第八話 「深蒼の瞳と憂鬱」
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皆は恐怖で動けなくなった経験ってあるか? 俺は幼年期に経験した。
怖い映画を兄と見た後、寝る時間になって兄と二人でベッドに横になり、さあ寝ようと思ったが興奮で寝付けず、兄に話しかけるが、先に寝てしまったようで返答はない。
しかもトイレに行きたくなってしまった、兄を起こして行くのも怒られそうで出来ず、時間だけが経過する。
我慢も限界にきてしまい、意を決してベッドからでると──トイレへと向かう廊下が静か過ぎて以上に怖い。
両親も寝てしまったのだろうか? と、一人恐怖に耐えながら『ヒタヒタ』と歩くがその音がまた異常に怖いのだ。
とうとう、トイレまでもう少しといった所で、それは訪れる。
廊下に佇む黒い影──人のようで人では無い何かに俺の歩みは止まり、立ち竦む。
恐怖にパニックになった俺は、その場でへなへなと崩れ落ち小便を漏らしながら泣き叫んだ。
当然、俺の泣き叫ぶ声に慌てて飛び起きてきた両親は廊下の電気をつけて現れるのだが、その時俺がオバケだと思っていた黒い影は・・・・・・。
父のゴルフバックだった・・・・・・。
なんだか笑い話しになってしまったが、恐怖に立ち竦む今の状況にそんな事を思い出してしまったのだ。
蒼い鱗に覆われた『ソイツ』は光り輝く魔石達に囲まれ静かに佇んではいるが、その異様な大きさに冷たい汗が俺の額からじわじわと顔に伝ってくる。
しかもソイツは、俺達の事をそのギロリした眼光で見つめているのだ、その捉えるような瞳に俺達はまるで『蛇に見込まれた蛙』のようにガクガクと震え、怯えていた。
そんな状況に口を開いたのは、俺達の中で一番の戦闘力を有しているだろうサツキだ。
「殿、逃げましょう。奴の気配を感じる事が出来なかったのは拙者の落ち度・・・・・・もし、奴が攻撃してくるのであれば拙者が囮になりますゆえ──お逃げ下さい」
「馬鹿野郎、置いて逃げれるかよ! それにな、逃げようたって──足が動かないんだ」
「情けねえがワシもだ」
「私も、動けません。まさかこんな所に『ドラゴン』がいるなんて・・・・・・」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
マナの言葉に皆が無言になる。
そう、俺達の前に現れたのは──深蒼の瞳でこちらを見つめ、蒼い鱗に覆われ、体長は人の10倍、いや──20倍はあろうかという『ドラゴン』だ。
「では──少しずつで良いので後ろにゆっくり下がっていきましょう」
サツキの指示に俺達三人は頷くと、プルプルと震える足を少しずつ後方にずらして行く。
少しずつ、少しずつだが『ドラゴン』から離れていき、もう少しで出口に体が入るかと思われた時──それは響いた。
グガァッッー!!
その、『ドラゴン』による号哭で、なんとか動かしていた体はまた、硬直してしまう。
ヤバい──漏らしそうだ・・・・・・。
「待て──折角来たのであろう? そうそう立ち去る事は無かろうに。少し話しでもしようではないか。エルフにドワーフ、獣人、それに──管理者よ」
ド、ドラゴンって喋るのか!?
いや、驚くべきはサツキが獣人だって事だ!
何処にそんな要素があるんだ!? フサフサの耳が生えてる訳ではないし、見たところ体毛が濃い訳でもない。一体、どうなってるんだ!?
「どうした? 黙っていては話しにならぬぞ──ああ、そうかこの姿が恐いのか?」
そう言うと、ドラゴンは蒼白い光を発しながらその大きな体をみるみる『縮小』させていく。
そして、蒼白い光と共に縮小が治まったかと思うと、その姿は
──一糸纏わぬ艶かしい美女へと変わっていたのだ。
「一郎さん! 見てはダメ!」
「殿! 見てはいかぬ! 目に毒じゃ!」
マナとサツキは妬心のこもった声でそう言うと、片手ずつ俺の邪心を塞ぐように目を隠し、美女へと変身したドラゴンへ睨みをきかす。
しかし、指の隙間から見えてしまったその姿は、俺の欲情を誘うのには充分だった。
蒼い瞳と蒼く長い髪、セクシーさをアクセントする涙黒子、それが白い肌とマッチし、とても幻想的な雰囲気を醸し出す。
そして注目すべきは──その『胸』だ! すらりと伸びた手足もさることながら、兎に角『胸』がヤバァイ!
