」


 落ち着いているように見えてるが内心、大焦りであった。どこの時代も高校3年生の就職希望者は胸がドキドキであるのだ。悪い意味でときめいているね。

 スゥーはぁー、と深呼吸を繰り返す。緊張には一度息を吐き切った方がいいのだ。古い空気を吐き出して、新しい空気を吸い込めば思考がクリアになるってSNSで言っていたもん。

 人体構造的なソレに縋り付きながら気持ちを落ち着かせることに成功する。よし、戦うか。


 逸らしたい現実を受け止め、扉を開ける。開けたすぐ側にモーリが控えていた。うわっ、びっくりした…軽く変質者かと思ったじゃん。その発想は飛躍し過ぎだね。

 モーリと目が合い…直ぐに逸らされる。正面からの表情では判断できないが耳の赤みと言い、その反応と言い…さては


「まさかこれが一目惚れか? 再認識か? まあ、ごめんな、俺可愛すぎて。でも初日で面接は死んでも忘れねえからな」


 そんな意思表示で顔を背けたモーリを正す。両手で頬を掴んで戻し、凝視である。側から見れば勝気な幼なじみに寄られる弱気な主人公である。甘酸っぱ。

 徐々に顔が赤以上に染まっていっているモーリに面白さを感じたが…直ぐに離す。モーリの表情に変化があったからだ。


 ん、ん! あからさまな咳払いを入れたモーリは背筋を正す。


「いえ、一目惚れではないのですが…でも、アクさん。凄く良いです。服を引き立たせるその容姿はとても羨ましいです…。本当に」


 取り憑かれたように食い入るように見てくるモーリに1、2歩後退りをしてしまう。先程までの照れ屋な表情ではなく、真剣そのものになっていたのだ。変態味が増していた。まさか、同類か…? そんな事を思ってしまう。

 俺ではなく、服を褒めるようなその文言…いや、まさかね?


 そんな俺の考えをガンスルーするかのように数秒程、無言で見つめる。何処か納得がいったのか歩き始めるモーリ。その我が儘感に妙な既視感を覚えながらついていく。

 面接会場となる社長室は直ぐ側だと言う。






   ーーーーーーモルリ・リーンのお話ーーーーーー





 モルリ・リーンは盲目である。

 幼少期に起きた火災が原因で目が焼け、見えなくなってしまったのだ。

 それまで平凡のへの字の上で生活して来た彼にとって目の見えない生活は良い意味でも悪い意味でも新鮮だった。

 歩くのに苦労し、そこで苦戦すれば日常生活にも苦労する。彼の心の中にあった『失った機能を補うために他の器官がより優れるようになる』とそんな希望は早々に打ち砕かれる事になる。

 心優しい両親の手助けにより、盲目になってからもある程度何不自由なく生活していたその日常をある日を境に全て捨て、単身でスラム街に乗り込んだのだ。その日からリーンはただのリーンになった。


 場所を変えれば自分も変わる。

 ある意味圧倒的な努力家であるリーンは環境から変えた結果のその行動である。苦労や、心傷、怪我は日を追うごとに深く、刻まれていった。

 まず、日常でさえ1人では満足に生活していけていないのだ。日常以上に不自由なスラム街での生活は生活と言えないものだった。


 だが人間は慣れる生き物である。日を追うごとにリーンの視覚以外の器官が機能を高めていった。最たるは嗅覚である。匂いからその人物は男か女か。そして匂いの区別からある程度の構造まで理解することができたようになる。人間離れしていた。


 そんなリーンを後押しするように芽生えたのはファッションセンスだった。

 視覚ではなく、嗅覚で感性を伸ばしたリーンの考える洋服は今まで人々が慣れ親しんだ‘服‘と言う概念を一新した。徐々に頭角を伸ばしていった。商会として成り上がるまで睾丸を始めとした幾つかの臓器は無くなってしまったが仕方がない事だろう。努力家であった。



 そんな成功者であるリーンはモルリの家名を付け、10年弱。安定し、停滞していた商会で共闘する人物と会うことになる。

 彼にとってモルリ・モーリは血は繋がっていないが実の息子のように愛した。出会いはモーリの押し売りに似た商売だったがそれでもそんな心意気を買い、将来の為の投資を重ね、育て上げたのだ。リーンにとっての右腕は誰か? と聞かれればいの一番にモーリの名が出てくるだろう。

 だが、それは経営上での右腕である。一緒に商会を盛り上げる仲間ではないのだ。それは現状維持でしかない。


 出会ってから数年。リーンの視野は広がることになる。






 質素な社長室でゆっくりと息を吐きながら柔らかく、だが芯があるお気に入りの椅子に深く体を沈める。

 

 突如として入ったモーリからの一報である。

 普段、誰かを褒める、話題に上げる事がないモーリからの紹介である。興味が出ないはずがなかった。

 話を聞くにウィンドドラゴンを狩れる実力を持つと言う。そしてその実力を見せない程整った容姿の持ち主らしい。神は二物を与えない、そんな言葉を知っているか? と、思わず笑ってしまいそうな話だった。

 力があり、美しい。神話に出てくる天使か神か?


 そこまでモーリの話は夢物語に近い。

 ウィンドドラゴンはほぼ伝承のような物だ。体は宝石のように虹色に輝き、だがその性格は凶暴極まりない。人間が唯一安全に攻撃ができると言う魔法に耐性を持ち、一度狙った獲物は逃さない。とそんな悪魔のような性質を持つのだ。


 見た事がない事は無い。実際、生きている中で一回は目にした事がある。嗅覚ジョークだが。


「確かあれは…モーリ君と初めて散歩した日だったか」


 そう言って懐かしい思い出を映像に起こす。そんな中だった。


 コンコンコン。


 世界基準では四回が正式な入室のノックらしい。何を持って四回なのか。そんなくだらない事を考えながら返事を返す。


「どうぞ」


 時間を見る。まだお昼の時間では無い。会議の時間でも無い。なら話題の彼女なのだろう。

 滅入った気持ちが切り替わるようにして楽しみが襲う。


 キィ、と年季の入った扉がゆっくりと開かれる。嗅ぎ慣れた扉の匂いから溢れるのは…何という巡り合わせか。とても懐かしく、だが同時に忌まわしい匂いに似た物だった。


「失礼します…」


「アク君だったかね」


「へっ!? あ、はい。そうっすけど…」


 驚いたように声を上げる凛とした気持ちの良い声により一層気持ちが昂る。

 すぐさま心に上がった言葉を告げる。


「君は採用だ。確かウチの服に興味があるのだよね? 週に一回、新商品のデザイン決めがあるんだ。その時のモデルになってもらいたい。ああ、君の要望の護衛の件も視野に入れておこう。どうだ?」


 返答は意外にも早かった。


「っ…はい!! 期待に添えるよう、精進します!!」


 顔は見えなかったが…満面の笑みだろう。

 そんな事を容易に想像できる程、上ずった、気持ちが乗った声だった。



 まあ、真実はアクの表情はだらしなく頬が下がり、美女とは似つかない醜悪な表情だったのだが見えないからこそ見える世界もあるのだ。恋は盲目。ある意味正しい場面だろう。

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