第1話・【奈落の住居】①
快晴の空、地平線まで広がっている野原――
そんな見渡す限り何もない場所に青年が立っていた。名前は――
「……なんだっけ」
さっきまで意識がもうろうとしていたが、
少しずつ意識がはっきりしてくる。
でも、自分が何者でここがどこなのか全く思い出せない……。
ただ感じることは――
「なんだろうなこの虚無感は……」
さっきまで自分は何をやっていたんだろうか。
こんな所で――
辺りを見渡す――地平線まで広がる野原……特にこれといった建物は見えない。
だが、辛うじて山脈らしき物が見え、そのさらに奥には山よりも遥かに高い何かが見える。
この距離では、はっきりと何かは解らないが――
「棒?……いや、柱?」
一体あれはなんだろうか……。
はっきりとは解らないもののあそこに近寄りたいとは、あまり思わない――でも。
「とりあえず、行ってみるか。誰かいるだろう」
あそこまで行くのに何時間掛かるんだろうか……
そんなことを思いながら歩き始め――
「――!!」
突然地響きが体に伝わって来た。
その強い振動に立っていられず、その場で屈んでしまう。
「……地震?いや、なんか違う――」
地震のような規則性のある揺れではない。不規則に揺れている。
そして何より――
「どんどん強くなっている――いや、なにか近付いてくる!?」
そう思った時にはもう遅かった。
下に目を向けると地面に亀裂が走り――爆発した。
真下に起きた爆発の影響で遠くに飛ばされ――地面に叩きつけられる
激痛が走る。爆発の時に一緒に小石なども体に打ち付けられ、体には無数のアザが出来ている。
「……よかった。辛うじて助か――」
爆発をもろに食らったにしてはアザだけで済んで運がよかったと思った。
そう……思っていた。だが――爆発の起こった方を見るとその考えは一瞬で変わった。
爆発が起きた。それは違う――爆発ではなく地面から何かが飛び出して来たのだ。
運がよかった?バカを言うな。
まだ……終わってない。
「マジかよ」
目の前には巨大な肉の塊。その側面に触手のような物が伸びており、何かを探しているかのように
うごめいている。
この生命体かすら怪しい生き物。
記憶がなくても直感でわかる。
こいつは危険――殺される。
早くこの場から逃げたい気持ちはある――が。
まだ動きはない。ゆっくりと距離を離して行こう。
中腰の状態でゆっくりと後ろに下がっていく。
この生き物から目を離さないよう。ゆっくりと――
相手に動きはない……もう、一気に走り抜けたほうがいいか?
あの大きさだ。動きは早くないはずだ……。
様子を伺い――
……今だ!!
一気に走って、その場から逃げる。
さすがに気付かれたのか、こっちに反応する。
でも、この距離だ。気付かれたとしてもそう簡単には追いつかれ――
後ろに振り向くと絶望した。
あの巨大な肉の塊は確かに動いてない。
ここまでは予想どうりだ――でも!!
「そんなのありかよ!!」
肉の塊から生えていた触手が伸びて、分裂――独立したの見た。
そして、その触手がこっちに迫るのを――
「誰がそんな所まで予想するんだよ!?」
全力で走る。だが――体はすぐに重たくなり、息が切れる。
この体運動不足なのかよ!!
やばい、このままだとすぐに追いつかれる!!
でも、どうやって逃げれば――
なんとか打開策はないものかと周りを見渡す。
すると、不自然な地形をしている所を見つける。
「――とにかく行くしかない!!」
このまま走っても絶対に追いつかれる。
あの不自然な地形。
なにかあるかもしれない。
全力で走る。生きるために――
少し丘になっている場所を走り抜け、勢い任せにジャンプしてショートカットを試みる。
でも、その行動にすぐに後悔する。
丘の先は坂になっており、その先には――
「なんで渓谷があるんだよ!!」
危機回避するために止まろうとしてももう遅い。
勢いよく飛んだせいで、止まる事ができない愚か――目の前にの光景に気を取られていたせいで
着地に失敗。
体制を崩し、坂に転がる事となった。
そうなると必然的にそのまま転がって行き、渓谷に身を投げる結果になった。
あ、死んだ。
自分の名前すら思い出せない青年は走馬燈も見ることも出来ず。
渓谷へと落ちて行った。