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デコピン

水色の髪がふわふわと歩く度に揺れている。

淡い色の布の塊のような服が風に揺らされている。


上級魔法使いになれば嫌でも感じる魔力の威圧もない。

彼のモノと契約した家系の魔法使いではなくとも、自らの魔力を使う魔術師ならば絶対にその魔力の圧で力関係が分かると思っていた。

なのに、何故この魔術師からはなにも感じないんだ。


「…ユーハ様。どうします?」

「どうもない。こうなったら隙をついて最大限の上級魔法を叩き込んでやるしかない」


魔力をなにも感じなかった。

卑怯と知りながら、先制攻撃をしたのに、この魔術師は“何もやっていない”のに放った全ての魔法を無効化したのだ。


結界か?

だけど結界を張っている様子は視えない。

魔法を使った様子もない。


ぎりっと食い縛る。


杖を持たない魔術師なんて、魔法使い達を舐めているとしか思えない。

伝統を踏みにじっている。

こんな鳥みたいな奴に伝統を壊されてはならないんだ。












取り巻きの奴が背中を狙っている気配がする。

けど、さすがに卑怯過ぎるから踏みとどまっているって感じかな?


まー、プライドが無かったらやりそうだけど。

人目があるからって、止めているのかな。


実際僕と後ろの魔法使い達の異様な空気を感じて人が集まっている。

娯楽が少ないこの世界ではこういった喧嘩みたいなのが最高のエンターテイメントだ。


が、その中心にいる僕は心底めんどくさいなぁー、って思ってるわけで。


「門番さん、ちょっと挑戦挑まれたので、一旦出ます。ちゃんと城壁に結界張っとくんで、被害はないと思います」

「はっ!畏まりました!」


ため息をしながら出ていく僕を門番が同情の眼差しで見送った。が、その半分は興奮しているのを知ってるんだ。

なんたって、見張りそっちのけで門番全員出てきちゃってるからね。


城壁を指差して結界を張る。


「おい!まだか!?」

「もうちょっといかないと危ない。君僕になんか凄い魔法叩き込もうとしているんでしょ?だったらもう少し離れておかないとみんな怪我しちゃう」

「うっ…、そ、そうだな!」


というのは建前。僕が結界張ってるから怪我なんてさせるわけない。

離れる理由は見られていると恥ずかしいから。

これくらい離れていればいいか。


僕が立ち止まると、魔法使い達も立ち止まる。


「でー?どんな形式で挑戦するの?技術勝負?一騎討ち?それとも純粋に一門同士での戦闘勝負?っといっても僕は所属している流派ないから必然的に複数VS僕ってなるけど、僕としてはどっちでも良いよ」


正直複数VS僕の方が良い。

手っ取り早いし。


だけど、リーダー各の人が僕の提案に少し迷った後、フードを外して「一騎討ち」と答えた。


あれ?背が高いから20代かと思ったけど、顔見たら10代っぽい。


「一騎討ちね。敗北条件は?」

「宣言と、つ…えはないな、えと、じゃあ膝か背中を地面に付けられたらで」

「おーけー。取り巻きの人たちはどうするの?」

「結界を張ってもらう。逃走防止に」

「ふーん、いいよ」


リーダー各が合図をすると僕達の周りを取り囲んで陣形を作る。

取り巻きは四人。

一応闇討ち警戒はしておこうかな。


フォンと音を立てて結界が作られた。

中級の四方形結界か。基本だね。


さて、名乗ろう。


胸元に手を起きお辞儀。

それを見て慌ててリーダー格も杖を空いた方の手に持ち同じようにお辞儀。


「俺はフィラーティル家一門。ユーハ・フィラーティル。ウィル・ザートソンへ挑戦の申し込みを致します」

「僕はウィル・ザートソン。ユーハ・フィラーティルの挑戦申し込みを受けます。正々堂々勝負をしましょう」


顔を上げるなりユーハは杖をこちらに向けた。


「イグニスマギア!フレィムボー・インテンス・コンテュニュエティ!!」


前方に魔法陣が展開。横にスライドして火炎弾を発生させ、それが次々に凄まじい勢いで発射した。

ふむ。ちょっと荒いけどなかなかの出来だね。


「じゃあ迎え火をしようか」


火炎弾は体を滑るようにして後ろへと流れていき、結界へとぶつかっていく。


「なに!?」


一歩前に出る。


「くそ!イグニスマギア!フレィムアロウ・スコウル!!」


ユーハの頭上に魔法陣が展開。大きな火の玉がうち上がり、それが空で破裂して、その欠片が炎の矢が雨のように飛んでくる。たが、それも体を滑り、地面に突き刺さって地面を抉り焦がした。


また一歩前に出る。


ユーハの顔に焦りの色が滲みだす。

ここで降参してくれたら嬉しいんだけどな。


(お?)


