モンスターにも統治者がいる事実。武力派って奴ですね。ちげえ
久しぶりの戦闘シーンです。楽しかったですがしっかりと描写できているか疑問です。誤字報告は下の方でお待ちしております。無いのが一番だけどね!!
グッモーニン、エブリワン。
This is a pen 並の日常の中で使う英文法ワースト1、2位を心の中で言いながら起きる。まじでどこで使うんだよ。これはペンですって幼稚園児でもわかるわ。って話。どうも、寝起きのいいアクです。
深夜に目が覚めてしまって臭い会話をしてしまった気もするが気のせいだ。最近忘れ去りすぎじゃね? と、思いつつある今日この頃。まあ、異世界生活はたった二日目なんですけどね。
新婚生活並みの意気込みでテンションの高さを見せつける。テント内を見るに既にキルビア、シェルダの2人は起きているようだった。
ギルバって寝てるのか? そんな謎が出てしまう。寝てたのに気付いてないだけって可能性はあるけどな。
そう言えば寝巻きから普段着、そしてお出かけの服装全部同じだよな。いや、今の現状をお出かけって言い表すのはちょっと無理があるがそんなことを振り払ってテントを開ける。開けた瞬間にふわっ、と香ばしい嗅いだことのある匂いが漂ってきた。
「この匂い…エルダートレント?」
そんな呟きはすぐにキルビアの耳に入っていった。
「あ、おはようアクちゃん。昨日の残り物だけどね。でも味自体は美味しかったでしょ? 私の分、分けてあげるからね」
何の悪気もないんだな、とそう思わせるほどの曇りなき笑顔でそう言ってくる。ありがた迷惑って知っていますか?
喉に刺さった魚の骨レベルに出したい気持ちはあるが…我慢のできるアクである。
流れるようにこんもりと盛られた食器を見つめる。
「や、大丈夫。これから移動するんだし普通でいいや。うん。普通で」
「…そう? 遠慮とかしてないよね?」
「大丈夫。キルビアの気遣いだけでお腹いっぱいだからさ」
「…あら」
何と無くウィンクしてみる。特に意味はない。気持ちは新宿のホステスである。案の定行ったことないから想像だけ、だけどな。
ほら、人間は想像力豊かって言うじゃん? それ。
あまり理由になっていないのだがそんなことお構いなしに、少し場所を移動して魔法で水を出し、顔を洗う。目覚めの一発だ。
蛇口を捻る手間がないので楽である。性格上、面倒で後回しにすることは少ないのだが。
やり終わり、軽く顔を振るって水気を落とす。犬感がすごいのだが拭うものがないのでしょうがない。無礼も無礼になる人物がいなければ無礼じゃないのだ。今時無礼って言葉も使わないよな。侍かな?
キルビアの視線が目に入り、昨日風呂を作った要領で容器を作り水で満たす。
「(まじで俺気遣いのできるいい女だよな。月額4万でやってやるよ)これ、一つだけでいいか? …まあ、いいよな」
男2人の様子を見て容器をキルビアに渡す。2人は出発の準備ができているのか完全武装状態だった。まじで達観して見ると犯罪者チックだよな。
自分のことを棚に上げているがアクもアクで達観してみると荒々しくコーディネートされたウェディング姿なのだ。犯罪者まではいかないが変態ではある。野外プレイ的な? それは意味が異なるね。
でも、まあ同じようなものである。
感謝を告げ、キルビアは容器を受け取る。普通の量になった緑の物体を替わりに渡される。粘土遊びかな?