かつて、こんなにパーフェクトなオッ○イを見た事があるだろうか! 『形』『大きさ』『上向き具合』全て完璧! そして、淡いピンクの──いや、これ以上は規制がかかってしまうので止めておこう。
兎に角、凄い良いです(こなみかん)。
俺の、下世話な想像が分かってか美女へと変身したドラゴンは、妖艶に微笑むとまるで俺を床へと誘うかのように甘い声で提案をしてきた。
「そうじゃ──管理者よ、我と一対一で話しをせんか? 何も取って食おうと言うわけじゃない、仲間にも手出しはせん。どうじゃ?」
その提案に皆、口々に反対の意見を述べる。
「一郎さん、惑わされてはなりません!」
「そうじゃ! 行ったが最後、食い殺されるやもしれん!」
「一郎、さすがに行かねえ方がいいぜ」
だが俺は、マナとサツキの手をそっと下ろすと、反対する皆とは裏腹に自信のこもった声で提案に答えた。
「分かった! 行こう!」
「そうか──では参れ」
俺とドラゴンの短いやり取りに皆は驚くと、なんとか止めようと説得を試みる。
「い、一郎さんダメです! あのドラゴンは何を考えているのか分かりません!」
「そうじゃ! 拙者達もろとも殺されるに決まっておる!」
「一郎、悪い事は言わねえここは誰かを犠牲にしても逃げるべきだ」
俺はそんな皆の声を無視するように『大丈夫、彼女の目は嘘をついていないから』と呟き、ドラゴンの元へと向かって行く。
──やがてドラゴンもとい美女の元にたどり着いた俺は、彼女の目を見据え──呟く。
「着いたぞ」
「よう来た」
短いやり取りを終え、本題に入る事にする。
「それで、話しとは?」
「まあまあ、焦るでない。先ずは茶でもしようではないか」
そう言うと、彼女は指で何かを刻み、テーブル一式と湯気が立ち上る紅茶のようなものが入ったティーカップを出現させた。
「うわっ!!」
「そう驚くな。ほれ、座って茶を啜れ──心が落ちつくぞ?」
とりあえず、言う事を聞いておくか。
おおっ、これは紛れもなく紅茶だな。いつも飲んでいるハーブティーもいいが、この紅茶も悪くない。
「落ち着いたようじゃの。それでは、本題に入るか?」
「ああ、頼む」
彼女は静かに頷き言葉を続ける。
「先ずは、自己紹介からするとしよう。我は『蒼の竜』名は──アクア」
「そうか──宜しく、アクア」
「さて、本題じゃが──お主この世界の事はどこまで知っている?」
「どこまでと言ってもな・・・・・・人は居ないけど魔物がいる、後、魔法がある。今知っているのはこのぐらいかな」
「で、あるか──あの子と同じじゃ。ではやはりお主が次の管理者と言うわけか」
その言葉に何か引っかかり『アクア』に質問を投げ掛ける。
「所で俺が管理者って何で知ってるの?」
「・・・・・・まあ、気になるであろうな。では管理──いや、お主一郎といったな?」
「ああ」
「改めて、一郎よ。これから話す事はかなり長くなるが良いか?」
「・・・・・・ああ、聞かせてくれ──
「・・・・・・俺にそんな事出来るのか?」
「さあ、それは一郎──お主次第ではないか」
アクアから聞かされた話しは『この世界の事』『俺がこの世界に来た理由』そして『あの子』の事、それらの情報に俺は衝撃を受け、項垂れた。
に、荷が重過ぎる・・・・・・。
正直断れば良かったと後悔していると、見透かされたのだろうか、アクアが声をかけてくる。
「そう重く考えるな。なるようにしかならんではないか──そうじゃ、我も一郎の村に住もう。さすれば少しは安心出来るであろう」
「ほ、本当ですか!? ぜ、是非お願いします!!」
アクアからのありがたい提案に全力で首を縦に振ると、アクアは少し引き気味に言わなきゃ良かったという顔をしていた。
そんな顔してもダメだ──絶対に逃がさない。
