05.ほこら完成
女神とディートハルトが、ウルクの街に来てから三ヶ月。
「皆、ついにこの日がやってきた!」
水車小屋近くの小さな広場に集まった、ディー、アイリス、クラウの三人。彼らを前に、喜色満面の女神がふわふわ浮いている。
「我が信徒たちよ! ほこらの再建、大義であった」
ぽんぽんと頭をなでられるも、ディーの意識はぼんやりとして、はっきりしない。
パン屋の仕事に加えて、合間合間にほこら作り、そして連日の『人間らしさ』の勉強がたたったのか、体が重い。アイリスはそんなディーを心配そうにちらちら見ていたが、クラウはいつもの我関せずで、上機嫌の女神に気のない拍手をしている。
「おめでとうございます、ラジーニア様」
「アイリス、建材はお前の情報なしでは入手できなかっただろう。礼を言うぞ。クラウも、ディートハルトの面倒を見てくれたようだな」
「いえいえ。お礼には及びません」
女神とアイリスは笑顔で握手している。
出会った頃はぼんやりとした姿かたちで、はかなく消えてしまいそうだったラジーニア。
だが、今はそんな印象などどこ吹く風だ。大きさはそう変わらない、クラウと同じ年くらいの女の子の姿だ。
「ディートハルトよ、今まで苦労をかけたな。本当によくやってくれた。感謝しているぞ」
「ありがとうございます」
「では、依代を外してほこらの奥に置いてくれないか」
「はい。やっとあなたにお返しできます」
依代のペンダントを首から外し、ほこらの扉をあけて、中の台座にそっと置く。
「清浄な水のそばにあるほこらと、信徒たち……これで、私はだいぶ自由に行動できるようになったぞ」
「そうなのですか?」
「フフン、姿を見せたり声を聞かせたりするのも自由だし、ちょっとした威光を見せることも可能だ」
女神が指先を川に向けると、いくつかの水の塊が浮かび上がり、次々にはじけて消えた。
「よし、調子はまずまずだ。……というわけで、ディートハルト。お前はしばらく体を休めるといい。布教は私だけでもできるからな」
「体を休めろ? ……なぜですか?」
「気づいていないのか? 顔色が良くないぞ、お前。最近、なんだかんだと働きづめだったからな。一人で休養をとることも必要だろう」
女神は宙に浮きながら、じっとディーと目を合わせて、そっと頭をなでてくれた。
「一人、ですか?」
「あぁ、そうだ。立派なほこらを作ってもらったからな。もうお前に依代を持ち歩いてもらう不自由はかけないよ」
「不自由だなんて、そんな」
ディーがぶんぶん首を横に振ると、女神はにやりと笑ってこう言った。
「ま、口うるさい小姑がいなくなったと思って、一人暮らしを満喫するといい」
背を向けて手を振る姿に、ディーは、ペンダントを下げていた胸のあたりをまさぐった。