「アクちゃんありがとね。じゃ、食事はできてるから先食べてていいよ。私はちょっと…ね?」
「あ、ああ」
何が、ね? か。ちゃんと理由を言わないと理解されないぞ? テレパシーが使える超能力者とかじゃないんだから。
そんなアクもキルビアも、超能力よりも使い勝手の良い魔法が使えることは頭の中には入っていない。隣の芝は青く見える的なシンパシーである。テレパシーも魔法も同じシニカルだよな。と、大学生的なノリで横文字を使いまくる。
キルビアの言葉通りに食事をとろうと席につく。相変わらず倒れた木に乗るスタイルはケツが痛い。
「いただきます。…って、ギルバ達は食べないのか?」
食事中が俺しかない無い事に疑問を浮かべ、質問する。シェルダはテントの片付けで近くにはいなかった。
ギルバが大剣を背中に背負い、こちらの方を向く。
「食事はもう済んでるからな。大丈夫だ。大丈夫っつってもこの食事はなあ…。美味いは美味いが携帯食染みてるから進んで食えるもんじゃねえけどな」
ハハハ、と乾いた笑いがギルバの口から溢れる。
「ほーん。栄養はしっかり摂らないとな」
携帯食って…黄色いブロック状のやつか?
頭の中でVR的な説明で脳内を360度、全方位観察で展開される。
いつからそんな頭が柔軟になったんだ…と、頭の進化に驚きが隠せず、思わず食事の手が進んでしまう。
聞いてみたがそこまで寝起きの頭には入ってこなかった。食べるのか? の質問に食べた、の問いが出た瞬間で興味がなくなったのだ。辛辣系少女のアクだ。少女って歳でもないけどな。
じゃあ何だよ、成女か? それとも女人か?
と、漢文のような変化を見せてく自己の表現に自己完結型の終わりを見出し、1人でツボる。嘘である。別にツボってはいない。
機械のようにスプーンを動かし、飲み込む。ほぼ咀嚼が必要ではない食事であるが故の高速栄養補給である。腹は満たされた。いざ、帰路へ!
そんな意気込みで食器を洗い、袋に戻し、リュックに直す。
丁度、そのタイミングでスッキリした表情のキルビアが帰ってきた。マジで何をしてきたんだ?
疑問が浮かんでくるが…妙な質問してはいけない空気感を感じ、スルーする。容器は土に埋めた。材質は木をイメージして作ったからね。多分自然由来。自然に帰るっしょ的な希望的概念で不法投棄する。
さあ、出発だ!!
そんな意気込んで出発した凡そ三十分後、事件が起こった。ギルバの大剣がついに折れたのだ。ついでにキルビアの触媒もなくたったらしい。
「想像の2倍速いスピードで無くなったな…まあ、俺の場合は使い方の問題だが」
「使い方ってより一ヶ月って期間が問題よね。どんな優れたパーティも一ヶ月の旅路は準備なしで乗り越えられないわよ」
「まあ、乗り越えてないんすけどね」
「ってことは俺が主体で攻略になるのか?」
何を攻略するんすか? 俺っすか?
と、嬉々した表情のシェルダの顔面に水をぶつけスルーする。スルーとは。
初日以外観戦しかしていなかった我が身なので誰かの役に立てることは嬉しいな。と、奴隷のような精神が芽生え始めるがすぐに枯れてしまう。そんな精神はアクに持ち合わせていない。
折れた剣先を適当に投げ捨てるギルバ。完全な不法投棄だが…動物愛護団体的存在もあるらしいのだ。そこら辺の法律もあってもおかしくないよね? と、思ってしまう。それ以前にここ誰かの所有地なの?
「所有地って…確か両国の間で手付かず、て話は聞いたことはあるわね」
「らしいすよね。そのおかげで俺たち冒険者がセコセコと小金稼ぎができるってわけ」
なら、遠慮なく不法投棄できるな! よかったな、自然破壊まっしぐらだ!
