ラストバトルは覚醒が付き物 〜漬物的な〜
戦闘描写が苦手なことを知りました。
凡そ160センチの魔法製の杭が放たれる。直後、エルダートレントの触手の壁が削れる。
アクの身長は160後半であるが、それでもほぼ同じ大きさの杭が両手、背後から放たれるのだ。超常現象すぎて魔法かと疑ってしまう。魔法であった。
そんなほぼ自分自身と同じ長さの杭を秒間3発程のペースで連射されるのだ。ほぼ自分を打ち込んでいると言っても過言ではないだろう。ギルバが少女を振り回して戦っているような感じで、アクは自分を相手に打ち込んで戦っているのだ。
杭に感情を込めすぎて幻覚症状が出始めているまである。現実だが。
攻防が始まる。
アクの連射とエルダートレントの無限肉壁だ。
メリメリと奥の方からセール品を取っていくおばちゃんみたいな容量で出てくるエルダートレントとは違い、
魔法陣からニョキッと早送りのつくしみたいに生えてくる為、見た目のインパクト以上の迫力は発射音には無い。
無いのだが威力は絶大だ。
守るようにして緑黄色の壁が出来ていたが瞬く間に抉り取られていく。まるで砂場で遊ぶ園児のように無遠慮に、力任せに。
徐々に押していき防衛線が剥がれる。本体とも言えるエルダートレントの姿が見えてきた。顔のような空洞がアク達を見つめる。激しい攻撃を受けながら絞り出すように言葉を上げる。
『『『『『『『キ、ラリ、オイ、、サムキチンジャ!!』』』』』』』
意味が分からなかった。
いや、言葉ではなく単語として、雄叫び的な感じで言ったのかもしれない。考えを改める。
まあ、植物に雄叫びの概念はあるのか疑問でしか無いのだがそこら辺は専門家にお任せしよう。この場にいないけどな。
架空の専門家像を浮かべながら、魔法を射出する手を休めない。徐々に感じる倦怠感を気のせいだ、と偽っていく。心持ちは大食いに挑むフードファイターだ。満腹だと感じたら負ける。
胃を何十倍にも膨らませる妄想を繰り広げながら出力を上げる。倦怠感はあるがまだ耐えられる程度である。徐々に削るより、一気に行った方が消費が少なくなる。そう考えた結果だ。
そんなアクの心に応えるように魔法陣の輝きが何倍にも増した。蛍光灯からLED電球に変えたような抜群の明るさである。文明の力って凄いよね、と背後で見守っている3人の目を有無も言わせず納得させる。フレンドリーファイヤのような目潰しが炸裂する。
背後でさえこんな感じなのだ。正面からは後光が差したように神々しく見えるだろう。
意図せぬ形の攻撃が味方を襲うが、エルダートレントには効果がなかった。顔のような空洞はただの空洞だったらしい。ニヒル、と変わるハズのない表情が歪んだような気がした。
ヒシヒシと身を寄せ合っている冬場の石の裏のダンゴムシ感のエルダートレントの奥から一際大きい唸り声が聞こえた。
瞬間、その場で待機状態だったトレント達は一斉に前進し始めた。淑女のようにドレスを上げる仕草にも似たそれを根っこで表現する。気持ちが悪かった。悪かったのだが精神的なダメージでは収まらなかった。
その前進は徐々にだが確実に前線を押し始めていた。
「…ウジャウジャと出てくんだけど。エルダーって名前変更しろよ。ゴキブリトレントとかの方がまだ理解できるぞ?」
生命力バカ高そうだね。
一点集中だけではダメだ、ヒシヒシと感じながら別の魔法の考える。詠唱は存在しない。気持ちの問題だ。
悪夢に出てきそうな虚空の表情で寄ってくるトレント相手に架空の攻撃を繰り返しながら提案をし、却下され続ける。反応はなかった。あったら困るけど。
魔法。その中でも一点ではなく、範囲系。弱点的な炎系はしょうがなく論外で、ちょうどいい感じにダメージが入り自然にも優しい技。
徐々に向かってくるトレントを体感しながら考える。緊張感が半端じゃ無い。圧迫面接だってここまで圧迫してこないだろう。意味が物理的すぎるのだ。
悩み、悩み、結論が出る。悩める少女である。思春期真っ盛りであろう肉体的年齢。精神はある意味成熟しきった男だけど。達観してるとも言える。
「『沢山連射』っ!!」
頭痛が痛いである。
意味が重なった呪文であるが、アクの思考を読んで魔法陣は急速的な回転を見せる。唯一の理解者は魔法陣と言えよう。実質自己完結。
一瞬、貫きの魔法がなくなったことによりエルダートレントの猛進増し、アクを喰らおうと襲うが寸でのところで魔法が発動し、ことなきを得る。効果は拳程の礫を高速回転させながら連射、である。多分。おそらく。
そんな曖昧とした効果だが、発動した瞬間のエルダートレントの削れ方は目を見開くものがあった。
ウィンドドラゴンとエルダートレント戦で見た、伐採染みたあのバリバリが聞こえてくるのだ。面白いように削れ、再生できなくなったトレントが木屑として地面に溜まっていく。
イメージとして弾幕を考えていたアクだったのだが、想像以上の効果に満足半分、やり過ぎ感半分で結論引いていた。
確かに現状を打破できる手段は欲していたけども。ここまでなるぅ? と、萌え声染みた脳内アクが出てしまっていた。秘めたる女人魂である。流石女装趣味。阿鼻叫喚の歓喜喝采だ。多分それは引いているのだと思うけど。