後方から風魔法構築の気配。

この感覚はエア・ハーフムン・カッターかな。


発射されたそれをすぐさま風の軌道を上に変えて流す。ボスンと上の結界にぶつかった。


もう、邪魔するのなら最初から複数でやればいいのに。

仕方ない、結界張ろう。


くるんとその場で回りながら、視線で対象を把握、すぐさま四人の前方に防弾ガラスを出現させる。


「「「 !!!?? 」」」


みんな驚いてなんか叫んでいるけど、僕は何にもきこえなーい。


「てっめえ!!!何しやがった!!!」


憤怒するユーハ。


「横槍入ったから、もう出来ないようにしただけだけど。気付いてなかった?」

「な…そんなわけ…っ!」

「仲間思いは良いことだけど、やっていいこといけないことの区別は付けないといけないよ」


もう一歩前に出る。

残された距離が縮まる。


どうする?そろそろ大規模魔法の限界距離だけど、撃つのかな?


僕の言葉に顔を真っ赤にさせたユーハが、今までにないほどの魔力を練り上げた。

大量の魔法陣が高速展開される。


「セーニォル・イグニスマギア!!!フィアストウム・エクスプロージョン!!!!」


僕の四方に巨大魔法陣が展開。風と炎が吐き出される。

それが絡み合い、火炎竜巻に発達していく。

炎の壁は厚い。風も安定している。炎系しかできないと思ったけど、風も適応があるらしい。


「ふーん、結構大きいな。流石は上級魔法」


ユーハを見れば、激しく息切れをしている。

手を上げ、握りしめるのが視えた。


「爆散しろ!!!!」


一気に竜巻の濃度が上がり、熱密度が上がる。

そして、大爆発を起こした。













逃走防止の四方結界が震えるほどの上級魔法がウィルを捕らえた。炎の壁で逃げられはしない。


今までバカにした報いを受けろ!!!

残された魔力を注ぎ込んで、拳を握り締めた。


「爆散しろ!!!!」


凄まじい爆発。自分用に張った結界すら衝撃でヒビが入るくらいに完成度の高い魔法だった。

いくらウィルといえど、その中心点にいれば、どんな結界を張っても無傷ではいられない。


爆発で発生した煙が充満する。

この煙が晴れたとき、ウィルは一体どんな顔をしているのか。

泣いてると良いな。

そしてバカにしてすみませんでしたと地面に額を擦り付けながら俺に謝って──





「結構いい筋いってたけど、もうちょっと伸び代があるかな」






え?






目の前に煙からつき出す手。

滑らかな肌に、艶やかな爪。


どこも汚れた様子のない手が、デコピンの形を作った。


煙がウィルを中心に吹き飛ばされる。

何処も怪我した様子もない。それどころか、汚れすらない状況でウィルは子供を誉めるような柔らかな笑みを浮かべた。


「だから、これから先の成長を祈って、僕も得意な魔法を見せてあげるね」


化け物、そう言いたかったが、口は動かず。

「あ…」とか細い声だけを残した。















四方結界がウィルのデコピンで思い切り弾き飛ばされたユーハによって破壊された。

僕の張った結界で、手下の四人は無事だけど、みんな尻餅をついてしまっている。


「手加減ミスったなぁ…」


一キロ先まで飛んでいったユーハの無事を確認するために飛んでいくと、デコピンの際、怪我をさせないようにと張っておいた僕の結界の中でユーハが仰向けで泣いていた。

おでこは赤くなっているけど、それ以外の怪我はなし。


結界を解けば、ユーハの背中が地面に着いた。

でも一応声をかけてみた。


「どう?降参する?」


続けたいのなら続けるけど。


僕を見るなり震え出すユーハ。

歯をガチガチ言わせながら何とか声を絞り出した。


「降参します……、いきなり魔法を撃ってすみませんでした…」


なんとさっきの事を謝られてしまった。

反省しているのなら許さなきゃね。


「いいよ、許してあげる」


こうして世界一位を巡っての勝負は僕の勝ちという結果で終わった。

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