まあ、科学が発展してるのか、技術革命が起きているのかわからないので自然について何にも言えないのが現状である。専門家じゃないしね俺。
コンパスに従って北上しているシェルダを先頭にし、その右後ろに控えていたギルバが声を上げる。
「ってことでアクを主力に戦闘してく事になるが…陣形はどうする? このままでいいか?」
「陣形って…サーチアンドデストロイでいいんじゃねえの? 見た感じ苦戦してる様子なかったけど」
本当に伐採的な感覚で倒していっていたのだ。陣形って必要なの? 純粋な疑問が出てしまった。
それに対してキルビアが背後から抱きついてきた。覆いかぶさられる感じである。
「…この密着ってなんか意味ある?」
「自己満…ね」
「ならしょうがないか…」
自己満はしょうがない。欲は人間にとっても重要なもんだもんだもんね。
そんな寛大な心で許す。本音は女の温もりを感じていたい、だがそれは口に出さないお約束。マジで言ったら気持ち悪いもんな。行動に出しているキルビアもアレっちゃアレだけどさ。
歩き辛さを感じるがそれ以上の人の温もりに心を癒していると言葉が纏まったのかキルビアが話始める。
「えっと、陣形ってのは一言で言ってしまえばその人の役割が十分に発揮できる形、なの。今の形で言えば方向が分かり、索敵ができるシェルダが前。近距離武器を持っていて、護衛のできるギルバが後ろで控え、私はアクちゃんとイチャイチャできる」
「あ、言っちゃうんだ」
素直に驚いてしまう。
「そんな感じで役割を十分に果たせるのが今の形なんだけど武器の無くなった私とギルバのせいでこの形でいられなくなったのよ。相手がエルダートレントとウィンドドラゴンって事だから奇襲とかはないんだけど…それでも安全が確保できる事に越したことはないでしょ?」
そんなわけでギルバ、形はどうするのかしら? キルビアが悩んでいたギルバに話しかける。
数秒の無言の後、足を一切止めずに口を開いた。
「現状維持だな。アクちゃん魔法使いだし、前衛できないもんな」
「おっと、今の会話が全部説明に終わっちゃったけど」
真剣すぎる表情に冗談か否か。少し悩んでします。まあ、真剣なんだろうけどさ。
「まあ、私たちの冒険者の位的に教える側だしね。情報は頭に入れていたほうがいいのよ? その方が対策できる幅が広がるからね」
ありがたいお話をBGMに悪路を進んでいく。
お初の俺でもわかるほどに獣道が増えてきたのがわかる。
それを境にシェルダが立ち止まる時間が増えてきた。
「…シェルダもしかして」
獣のクソをいじくり回しているシェルダに近づき話しかけるギルバ。話をしているうちのその表情が明るいものに変わっていった。
少々、大袈裟な舞台俳優的なジェスチャーでシェルダは説明する。
「獣道の量と、時々あるフンを見るに…エルダートレント、ウィンドドラゴン以外の種族のものっぽい痕跡っす。まあ、その二種類は腰ほどまでの獣道は作らないっすからね」
考えている様子のキルビアが捻り出すように言う。
「ってことは…一つのエリアからは抜けたってことかしら?」
「出口じゃないのな…でも、場所が変わったって事は出口に近づいている…のか?」
思わず反射的に言ってしまったが別に、他の種類の種族が居たってだけで出口が近いわけではないのだ。落胆にも歓喜にもない、どっちつかずの感情が残ってしまう。
だが、シェルダと、ギルバは今までの変化のない現状から打破できた、と心底喜んでいた。
喜んでいたから反応が遅れたのだろう。
『グォオオォオオォオオオオ!!!』
茂みの中に息を潜めていたエメラルドグリーンの蜥蜴が腹の底を煮込まれるような低い唸り声を上げながら突進してきたのだ。鋭く、エッジの効いた刃を見せるように口を広げて。
反応できたのは何かの幸運か。いや、感情の揺れがなかった事による注意力の賜物だ。反射的に大声で叫ぶ。
「『止まれ』ッッッ!!!!」
初日と同じくらい、いやそれ以上の厚みと高さのある壁が双方の間に生み出された。激しい衝撃音が周囲を襲い、周りの木々が揺れる。衝撃だけで小動物は死んでしまいような程はあった。