圧倒的な魔法の効果に恐れ慄きながら徐々に開かれた道を進んでいく。無双ゲーのモブキャラみたいに出てきた瞬間消えて無くなるのだ。VRゲーム的な概念だろう。VR形式の無双ゲーって何それ異世界? と思ってしまう。実際そうである。半分作業ゲー感を感じてしまう。
慢心に慢心を重ね、慢心と化していたアクの脇腹に強烈な一撃が入る。両手を前に突き出していた為、クリーンヒットである。
加害者は奥の方に深々と根を張っている、キングオブエルダートレントだ。偉大なる王のトレントってどこまで自信過剰なのか。ふと、飛ばされる中でアクは考えてしまう。直後、木々をなぎ倒しながらぶつかっていく。
「アクちゃんッ!!!!!!」
「アクちゃん!!!!」
「アクちゃん!!!!!」
呼び方が一緒なので変化は声のトーンである。
キルビアを始めにギルバが追うようにして声を上げる。バシッと布団の埃を取るような激しい音が聞こえたのだ。布団叩きでもそこまでの音は出せない。
布団になってしまったアクだったのだが飛ばされた本人は意外にもケロっとした表情でムクリと起き上がった。寝起きのようなゆっくりとした動作だった。
「…あれ? そこまで痛く無い?」
攻撃された脇腹を見る。服が消し飛んでいた。その後にぶつかった肩を見てみる。はやり服が無く、鎖骨ってエッチだよな、と場違いな程に能天気なコメントが出てしまう。そんな反応が出てしまう程怪我の一つもしていなかったのだ。体が丈夫なんだよね、とかそんなレベルでは無い。
圧倒的な人外を感じてしまうが、そんなのは常日頃からである。そこまで心に対しての揺さぶりはなかった。
それとは逆に、ほんのりとうっすら見える鱗のような肌に目がいってしまう。
「これが龍人のあれってことなのか…? いやきめえな…」
キモかった。
のんびりとしたままでは終われない。後ろには守るようにして3人の姿があるのだ。妙に漲ってくる力の本流に身を任せながら地面を蹴り、想像以上の良いスタートダッシュで3人に伸びる触手を掴み取る。そして握力で潰す。
今なら陸上の十種競技をやっても世界レベルに辿り着けような気力が湧いてきている。
それに反応するように所々にうっすらと膜のように鱗が覆う。拳にはメリケンサックのような固く、強靭そうな鱗が生えていた。
「ケモナーって言葉は聞いたことあるんだよね。それの派生系で猫になった人もいるって聞いたことあるけどさ。龍人になる人って前代未聞じゃね?」
稀有すぎるし、ジャンルが狭すぎる。
色々な条件がありそうだが、アクの心は意外とスッキリしていた。龍人、と言うものにすっかりと身を任せ、リラックスしている。
「よし、何だか分からねえけどやるか。第二ラウンド」
変身シーンでも容赦なく襲ってきていた触手の残骸を蹴り飛ばし、視界を奪う。
目で見ているのか、そんな疑問は置いてけぼりになっていた。
だが、その発想は正解だった。正面でひしめき合っていた量産型トレントは見失ってしまったのだ。その隙をつき、背中に生えたザ・ドラゴン的な翼で飛翔し、上空にいたアクは急降下する。擬似的ウィンドドラゴンアタックだ。
着地の瞬間に翼は引っ込んでしまったが鈍い音を響かせ、密集という陣形を壊すことに成功する。その場の地面が数センチ凹んだ。破壊力の化身と言っても過言では無い。
生命力で優れている、そんなシェルダの話は本当なのか、と疑問に思ってしまう程だ。
「オイオイ、完璧美少女アクちゃんに敵うものなしってか? 調子に乗っちゃってよろしいか???」
ちょっと昔のネットゲームのチャット欄状態の上機嫌で直進する。深い意図はない。向かう先はトレントの王である。
見えた姿は樹齢は軽く千は超えているであろう幹がぶっとい大木だ。日本にあったら天然記念物とか、御神体とかで奉られそうな神々しさを感じるのだがが生憎アクは真性の日本人であった。
神社に生えている神木を見た感想は「切ったら祟られそう」だ。何に? 神に。何の? 知らない。のパターンで言えるように神的な概念はあるかも、と思いつつも根の方は信じていないのだ。腹痛とテストの時以外は女装した自分が神である、とそこまで思っている。
八百万の神ってあるじゃん? ワンチャン俺もじゃね? 的な概念で遠慮なく拳を突き刺す。体重ガン載せの体当たり的な殴りだ。その間、道中向かってきていた触手は全無視である。
服はビリビリに破れ、秘所は鱗が守っているだけのそんなモザイクで大丈夫? 逆に露出増してない? そこまで心配してしまう格好だったがその肌には傷一つ付いていなかった。
勝利の雄叫びならぬ、腹の底からの龍のような咆哮を出した自分自身が驚きつつ、残飯処理みたいな感じで生き残っているエルダートレントを処理する。龍人としての職業に覚醒したのが原因か、あそこまで魔法で苦戦していた頃が嘘だったかのようにちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返していた。
空気感が変わったのは最後っ屁と言わんばかりに向かってきた触手を捻り取り、トレントの王の顔面に開いた空洞にドラゴンらしく炎系の魔法を局所的に当てている最中だった。
水から上がったような、膜が破れたようなそんな不思議な感覚に陥り、4人は目を覚ます。
目を開け、見えてきたのは舗装された道が続く森の中だった。




