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わたしからあいするあなたへ

 俺と春の交際は、僅か三ヶ月で終わってしまった。

 理由はよく分からない。

 きっと、俺が何かいけなかったのかもしれない。

 それでも、春の残した最後の言葉が気がかりで仕方ないのだ。


「『ごめんね……大好き……』か……」


 春は俺と別れたあの日以降、一度も学校に来ていない。

 気まずいから? いや、あの子はそういう理由で学校を休んだりしない。

 本当に俺はダメな男だ。

 つくづく嫌気がさす。

 それからというもの、俺は春が残した言葉の意味を考え続けている。




 ───────────────────────




 桜が一段と綺麗に咲いていた。

 俺はいつの間にか二年生になっていた。

 ずっとボーッとしている俺を見て、咲哉は「抜け殻みたいだな」と言ったのを覚えている。

 確かに俺は抜け殻なのかもしれない。

 そして、学年が一つ上がってから数日が過ぎたある日、俺の家のポストに一通の封筒が投函されていた。

 差出人は『遠山凛子(りんこ)』。

 確か、春のお母さんの名前だ。

 春のお母さんが俺に手紙? 一体どういうことだろうか。

 封筒を開き中を確認すると、手紙と一枚の紙切れが入っていた。

 まず恐る恐る手紙を開いて内容を確認する。


『秋斗様へ

 もし、今も春の事を好きでいてくれているなら、

 この場所に来てください。』


 この場所? と思い、紙切れを確認すると、そこにはある建物の住所が書かれていた。


「行かないと……っ!」




 ───────────────────────




「はぁ……はぁ……っ!」


 着いた。

 乗り慣れない地下鉄を乗り継いで、やっとの思いで到着した。

 紙切れに記されていたこの『病院』に。

 受付に直行し、事情を説明する。

 受付の女性は少し悲しそうな顔をしながらパスを渡してくれた。

 これがあれば春のいる場所へ辿り着けるらしい。


「はやく……っ!」


 エレベーターで六階まで上がる。

 そして、マナー違反と分かっていながら病院の廊下を疾走する。

 看護師さんに注意されたが無視した。

 そうして辿り着いた、625号室。

 息を整えつつ、ドアを優しく二回ノックする。


「秋斗君? 入っていいわよ」


 聞こえたのは母である凛子さんの声だった。

 ゆっくりとその扉を開ける。


「失礼しま……す……」


 視界に入ったのは真っ白な部屋とベッド。

 そしてそこに横たわり、呼吸器に繋がれたまま眠っている春だった。

 どうしてだろう……

 どうして俺はあの時、無理にでも別れたくないと言わなかったんだ……?


「とりあえず、座って。事情は説明するから」


 説明を聞いていた時間は覚えていない。

 ただその内容に放心していたから。


「春はね……生まれつき、病気だったの……

 それこそ今の医療では治すことが出来ない難病だったのよ……

 余命は持って十五歳まで……

 だけどあの子は……春は強く生きたの……

 余命よりも一年も長く生きたの……

 何度も入院して、その度に辛い薬の副作用にも耐えてきた……っ!

 そんなある日……あの子は『彼氏が出来た!』と言ったの……

 それがあなただった……

 私は嬉しかった……っ! あの子は普通の子と同じ恋愛が出来たんだって……っ!

 あの子、あなたとデートに行くんだって言ってワクワクしてたの……

 慣れないオシャレもして、『もう出来なくなるかもしれないことをしてみたい!』って言ってたわ……

 あなたの事を、心から愛していた……っ!」


 俺は……俺は本当にどうしようもない奴だ。

 こんなに苦しんでいた彼女の心の叫びを何故感じられなかったんだ。

 俺は春に愛されていたのに……っ!


「この子の……春の今の病状を……教えてください……」

「先生に宣告された余命はとっくに過ぎてる……いつ息を引き取っても……おかしくないわ……」


 そんなの嘘だ。

 少し前まであんなに笑顔だったのに……?

 そんな春がいつ死んでもおかしくないだ?

 酷い……あまりにも残酷だ……っ!


「春っ! なんであんな事言ったんだよっ! こんな別れ方俺は嫌だ……っ! まだ行ってない所もしてない事もたくさんあるのに……っ! だから……だから……死なないでくれよ……」


 目から滝のように涙が流れる。

 隣で凛子さんも涙を流していた。

 嗚咽が混じり、自分でも何を言っているのかわからない。

 けれど、俺の言葉はちゃんと春に届いた。


「秋斗……くん……?」

「春……っ! そうだよ! 俺だよっ!」

「来ちゃったん……だね……もー……ほんと……バカなんだから……」

「当たり前だろっ!? 俺はお前が何処に行ってもすぐ駆けつけるから……っ! だから……今は……無理……するなよぉ……」

「泣かないで……あのね……秋斗くんに……伝えたい事が……あるの……」


 目をうっすらと開け、苦しいだろうに無理矢理笑顔を作って春は言う。

 春が、俺に伝えたい事。

 きっとこれが最後の言葉だ……


「こんな私と……付き合ってくれて……ありがと……

 こんな私を……愛してくれて……ありがと……

 でも……お願い……私が死んでも……別の誰かと……恋に落ちて……?

 そうして……ちゃんと……家庭を支える……パパに……なって……

 私の……分ま……で……お嫁さん……と……子供を……愛して……あげて……」

「分かった……分かったから……もう無理するなよ……」

「それとね……前は……ごめんね……

 こんな……恥ずかしい……姿……秋斗くんに……見せたくなかったの……

 でも……君は来てくれた……私は……本当に幸せ者……だよ……」

「もういい……もういいよ春……っ!」

「お母……さん……迷惑かけて……ごめん……ね……

 お母さんの……おかげで……楽しかった……

 秋斗くん……ありがとう……今も……この先も……

 ずっと……あなたの事を……愛して…………る…………」


 春がそう言い切った瞬間、機材が大きな音を立て出した。

 春は笑ったまま眠ってしまっている。

 俺はその場に座り込むことしか出来なかった。

 凛子さんは両手で口を抑えて号泣していた。

 この日、女の子の命がまたひとつ、この世から旅立った。

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