その音で現状を把握できたのか、2人は瞬時に立ち位置を変え、アクとキルビアのいる方向まで移動した。
激しい音がしたにもかかわらず、奥の方から鈍い唸り声が聞こえてくるのは生きている証拠だ。
ギルバは折れた剣を構え、シェルダは解体用のナイフを向ける。アクは適当に手を前に向ける。キルビアは先日の戦いとは逆に、後ろに隠れる形だった。
どこか嫌な予感を感じ、数歩下がり、次は視界が遮られない形の氷壁を生み出す。その直後だった。
「ッ!! ブレス攻撃か!?」
ギルバがブレスの明かりに目を焼かれ、視界を剣で遮る。
熱と、氷。どちらが強いかは明らかで、数秒ともたずに壁は溶け切った。だが、相手の方も長続きはしなかったようでブレス攻撃も届きはしなかった。
「『貫け』ッッッ!! こ、これ次はどうすればいい!?」
以前とは違う、勢いに戸惑いが隠せず、マシンガンのように礫を出しながらギルバに問いかける。鈍い音でドラゴンの攻撃をキャンセルできているが…それも時間の問題だろう。そこまでのダメージは稼げていないのだ。我慢され、ブレス攻撃をされたら今度は守りが間に合わなくなってしまう。
ギルバは必死に考える。残された時間は少ない。
相手の全長は知っていたウィンドドラゴンのデカさではない。その倍は余裕である。腹の底まで届く唸り声はそこら辺のドラゴンを簡単に凌駕している。その二つの情報だけあればギルバに確信付けさせるには十分すぎた。
相手はウィンドドラゴンを統べる王である、と。
人間の世界に統治する王がいるように、知力あるモンスターの中にも統治する王が誕生することは少なくはない。実際、20数年と生きてきたギルバの人生の中で一度だけ出会ったことがある。だが、その時は国内で、緊急クエストとして何十人、何百人体制の万全の状態で対峙してやっと倒せたのだ。
森の中、そして満身創痍ともいえる装備の不十分さ。ギルバの頭の中に死の一文字が過る。
さて、どうすればいい。残された時間は少ないぞ。
いくらアクが優秀な魔法使いだとはいえ魔法を使える限度というものがある。優秀な魔法使いだって単身で王のモンスターを倒せた、なんて話は聞いたことはない。
冷や汗が何重にも重なって身体中を流れる。体が動かなかった。
絞り出そうとする喉は乾き、唾液を飲み込むことさえできないでいた。
動けたのは1人だけだった。
「クソがッ! やっぱ、近くで見ると気持ち悪いなお前! 『固めろ』っ!!」
構えている右手とはまた別の左手を出し、唱えたのだ。
効果は抜群。鋼タイプに地面技をぶつけるが如しの効き具合である。
耐え凌ぎ、今か今かと好機を狙っていたドラゴンの出鼻を挫き、地面が一瞬でぬかるみ、足を取られる。両足に力を入れていたドラゴンは気持ち良くズンズンと沈んでいく。
そして固めろ、とアクの言葉通りに人間で言うところの肘辺りまで沈んだ頃、干上がったのか、と見違うほどガチガチに固まっていた。
その好機を見逃すほど甘い男ではないアク。男ではないが。
「『沢山貫け』ッッッ!!!!」
礫の攻撃と、動きを固定。
同時発動で、今度は背後から馬鹿でかい厨二病チックな魔法陣が現れ、鉄パイプほどの太さの杭が何百もの数で飛んでいった。
避ける足腰がないドラゴンは反射的にブレスを吐こうとするが…発動まで時間がかかりすぎた。構えて、口を開けていた間抜け面に杭が刺さって、貫いていく。それも面白いように。
外装が硬いことをわかっているかのように吸い込まれるようにして飛んでいく。
ズズズズズズ、と生物が出してはいけない音を上げ、数分が経った頃だった。出し切り、満足がいったのか魔法陣が消え、それに合わせるように足止めの礫、固定の魔法が解けた。
残ったのは内部だけを破壊され、外装だけが取り残された標本のような肉体だった。
「…何だこれ」
「何これ…」
達成感溢れるアクとは別に、呆気に取られる三人。腰を抜かしているシェルダを除き、2人は奇跡を観て、同時に気味の悪い、別次元の存在を見たかのような表情を見せる。
風に揺れる木々の音に乗るように、2人の声は流れていく。




