こっそりと
痛む体を押さえながら走る走る。
影を纏ってただひたすらに。
血反吐を吐いたって止まれない。
止まれば、もう私は走れない。
地面が光って吸い込まれる。
縦横無尽に走っていた光の帯はゆっくりと土に水が染み込んでいくように。
「ふぅ…」
これで強化は施した。
あとは、どうやって受け流すか、だけど。
「…多分、もう一回発動させても魔王は回避してきそうだな」
時間戻しは負担が恐ろしく掛かる。
次こそ命に関わる。
「この魔法具で耐えられるかな…」
脳内シミュレーションしてみて頭を振った。
むりむりむーり。
即パーンッ!!は避けられるとしても、数回やられたら弾け飛ぶ。
「魔王はだめだよ。やっぱり僕が何とかしてタイマンに持ち込むしかないよー!」
犠牲者を生まないためにも僕が頑張らなきゃいけない。
主に頭を使って。
ちなみにビーズ作品は何パターンか試作品を送り、煌竜様方それぞれのサイズなどをクーとリンリンが測って集計を纏めてもらっている。
ビーズ大臣達は実に働き者で、アイデアイラストも手掛けてくれている。
まぁ、それを全部作るの僕なんだけど。
どうにか自動化出来ないかと巨大なカラクリも作ってみた。
今のところ12種類ならばレバー一つで自動創作してくれる。
僕は自分が楽をするための苦労は厭わないタイプなんだ。
「お師匠!こっちもできましたー!!」
「ありがとうマリちゃん!次にいこうか!」
「はーーい!!」
今ではすっかり立派な助手のマリちゃん。
上級の魔法陣さえ簡単に創れるようになっている。
お下げが歩く度に揺れている。
そろそろ、使い魔とかの召喚や契約方法を教えてあげても良いんだけど…。
「…まぁいいか。あとで」
この戦争が終われば時間なんてたくさんあるんだから。
「あら!!大変!!」
ノジコは口許に手を当て思わず叫んだ。
一人の美女がウィルの家の前で力尽きていた。
服装は黒一色だが、どこもかしこも泥々で、赤い色も滲んでいる。
ハッとして口許に手をやると呼吸はあるらしいが、顔にも疲労の色が滲み、今にも死んでしまいそうなほど衰弱していた。
「ど、どうしましょう…」
兵士を呼んだら連行されてしまうかもしれない。
軍人達のように乱暴はしないだろうけど、それでもこんな状態のまま引き渡すのは気が引けた。
「……よし」
ゴンゴンとウィルの家の扉を叩いた。
「ウィ──リウさん!!大変よ!扉を開けてください!!」
元々ウィルに用があったのだ。
『…? ノジコ様ですか?』
ガチャリと扉が開いた。
わ、なんて美青年…。じゃなかったわ、とノジコは足元に倒れている人を示した。
「この人、もしかしてウィルを訪ねてきたんじゃないかしら?今にも死んでしまいそうだから保護してあげられない?」
そう言えば、美青年は目を丸くして『この人間は…』と呟いていた。と思えば奥に向かって声をかけた。
『マリさん!!少しよろしいでしょうか!!!』
リウに変身し、メナードと人間に姿を変えたヒウロに扉の前で倒れている人物を回収させた。
マリちゃんにはノジコさんの案内をお願いした。
死んではないけど、ショックがあるのだろう。
椅子に座ってもらい、マリちゃんが落ち着かせている。
万が一のために付き物落としの魔法をしてから(後を付けている人を迷わせる魔法)扉を締めた。
『ここは私とライムがやりますので!』
「あ、はい」
目立つ傷を速攻で癒したあと、メナードに風呂に担がれていった。
ぽつんと残れた僕とヒウロ。
『ノジコさん?でしたっけ。そっちの方に行かれては?』
「そうだね、ありがとうヒウロ」
『いえいえ、それでは』
ヒウロが変身を解いて休憩に戻っていく。ついでに話も広げてくれるだろう。さてさて、ノジコさんは、っと。
「本当に飛んでいるなんて信じられないわね」
「ふふふ。後でお師匠に頼んで壁に連れていって貰います?」
「ほんと?もし出来るならお願いしたいわね」
すっかり元通り。
僕を見るや、ホッと息を付いたノジコさんが篭を手渡した。
中には前頼んでいた卵。
こんなときに申し訳ない。
「あの子は?」
「もう大丈夫です。ありがとうございました」
「知り合いなの?」
うーん。
どうだろう。
「ちゃんと顔を見てなかったので…、でも多分知り合いなのかなとは思います」
「そ?良かったわ。あーびっくりした」
ガシガシと頭を掻きつつ誰かを探している仕草。
メナードか、ヒウロだろう。
イケメンだもんね。
「びっくりさせてしまったので、お詫びにお菓子と、あと森を案内しますよ。いかがですか?」
「あらそんな良いのー?ではお言葉に甘えるわね」
「マリちゃんお願いできるかな?」
最近ノジコさんとの交流が厚いマリちゃんに頼むと元気に返事。
「はい!任せてください!」
二人を食べ歩きできるお菓子を手渡し見送った。
さて。
「どこのどなただろうか?」




