第七話 「洞窟探検!」
お待たせしました!
──よし、準備は良いか一郎?」
「はい。二人も大丈夫?」
「ええ、いつでも行けますよ」
「拙者は殿について行くまでです」
「では、洞窟探検隊、出発!」
「「「おお!」」」
そう、昨日の宴会から一夜明けた俺達は、鍛冶に必要な鉄や金などが埋まっていると思われる湖の直ぐ側にある『山』に来ている。
そして、今から行こうとしているのは山の中腹で発見した洞窟だ、スミスの話しによればこの洞窟が一番匂うらしい。
編成は、先頭がA級魔物ハンターのサツキ、真ん中に俺と鍛冶師マイスターのスミス、最後尾にエルフで精霊魔法の使い手マナ。
俺達、四人は恐る恐る洞窟の中に入っていく。
まず、マナが明かりとなる光の玉を生み出す。
明かりが周囲を照らし出すと、洞窟の内部が見えてくる。
ゴツゴツとした岩肌がどこまでも続いてる内部は、まるで俺達を黄泉の国へと誘っているようだ。
「どのぐらい深いんでしょうか?」
「さあな、ただ匂いからすると目的のもんはまだ先、みてえだ」
「そうですが。それにしても不気味ですね・・・・・・」
「なんだ一郎、ビビってんのか?」
ビビるだろそりゃ・・・・・・ただでさえ暗い閉鎖空間なのに、暗闇から何か出てきそうだし。
「一郎さん大丈夫ですか?」
俺の不安が伝わってしまったのか、マナが心配そうに聞いてくる。
「あ、ああ、大丈夫だよ。こういう所慣れてないだけだから」
「安心して下さい殿、この洞窟には魔物の気配が皆無です。まあ、それはそれでおかしな事ですが、突然何かが出てくる事態は起こらないでしょう」
「そうか、サツキが言うなら安心だな」
口では安心と言ったが、確かにこんなじめじめした暗い洞窟なら、魔物の一匹や二匹現れてもおかしくない雰囲気なのだ、それが気配すら皆無なのは少し胸に引っかかる。
その後は、喋る事なく洞窟を進んでいくと、最深部にたどり着いたのか、だだっ広い空間へと俺達は足を踏み入れた。
「一郎、お目当てはここだな。匂いが充満してやがる! マナ嬢ちゃん、明かりもっと増やしてくれねえか?」
スミスが興奮気味に明かりを増やすように頼むと、マナは軽く頷いて呪文を唱える。
すると光の玉が次々に現れ、頼りなかった明かりが煌々と辺りを照らし始め、それにより空間内部の全容が明らかになった。
広い内部を隅々まで観察すると、岩肌に鉱石らしき石が所々剥き出しで飛び出している、どうやら目的地へと到着したみたいだ。
「こりゃすげえ数だ、鉄鉱石どころか金銀銅と揃っていやがる!
