でーと・その3
美しく光り輝く水槽。
そして、その中を悠々と泳ぐ魚達。
本当に見とれてしまうくらいに綺麗だ。
水族館とはこれほどまでに魅了される場所だっただろうか?
「わぁ……! 綺麗……!」
祝!初水族館!な春はガラスの向こうで優雅に泳ぐ魚達に目を輝かせている。
ちなみに昨晩のアレの理由を聞こうとしたが、言い出した瞬間に逃げられたので、結構恥ずかしかったのだろう。
もう言わないでおこう。
絶対に忘れないけど。
だって可愛かったもの。
「次はいよいよジンベイザメだねっ!」
「あ、あんまりはしゃぐなって……」
「そんなにはしゃいでませーんっ!」
スキップをしながら次の水槽へ進む春。
今日は平日なのでさすがに客も少ないようだ。
少しはしゃいでも怒られはしないだろう。
「とうちゃーっく! ジンベイザメっ!」
「すごい子供っぽい……」
「おっきい水槽だぁ……」
ジンベイザメがいる巨大な水槽に辿り着いた。
春は小学生のようなテンションだ。
まあ可愛いから良しとしよう。
すると突然、大きな影が目の前を通った。
「デカっ!」
「エイだぁ! 本当に顔みたいだねーっ!」
いきなりエイが現れたので少し驚いてしまった。
か、カッコ悪い所を見せてしまったかも……
「あ、秋斗くん! そこっ! そこにジンベイザメっ!」
「ん? おぉ……でも遠いな……」
「そうだねー……近づいてくれるまで待つ?」
「いや、でもこの水族館下に長いみたいだから降りて行ったら他に見れる場所があるんじゃないかな?」
「おぉーっ! 流石秋斗くん!」
さっき入る前に貰ったパンフレットを見たんだけどね。
本当に尊敬した様な目で見てくる春に心が少し痛む。
いや、俺は悪いことしてないからな?
きっと多分恐らく……
というわけで色んな水槽を鑑賞しながら降りていく。
すると隣で歩いている春が腕をツンツンと突っついてきた。
「ん?」
「あ、あのね……手……手を……繋いで欲しくて……」
「……ッ!!!」
「ダメ……かな……?」
モジモジとしながら上目遣いで、顔を赤くしてそう言ってくる。
可愛すぎんだろーっ!!!
いかんいかん。
つい心の中で叫んでしまった。
『ダメ……かな……?』の時に首を傾げたのが更に高得点!
神様、俺は今なら死んでも後悔はありません……!
「い、いいよ……」
「じゃ……じゃあ……失礼します……」
ぎこちなく俺の左手を握る春。
しかも恋人繋ぎで。
もう無理昇天する……!
チラッと春を見ると、俯いているが耳まで真っ赤に染まっている。
右手で口を覆い、小さく叫ぶ。
「……天使かよぉっ!!」
「な、ななななな何か言った?!」
「何もないよ!!」
「そ、そっかぁ……それにしても、恥ずかしいね……これ……」
春が顔を真っ赤にして照れながら微笑む。
もう可愛すぎて言葉が思いつかない。
帰ったら『可愛い』のボキャブラリーを増やそう。
絶対そうする。
こんな感じで初々しさ全開で歩いていると、やっとジンベイザメの見やすい位置に着いた。
「だ、段違いにおっきいよっ! これがジンベイザメかぁっ!」
俺と手を繋いだまま春はピョンピョンと跳ねる。
傍から見れば親子に見えないでもないはずだ。
一応というか、正真正銘のカップルです。
ジンベイザメを満喫した後、クラゲなど綺麗な生き物をたくさん見た。
久しぶりに水族館に来たが、とても良かった。
春も満足そうだ。
水族館から出て、駅へ歩いていく。
その途中、春が何かを発見した。
「あ……こんな所に観覧車なんてあるんだねー……」
「の、乗りたいの……?」
「えっと……乗りたい……です……」
「じゃあ、乗ろうか!」
「うんっ!」
というわけで、春と観覧車に乗ることになった。
チケットを買い、階段を少し登ると入口があった。
幸い人が少なかったのですぐに乗ることが出来た。
足下に気をつけながら乗車する。
実は人生初観覧車だったりするのだが、春も同じだろうか?
グングンと上昇していく観覧車。
すっかり夕焼け空になっているので、とても幻想的で儚く綺麗だ。
「綺麗だね……」
「うん……感動しそう……」
ふと見た春の目が少し寂しそうだった。
理由はよく分からないけど、彼女にも悩み事があるのだろう。
でも、俺なんかが解決出来るだろうか?
答えは恐らくノー。
ならば、気休めでも春を楽な気分にさせてやるくらい俺になら出来る。
「対面で座るのもあれだから、横に置いでよ」
「ふぇっ!? じゃ、じゃあ……そうするね……」
「んっ……」
「ひゃぁっ! ど、どうしたの、いきなり!?」
照れながら横に座った春の肩を自分の方に抱き寄せる。
春は思った通り戸惑っているが、少ししたら頭を預けてきた。
そのまま観覧車は上昇を続け、いよいよ頂点という所で春が口を開いた。
「ねぇ……キス……しよっか……?」
「ん!? い、いきなりだね……」
「お願い……」
「わ、わかった……」
これは予想外。
まさか春の方から誘ってくるとは……言えなかった自分がヘタレなだけなのだが……
少し……いや、かなり気恥しいがやるしかない。
春の肩に両手を乗せる。
春はビクッと震えたが、そのまま目を瞑った。
心臓が張り裂けそうだ……
俺はそのままゆっくりと顔を近づけていく。
俺の両腕も震えている。
我ながら情けないと思う。
そして、これは偶然なのだが、観覧車が頂点に辿り着いたと同時に、俺は春の桜色の唇に自分の唇を重ねた。
それはお世辞にも上手とは言えないものだったが……
「ん……っ」
ピクンッと春が驚いたが、5秒程幸せを感じてから唇を離す。
春は顔を真っ赤にしながら、それでも微笑んで俺の首後ろに手を回して抱きついてきた。
「キス……しちゃったね……」
「そ、そうだな……」
「好きだよ、秋斗くん……」
「あぁ、俺も好きだよ、春……」
こんな幸せな時間が永遠に続けばいいのに……
俺は……少なくともこの時の俺はそう思っていた。




