それぞれの戦い
ウィル様と魔王の姿が霞のように消えた。
あちら側に行ったようですね。
雄叫びをあげて悪魔達が結界を突き破って乗り込んできた。
ウィル様の加護が切れた為に、結界の強度が下がってしまった。
『はぁ！！』
ハンマーが魔族を叩き、ぶっ飛ばす。
『戦闘用の妖精でも無いだろうに、よく飛ばすなぁー』
『ウィル様の魔法です。武器全てに施してくれています』
武器には細かく、それでいて緻密な魔法が幾重にも掛けられていた。
それによって攻撃力が増しているのだ。
もちろん防御力もそうだ。
ビーズの魔法具によってダメージが最大限に押さえられているために、まだひどい怪我を負ったものはいない。
集中砲火を浴びたヒウロだって、ほとんど無傷なのだ。
さすがはウィル様だ。
『あの小僧を称賛しているところ悪いが、ワシも誉めてもらいたいんだが。今、君らの解放状態の魔力操作をやっているのワシだぞ？』
『もちろんオベロン様にも感謝しています。なぜ今までやらなかったのかと思ったりもしてしまっていますが、これを期に思い直せそうです』
『誉めているのか貶しているのかよくわからんな』
『きっとティターニア様も惚れ直す事でしょう』
『よぉーーっし！！！精霊王の名は伊達ではないことを知らしめてやろう！！！』
さらに魔力がオベロンから注ぎ込まれてきた。
まさかウィル様直伝オベロン様の意欲を上げる方法が本当に役に立つとは。
『頼りにしていますよ』
どうか、我らが主が無事に戻るまで。
「はぁ！はぁ！負けない！！負けない！！突破させない！！」
迫り来る魔族が攻撃を仕掛けてくる。
魔法だけではない。
剣や槍、爪や牙。
それらを結界やデュランバルで弾き飛ばす。
全てはこの時のために鍛え上げた。
お師匠の背中を追って学んだ。
みんなの教えを聞いて工夫した。
大切なこの場所を守るために、出し惜しみなんてしてられない！
「は！？」
赤い閃光が目の前に迫った。
結界が間に合わない！
ドドンと凄まじい音が響き渡る。
思わず目をつぶってしまった。あれほど目をつぶってはダメだと言われてたのに…。
…？ 痛くない？？
「わたあめちゃん！？」
ボルルンと体を揺らして攻撃を受け流していた。
スライムキャットの体は攻撃が効きにくいって言うけど、ここまでなんて…。
『おねーちゃん大丈夫？』
「大福ちゃんも！」
じゃらじゃらと魔法具のビーズを首から下げていた。
そのうちのひとつを外して手渡してくる。
『はい。武器の補充係からプレゼントです。これからみんなにくばるの』
そこで気が付いた。
魔法具が破損してきている。
すぐに取り替えた。
『ウィルが、魔王とあっち側に行っちゃったから、戻ってくるまでがんばろー』
『えいえいおー！』
おー！で、尻尾を上に上げる二人。
ちょっと元気が出た。
「ありがとう！頑張るね！」
大福とわたあめが『じゃあねー』と飛び去っていく。
そうだ。
一人で戦っているんじゃない。
見上げればみんながこの森を守るために頑張っている。
よし！お師匠の為に踏ん張らないと！！
何だって、私は一番弟子なんだから！！
アヴァロンが魔族からの大型魔法をインドラノ矢で破壊していると、はるか向こう側からとある気配が近付いてくるのを感じた。
その先頭にはマリちゃんと良く似た魔力を持った存在がいる。
『みんな！！応援が来たよ！！』
魔王様を何処にやったと激怒した魔王補佐の女魔族がグロウと対峙していた。
この森で最強の戦闘能力を持ち、さらにオベロンのお陰で魔力解放を果たしたが、それでもやりあえているのは奇跡に近かった。
『どうした！？息が上がっているじゃないか？？』
『そういうお前こそ、動きが鈍くなっているぜ？もしや魔王の加護薄いのか？』
『黙れ！！だとしても貴様を殺るのには十分だ！！』
金属同士がぶつかって激しい火花が飛び散った。
目が眩んだ隙にレッドドラゴンがグロウに火の玉を放ち、それを済んでで回避する。
それどころか周りにいる別種のドラゴンですら横槍を入れてくるのだ。
やりにくいことこの上ない。
『はっ、人の邪魔しないって概念は無いんだな』
『何を言う。過程などどうでも良い。要は勝てばいいのだ！』
風切り音がした瞬間、グロウを捕らえようとしていた別種のドラゴンの首が跳ね飛んだ。
ロックだった。
弾切れになった武器を捨て、大きなその身一つでドラゴンを次々に墜落させていく。
『こっちは何とかします！！』
『助かったぜ！！』
ちっ、と舌打ちをする女魔族。
再び魔法を放とうとした瞬間、びくりと肩を跳ねさせた。
それはグロウも例外ではない。
アヴァロンが告げる。
応援が来たと。
『遂に来たか…』
地平線の向こうから、煌竜の群れと、妖精側の竜達がやって来ていた。
そして、その先頭にいるのは。
「待たせたなあ！！！マリは無事か！！！？？」
マジリック・シャンソン。
ウィル・ザートソンの次に最強の魔法使いがやって来た。