アクアの気が変わらぬ内にと思い、手を引いて皆の元へ戻り『新しく仲間になった蒼い竜のアクアさんです、皆宜しく』と、早々に既成事実を作った。
アクアも渋々ながら『宜しく』と、呟いたので了承は取れたようだ。
しかし、皆の目の玉が飛び出しそうな顔は笑える。
まあ、俺も突然ドラゴンが仲間になりましたー、とか言われたら同じ顔をするだろうが。
それより、アクアはいつまで裸で居るんだろう・・・・・・そろそろ俺の倫理観も崩壊してしまう。
「そう言えば、アクアいつまで裸なの? 嬉しいけど、流石に何か着ないと・・・・・・」
アクアは『ハッハッハッ、そうか嬉しいか! まあ、何か着るとするか』と、少し嬉しそうに言うと指を弾く、次の瞬間──アクアの体は青いドレス型のワンピースが包んでいた。
「これでどうじゃ?」
「おおっ! 素敵じゃないですか!」
「フフッ、そうか──ああ、忘れておった。此処にある魔石は好きにしてよいぞ──あの子からの選別じゃ」
「本当ですか!? それは助かります! よーし! じゃあ、鉱物も魔石も手に入ったし村に戻ろう!」
「お、おう」「は、はい」「りょ、了解した」
未だに混乱中の三人とアクアを引き連れ、村へと戻る為洞窟を後にする──
そして、洞窟から出ると日はもう暮れていたが、久しぶりに感じる外の空気で気分も少し晴れ、皆も少しホッとしたような顔をしていたのだが・・・・・・。
「では乗れ」と、言うドラゴンの姿に戻ったアクアの言葉により皆はまた顔を硬直させてしまった。
まあ、勿論乗って帰ったのだが──速いし、高い、落ちそうだしとヒヤヒヤした帰り道だったのは言うまでもない──
そんなこんなで、村へと帰還するとアクアの家を作ろうって事になったのだが、当のアクアが『一郎と同じ家でいい』と言うので空いていた寝室を宛がった。
しかし、耳元で『溜まったらいつでも来なさい』と、甘い声で耳レイプを決めてくるアクアに膝から崩れ落ち、KOされてしまった俺を見たマナとサツキが、一層警戒を強めたのでその機会は当分訪れないだろう・・・・・・。
その後、スミスの『仲間が増えたなら宴会だ』と言う言葉にアクアが『是非やろう』と乗ってしまい、二夜連続の宴会へと突入する事になる。
「いつろうさんっ! なんですか──あくわさんばっかり見て! わたしだって──ぐぅーっ」
「そうですよ、とのおっ! いぐらあぐあさんが美人だからって、あぐあさんは、どらごおんなんですからね! でもわたしは、こんなにぴちぴちで──がぁーっ」
「いいではないが! われはあぞこのくらいどうぐつでずっとまっでいだのだ! すごしぐらいいおもいしたって──ぐぅがぁーっ」
「一郎、そろそろたけなわだな。俺も帰って寝る事にしよう──明日から忙しくなるしな」
「ああ、分かった。明日から頼むよスミス」
スミスを見送った後、酔って寝てしまった三人を見て一人ずつ寝床へと運ぶ事にした。
それにしても、こいつら──酔うとたち悪いわ・・・・・・。
三人を運び終わり、リビングへと戻ると残った酒を煽りつつ、この先の事を思い、ため息が出る。
はぁーっ──アクアが来てくれたのは良いけど、『アイツら』がいつ来るかも分からないし・・・・・・。
それに、あんな事を聞かされて本当に荷が重い。
この先どうなるのかな・・・・・・。
そんな、暗い一人酒で今日を終えた俺は酔いにまかせて、意識を無理やり閉じたのだった。
次の話しで第一章は終わりにしたいと思います。
第二章からは開拓を進めて行こうと思いますので、開拓まだかよと、お思いの方はもう少し待って下さい。
ここまで読んで下さり大変嬉しく思います。
誠にありがとうございます!
尚、面白い、続きが気になると思ってくださりましたらブックマーク並びに評価の程、宜しくお願い致します。