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アルスレッド狂いの女竜

鳥のような生き物が飛んでいる。

嘴には牙生えてるし、翼は四つ。


これらは皆ドラゴンです。


「…ほーんと、煌竜様とは大違いだ…」


これはあまり知られてないことだが、ドラゴンというのは混ざっていれば混ざっているほど強い。

大多数のドラゴンは一種類から三種類程しか混じっていない。だから、人の言葉も話せない。なにせ、人の発声器官を持っていないから。


はぁー、やっぱり煌竜様が一番だな。

なにせこいつらフサフサじゃないし。

固いし。


もう一度言う。


固いし。


「さてとっと、行きますかー」


ギイギイ、ガーガーと鳥竜が鳴き喚いて旋回しては攻撃してくるのを結界で弾く。

ああもう五月蝿い。

なんで煌竜様のように優雅にできないんだ。


あ、一匹が山に行った。


主に知らせてるんだろうな。

はぁー、やだやだ。


山の中に続く裂け目に入り、浮遊しながら奥へと飛んでいく。

ボタボタと下から跳んでくるヒルが結界に当たって滑り落ち、上からは吸血コウモリがガッツンガッツンぶつかってくる。

食料の少ないこの地で現れた餌に見えてるみたいだけど、正直邪魔です。


「これで我慢してください」


この為に持ってきた生肉(鹿の足)を取り出すと、大きく振りかぶって投げた。

すると真っ黒になるほど群がり僕の周りが静かになった。


前方が明るくなってくる。


「久しぶりに来たなー、ここ」


相変わらず美しい洞窟だ。


さまざまな宝石の結晶が四方八方から生えてる。

この木も、岩も宝石。

川の中に転がる小石も宝石。

この泉から逃げ出そうとしている風の人型のものも宝石。

元、人間。


「チェンジング・ジュエルの泉に触れるから…」


きっとこれは盗賊だったのだろう。

よく見てみれば、あちこちにクリスタルの骨が転がってる。

これらの宝石は罠である。

この宝石に誘われてきた人間を宝石に変え、喰らうものがこの先にいる。


洞窟を抜ければ、大きな大きな空洞になっていた。

その奥には一振りの剣が岩に突き刺さっていた。


コールブランド。


この世界で最も優秀だった剣職人が作り出した最高傑作。


大昔、この地に住まう宝石の護り手であるドラゴンを討伐するべく、一人の勇者があの剣を持ってやって来たが…。

竜の心核を両断するときに体が竜の攻撃によって宝石にされて敗北し、人間側は竜によって国を海に沈められた。

以来、あの岩に剣が刺さったまま残されている。


「ってのが、アルスレッドの歌にある物語だけど、ここの主があの剣の美しさから欲しくなり、わざと心核をさらけ出したって噂もあるけど…、どうなんだろうね」


剣の目の前に立つと、背後に気配が現れる。


「実際のところどうなんですか?宝石の主さん。いえ、ウィーヴルさん」


振り替えると、ここの主が現れた。


ウィーヴル。

女性の上半身に腕にはコウモリの羽。

下半身は巨大な蛇。

そして額にはダイアモンドの瞳が輝いていた。


胸から腹にかけての切り傷がある。

もしかしてこの傷は…。


『──オスだ。ははは、はは。ニンゲンの雄。ああ、綺麗な色の髪。綺麗な色の瞳。アルスレッドの瞳と同じ。はははは。おいで、おいで、おいで、おいで、おいで、愛でてあげよう。一生愛してあげよう。最後はお腹のなかで眠らせてあげよう。アルスレッドのように』


赤い瞳が煌めく。

メデューサの親戚なのかな?


結界が石化、いやこれは宝石化だな。の呪いを弾いている。

なるほど、アルスレッドの歌に石化の呪いの話はなかった。きっとアルスレッドさんはこの呪いを最初に受けて敗北し、お付きの人は隠れて記録してたからこの呪いに気付かなかったというわけか。


杖を取り出す。


『可愛い可愛いニンゲンの子。お名前は何て言うのカシラ?教えてくださらない?』


縁を結ぼうとしている。

そうすることによって呪いの効果を強めるのだ。

もちろん魔法使いの間では強い呪い持ちの魔物に縁を結ばれないように隠すのが普通だけど、誇り高い勇者だったアルスレッドさんは正直に答えてしまったんだろうな。


もちろん僕は明かしても全然問題ないんだけど。

ウィル・ザートソンは此処での名前で、僕の本当の名前とは認識してないし。

それでも。


「嫌ですよ。あなたなんかに気安く呼ばれたくありませんし」


ニッコリ笑って拒絶した。

すると、ウィーヴルの表情が変わった。


優しげな顔から表情が消えて、魔物の顔付きになった。


『ああ、そうなの。アルスレッドというのね?アルスレッド、アルスレッドアルスレッドアルスレッドアルスレッドアルスレッドアルスレッド、私の剣を奪いに来たアルスレッド、私のアルスレッド、美しいアルスレッド、その顔をちょうだああああいいい!!!!!』


ねじれながらウィーヴルは、まるで踊るように襲い掛かってきた。

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