であい・その1
都立第四高校に入学し、高校一年生になって一ヶ月が過ぎた。
何の変哲もない、ただただ普通の日々。
正直、もう飽き飽きしてきた。
二十一人もいる教室で、窓際の席から遠くの空を見つめる。
たまたま飛んでゆく鳥が目に入った。
鳥はいいよなぁ……自由に飛べる翼があって……
「あーきーとーっ!」
「おわっ!? 何だ、咲哉か。脅かすなよ」
「いやぁ、秋斗があんまりにも黄昏てたからー」
「べ、別に黄昏てねぇよ……」
クラスメイトで、入学早々に声をかけてきた俺の唯一の友達、斑鳩咲哉。
短い茶髪をワックスで固め、レンズの無い黒ふちメガネをトレードマークにしているチャラ男だ。
入学してまだ一ヶ月だというのに彼女持ち。
女子とのコミュニケーションも大得意で、クラスでも人気者である。
そんな咲哉が俺に話しかけてきたのは、単に席が隣だったから。
もう関わらなければいいのに、負のオーラをバシバシ醸し出している俺に積極的に話しかけてくる。
まあ、ただの良い奴なのだろう。
クラス内全員が全員と仲良くなれる教室を作るのだそうだ。
その為に学級委員長も引き受けた。
彼の努力もあってか、俺も色々な人達と話すようになってきている。
基本的には相手からだが。
「で、どうした?」
「いやぁ、また彼女の自慢をしようと思って、ね?」
「ね? じゃねぇよ! 誰が聞くか! 誰が!」
「けっ。ケチなのー」
こんなバカみたいな会話にでもふと笑顔がこぼれてしまう。
きっと咲哉の才能なんだと思う。
羨ましい限りだ。
「いいな、お前は……」
「ん? 何か言ったかー?」
「いや、何にもない」
「そっかそっか! 今日午前授業だろ? 一緒に飯行こうぜ飯!」
「りょーかい」
そう言って走っていく咲哉。
清々しいな、本当に。
いや、待て。
もう授業開始のチャイムが鳴っているのに何処に行くというのだ咲哉!
彼は究極の自由人でもある。
テスト明けということもあり、しばらくは午前中に授業が終わる。
授業も終わり、約束通り、ゆっくり昼食を食べに行こうとした瞬間、目の前にいた咲哉に無理矢理引っ張られ今に至る。
「で、引っ張ってきた理由は分かった。でも、俺はそこまで甘党じゃないぞ、咲哉!」
「知ってる知ってる! でも食わず嫌いかもだろ? 食ってみろって!」
俺が連れてこられたのは、都内にあるスイーツカフェ。
お昼には食べ放題もあるらしく、女性を中心に凄まじい人気があり、いつも行列が出来ている。
何故わざわざここを選んだのだろうか。
明らかに昼食のメニューではない。
美味しいとはよく聞くが、甘いのがそれほど好きでない俺を連れてくるべきだったか、咲哉よ。
周りも女子ばかりだし、入る前から帰りたい。
なんだかんだで三十分も待たされ、やっと中に入ることが出来た。
見渡す限り女子しかいない。
それでも咲哉は楽しそうだ。
本当に、変なやつ……
「うひょー! とりあえず取りに行こうぜ!」
「テンション高ッ! おまかせでいいよ……」
「俺に任せていいんだな?」
「やっぱり自分で行くよ」
咲哉の目が怪しい感じだったので、自分で取りに行くことにした。
常時三十種類のケーキを取り揃えているのがこの店の自慢らしく、本当にたくさんのケーキがある。
どれも一口サイズで色々な味をたくさん食べられるようになっているらしい。
これが女子のハートを掴むのだろうか。
いくつか美味しそうなものをプレートに取り、席に戻る。
席には既に二つのプレートに大量のケーキを乗せた咲哉がいた。
「秋斗ー遅いぞー」
「いや、お前が速いんだよ……」
「ほら、はっはとふわれ!」
「飲み込んでから喋れ……」
すごい速度で食べている。
俺もゆっくりと食べ始める。
うん。美味しい。
でも、これを二皿も食べられる気がしない。
それに、カロリーも高そうだし……
「うめぇ……」
「涙を流しながら食うなよ汚ぇな……」
「ちょっとおかわり取ってくるわ!」
「速っ!?」
俺が一皿目の残り半分に苦戦している間に、咲哉は二皿を完食したようだ。
普段こんなに食べるのが速かったっけな……?
ちまちまと食べながら窓から外を見る。
偶然座った席は道路の見える窓際の特等席だったのだ。
「なんかいい事ないかなー……」
ポツリと呟いて頬杖をつく。
すると、道路と歩行者専用道路の間の段差を綱渡りの様にして渡る少女が目に入った。
見知った顔だ。
確か同じクラスの遠山春。
黒髪ロングの病弱そうな美少女といったイメージの女の子。
学校の帰り道だろうか?
それにしても可愛いことするんだな。
そんな感じで眺めていると、パッと目が合ってしまった。
春はビクッと驚いてから、ここからでも分かるくらい顔を真っ赤にして逃げていってしまう。
かわいい。
見てはいけないものを見てしまったみたいだ。
忘れてあげよう、そうしよう。
ほんわかした気持ちでいると、二皿いっぱいにケーキを乗せた咲哉が帰ってきた。
「ん? 何かあったかー?」
「んや、なにもー」
「お? 何かあったな? あっただろ!?」
「なにもー……って近いなッ!」
めんどくさい奴だ。
でも、あれは黙っておいてあげるべきだろう。
しかし、この気持ちはなんだろうか。
この、守ってあげたいというか、近くにいてあげたいという感情は。
保護欲? 母性?
いやいや、俺はいつから女になったんだ。
まさか、恋愛感情?
いやいや、ありえない。
恋なんて一度もした事がないからわからないけど。
人を好きになるという感情がイマイチよく分からないのだ。
まあ、こんな暗い奴を好く物好きなんてそういないだろうが……
その後もちまちまとケーキを食べながら、咲哉と色々な話をした。
このケーキが美味い。あのケーキが美味い。
ここのスポンジの柔らかさ加減が絶妙だとか、色々。
最後の方は咲哉の彼女の話がほとんどだったけど。
それでも、珍しく楽しいと思える日を過ごした。
こんな日がずっと続けばいいのに……




