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ごめんね、だいすき

 春と初デートとして水族館に行ってから三ヶ月が経過した。

 この三ヶ月、何もしなかった訳ではない。

 週に一度は必ず遊んだし、もちろんデートにも行った。

 遊園地に動物園、ショッピングなんかもした。

 俺の幸せは絶頂だ。

 けれどここ一週間、春が学校に来る回数が減ってきていた。

 身体が弱いので、二週間に一度は学校を休んでいたのだが、最近はよく休んでいるのだ。

 そして、今日は春が学校を休み続けて七日目。

 今日学校に来なければ先生にでも住所を聞いて、お見舞いに行こうと思う。

 メールで『お見舞いに行きたいんだけど……』と送っても、『来て欲しくない!』の一点張りで埒が明かない。

 心配してほしくないのか、春はそういうところは頑固だ。


「今日は来てるといいな……」


 セミがミンミンとうるさい通学路でポツリと呟く。

 一週間会わないだけでここまで寂しくなるものなのか……

 俺はかなり春にベタ惚れしているようだ。


「秋斗ーっ!」

「おわっ! なんだ咲哉か……ビビらせんなよ……」

「やっぱり春ちゃんがいないと元気無いなぁ! またスイーツ食べ放題でも行くか?」

「行かねぇよ……」


 咲哉はいつも通りかなり元気だ。

 確か一ヶ月程前に、新しく彼女が出来ていた。

 何気に尻軽な男だなぁ、と思っているが内緒だ。

 そんな咲哉と駄弁りながら学校に到着。

 下駄箱で上靴に履き替えて階段を上る。


「春ちゃん来てるかな?」

「さぁ……?」

「素っ気ねぇなぁ……会えてなくて寂しいんだろ?」

「んなっ!? お前はいつも俺の心の中を読んでくるよな……」

「エスパーだからなー!」


 いつも通り超能力的な予想力で朝から心の中を看破されつつも、教室の扉を開く。

 スライドドアがガラガラっと音を立てて開き、普段と何も変わらない教室が視界いっぱいに広がる。


「おはよー諸君!」


 咲哉の挨拶もいつも通り皆ガン無視。

 苦笑いしながら咲哉の後を追い、教室に入る。

 そして……


「あ、秋斗くん! おはよ!」

「春……! おはよう!」


 満面の笑みで手を振る春がそこに居た。




 放課後、多目的室で春から呼び出しを受けた。

 ここに呼び出されるのは二回目だ。

 付き合ったばかりの頃、初デートのお誘いを受けたのも多目的室。

 その後、春が倒れた時は流石に焦ったが……


「それにしても、メールアドレスも交換したのに呼び出しなんてどうしたんだろ……?」


 ポツンと一人多目的室で待つ。

 春はまた先生の手伝いでもしているのだろうか?

 優しい子だから、よく手伝っている姿を見る。

 まあ、どれほど時間が経とうがずっと待っているつもりだけど……

 と、そんな事を考えていると、多目的室の扉がゆっくりと開かれた。

 もちろん春だ。


「待たせちゃったかな……?」

「大丈夫。そんなに待ってないから」

「そっか……なら良かった!」

「……?」


 何故だろうか。

 気のせいかもしれないが、元気が無いように見える。

 まあ、病み上がりだし、仕方ないか……


「で、どうして呼び出したの?」

「えっとね……」


 名残惜しいが、春がこれ以上無理をしないように早く用事を済ませるべきだろう。

 早速本題を聞く。

 春は少し気まずそうに目を逸らした。

 外はすっかり夕焼けで、春の姿を儚く輝かせる。


「あのね、秋斗くん……」

「うん……?」

「私と……別れてほしいの……」

「え……?」


 一瞬、時間が止まった。

 いつかは来ると思っていた事だ。

 けれど、こんなにも早く『その時』が訪れるとは思ってもいなかった。

 そして俺はこの申し出を断れない……


「そっか……仕方ないな……」

「うん……ごめんね……」


 俺はどうしてここで呼び止めなかったのだろうか。

 そうすれば未来は変わったかもしれないのに。

 恐らく俺はこの瞬間が人生で最も後悔した瞬間だと思う。

 春は少し悲しそうに笑って多目的室を出て行った。


「ごめんね…………」

「え……?」


 空耳だったのかもしれない。

 現実を受け止められない惨めな俺が妄想した言葉なのかもしれない。

 けれど、俺には確かに聞こえた。

『ごめんね……大好き……』と。

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