おおっ!? ありゃレアメタルじゃねえか! 一郎! ここは宝の山だぜ!」
「凄いですね」
「ああっ! 本当に凄いと思ってんのか! こんだけの鉱石が揃った鉱山なんか他にねえぞ! 分かってんのか!?」
そんな事言われても・・・・・・。
鍛冶師でもない俺はいまいち凄さが分からない。
マナとサツキも同じなのか、ポカーンと辺りを眺めているだけだった。
「たくお前らは・・・・・・兎に角、持てるだけ持ってくぞ! マナ嬢ちゃん、俺が指定した所を削って欲しいから着いてきてくれるか?」
「分かりました」
スミスとマナは採掘か、なら俺とサツキはもう少し辺りを調べてみるか。
「俺とサツキは周囲を見て周りますね。行こうかサツキ?」
「御意」
「きいつけろよー」
「一郎さん、サツキ、お気をつけて」
マナとスミスは採掘、俺とサツキは周囲の探索と、二手に別れて行動を始める。
歩き始めて数分、探索をする俺とサツキだが、特にこれといって変わった物は発見出来ていない。
更に数分歩き続けると、遂には最奥までたどり着いた。
「ここで終点のようですね、殿」
「みたいだね、特に何も無かったし戻ろ・・・・・・?!」
「なあサツキ、あの、レバーみたいなの何?」
「ればー? ですか? ああ、確かに奥の壁に棒のようなものが付いておりますね」
「なんだか分からないけど・・・・・・調べても良いかな?」
「分かりました。ただ、無闇に触らない方が宜しいかと。罠かもしれませんので」
「分かった、気を付けるよ」
サツキの了解を取った俺は、壁から『起動して下さい』と言わんばかりのレバーを調べる為、近づいていく。
レバーの前まで来ると、レバーの上にディスプレイのような液晶が埋め込まれていた。
「なんだ・・・・・・これは?」
俺の疑問の声にサツキもしげしげと液晶を見つめるが、分からないといった風に首を傾げている。
二人でレバーを舐め回すように見るが、液晶は真っ黒なまま何も表示される事はない。
「いったい、何なのでしょうこれは?」
「特に何か表示される訳じゃないしな・・・・・・もしかしてレバーを下げれば何か表示されるかもな?」
「しかし、危険では?」
俺とサツキは、各自の疑問を問うように顔を見合わせる。
だがその距離が問題だった、少しでも動けばくっついてしまう距離の唇と唇に、慌てた俺達は声を上げて驚く。
「うわっ!!」「きゃっ!!」
後ろに下がる俺、その場でへなへなと崩れるサツキ、しかし、サツキの手は事もあろうに・・・・・・・。
「「あっ・・・・・・・・・・・・」」
・・・・・・・レバーを下げていた。
「な、何してんだよサツキ!!」
「め、面目ありません・・・・・・し、しかし、殿の顔があまりに近く、力が・・・・・・」
「そんな事は良いんだよ! 兎に角、ここを離れないと罠が発動・・・・・・しない・・・・・・??」
「「・・・・・・・・・・・・」」
「なんだよ脅かせやがって! 何にも起こらないじゃないか」
俺が何も起こらない事に安堵していると、サツキが何か見付けたらしく声をかけてくる。
「いや、殿。あそこに何か書いて有ります」
そう言って指で発見したものを差すサツキ、俺はサツキの指先が示す先にゆっくりと視線を合わせると、真っ黒だった液晶が淡く光っているのが見え、続けて書いてある文字を確認すると、こう書いてあった。
『布団が?』
その馬鹿げた質問に唖然としながらも、ついつい声を出して答えてしまう。
「・・・・・・ふっとんだ」
俺がそう答えた瞬間、液晶には『正解!!』と表示が切り替わり。
その瞬間。
ゴゴゴゴゴゴォォォーー
と、響きをあげながら床が突然動く。
「なんだこれ!? サツキ!! 危ないから下がるぞ!」
力が出ないサツキを担ぎ、後ろに下がると、俺達がいた所の地面は横に少しずつスライドしている。
暫くすると動きも治まり、床が消えた場所は、下へと降りる階段に変わっていた。
俺とサツキが呆然とその光景を見つめるなか、後方からバタバタと走る音が聴こえてくる。
「おいっ! 大丈夫かお前ら!? って、こりゃいったい何だ?!」
「お二人共! お怪我は有りませんか!? って、これはいったい何ですか?!」
「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」
四人が呆然とする中、口を開いたのはサツキだった。
「殿、罠では無く隠し通路だったようですね。隠されているということは、何か秘密が有ると思うのですが?」
