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精霊王、ティターニア

『魔王さま、こちらもダメです』

『むう………』


眼前に広がるのは何もない空間。

魔術師の去った跡地から人間界へと向かう途中、とある地点からすっぱりと何もなくなっていた。

更地なんてもんじゃない。

それこそ、地面も、空も、光さえもない暗闇の壁が空の彼方まで聳え立っていた。

異様なのは、それが何の違和感もなく、ごく自然に嵌まり込んでいることだ。


例えるならば、ここから下は全て湖という水の領域である。

と、本能的に理解するように、ここから先には何もなく、踏み出せば存在が融けて無くなる事が嫌でも理解できた。


それがぐるりと、この山脈を覆うように敷き詰められている。

だからだろうが、我々の外に動く生物が存在しないように見える。さては嵌められたのだろうか。


『………やってくれるな、あの魔術師め…』


ただで逃げるわけがないとは思っていたが、厄介なものを残してくれよって…。


黒い壁を見つめる。


水のように波打っているが、向こう側は一切見えない。


これは、俺様でも解けそうにない。

そもそも、これの正体すら分からん。


『どうされますか?』


強行突破することも出来ないだろうな。


『通れるところを探す。行くぞ』

『はい』

















三日経ちましたが、熱が下がりません。

予想以上の毒の効果に泣きそうです。


『ウィル様大丈夫ですか?』

「うーーー……」


返事するのも億劫。


グロウとヒウロに担がれてウィンデーネの元で毒抜きしてもらったが、焼け石に水な気がしてきた。なのに、抜いてもらった毒は500ミリリットルのペットボトル程になってしまった。

いやいやいや、研究をするにしても十分な量です。もう要らないよ。


『これ、もう彼女呼んだ方が良くないか?』

『でもなぁ、連絡が取れるか怪しい方だし…』


ベッドに寝かされた。

はぁー、情けない。


今頃魔王も僕の迷宮に填まってイライラしているだろうけど、僕も僕でキツいよこれ…。


「雑炊しか作れなくて悪いな」

「…いや、ほんと助かってます。特に森の手入れ…」

「ならいいんだけどよ…」


マジリックの隣でマリちゃんも心配そうな顔している。


「心配かけてごめんね」


首を横に振っているが、正直弱っている姿を見せたくなかったなぁ。


魔術に関して器用な二人とクーにアヴァロンをお願いして目をつぶる。







金色の鹿が歩いてきた。


輝く森の中を、光の粒を纏ってキラキラと。







『空色の子…』


目が突然覚めた。


優しい女性の声。

シャラリと飾りが音を立てて揺れ、視界を鮮やかに彩る。


黄金の角が、紅葉色の髪から突き出ている。深い森の色の瞳が優しげに覗き込んでいた。

まさか…。


「…精霊王、ティターニア」


ティターニアがベッドに腰掛け、こちらを見ていた。

何故此処におられるのか?オベロンもいるのだろうか?


見渡してみても気配はない。


『ウィンデーネに呼ばれてきたのよ』


バタバタと足音がやって来て使い魔たちが扉から飛び出した。

突然現れた気配にみんな驚いている。

そんなみんなの様子にティターニアは小さく笑った。


『こんにちは、子供たち。お邪魔しているわ』


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