「だろうな・・・・・・それよりちょっと皆に聞きたいんだけど『布団がふっとんだ』って、意味分かる?」
「フトンガフットンダ? なんだそりゃ? なんかの呪文か? マナ嬢ちゃん意味分かるか?」
「ご期待に添えず申し訳有りませんが、私にはさっぱりです・・・・・・」
「殿、私も何の事か分からぬ・・・・・・」
「だよな・・・・・・」
やっぱり皆分からないよな。
そりゃそうだ、これを知っているのは俺と同じ歳か、もっと上の世代の日本人位だろう。
そうすると、導き出されるのは、この装置を設置したのは俺と同じ日本人って事だ・・・・・・。
しかし、それはおかしい。
星の管理者は『人』は居ないと言っていたし、それにアイツの目は嘘をついてる目じゃなかった。
まあ、魔物とかイベリスのような予想外の物はいたが、それ以外の生物や知的生命体は今の所現れていない。
いったい、どういう事なんだ・・・・・・。
俺はため息をつきながら考え込むが、いくら考えても答えは出ない。
なら、行動するだけか。
「なあ、皆。この下行ってみないか?」
俺の提案に皆は驚いた顔をする。
「わしは構わんが・・・・・・」
「私も一郎さんが行くならついていきますが・・・・・・サツキ、この下、何か気配はするかしら?」
「いや、魔物の気配は無いが・・・・・・何か嫌な予感がする」
サツキの不吉な言葉にドキッとするが、俺と同じ日本人が居るかもしれないという期待に俺の決心は揺るがなかった。
「危険は承知だが、俺は行こうと思う。皆も着いてきてくれると嬉しい」
「一郎がそこまで言うなら俺は着いてくぜ」
「私も参ります。サツキ、危険を感じたら直ぐに言って頂戴」
「相分かった。危険な気配を感じたら直ぐに引き返す、それで良いか殿?」
「ああ、分かった。じゃあ、行こうか」
俺の言葉に皆は軽く頷くと、編成を組んで階段へと歩き出す。
螺旋状の階段をゆっくりと降りていくと、洞窟よりいっそう狭い空間なのかコツコツと歩く音が良く響く。
「しかし、何処まで降りるんだ? この階段は」
スミスの言葉に、皆同じ事を考えていたのか、一様に不安気な顔をさらけ出す。
「サツキ、特に何も感じないか?」
「特に何も感じませんな」
「そうか、なら行けるとこまで行ってみましょう」
「ん、分かった」と、静かに答えるスミスの言葉を最後に、不安からなのか俺達は口を閉じ、神妙な面持ちで黙って階段をひたすらに降りていく。
──どのぐらい経ったか分からないが、感覚から言うと山を下まで降りたぐらいは経過したと思う。
その事から、そろそろゴールかなと思っていると、少し先に階段の終わりが見え、平らに続く地面がうかがえた。
「皆、一番下まで来たみたいだ」
俺の言葉に皆はホッとした顔で頷く。
最後の階段を降りてやっと平らな地面が踏めると安堵した俺達だが、その地面の先に何か有る訳でもなく、相も変わらず暗闇が支配する空間が続いている。
まだ先が有るのか。
でも、ここまで来たら行くしかないよな。
そう決心した俺は、歩みを止める事なく暗闇の先へ向かう。
暫く歩くと、少し冷たい空気が肌に伝わるようになり、更に歩き続けると冷気と言っても遜色ない空気が辺りを包みだす。
そして、たどり着いたのは上と同じ広い空間のようだ。
「上と同じ様な所か? マナ嬢ちゃん、また頼むわ」
スミスの言葉にマナは軽く頷くと、上の時と同じく光の玉を無数に出現させ、広い空間を照らす。
明かりによって明らかになった内部を確認すると、そこには一面水が支配する地底湖だった。
しかし、それより目を引くのが、地底湖の中央に存在する浮島に所狭しと無数の光輝く魔石が積んである光景だ。
「凄いなこれは・・・・・・これって全部魔石ですか?」
「そ、そうだが、一郎あれ見えねえのか?!」
少し震えた様子で言うスミスに、俺は怪訝な顔をする。
マナとサツキも何故か震えて『あ、あれは』と、呟いているので、いったい何が見えてんだと思いながら皆が見ている方向に、俺も視線を少しずつ合わせるのだが。
俺はこの時思った。
何故、アレが最初に見え無かったんだと。
いや、見え無かったのではない、見ようとしなかったのだ。
あの、あまりに大きい体と、その体から放つ異様な『存在感』に。
そこで俺が見た『存在』とは・・・・・・。
一郎の見た物とは? 一体なんなんでしょうね。(予想はつくと思いますが)汗
という事で、次回もお楽しみに!
ここまで読んで下さりありがとうございます。
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