プロローグ(1)─事件報告─
二〇〇X年八月十九日、月曜日。
関東の海に浮かぶあるちっぽけな孤島で、凄惨な連続殺人事件が起こった。
島に建てられた、オープンを目前に控えたペンション――というよりは「館」か――にモニターとして招待されていた十三人の人間と、管理人や使用人含む三人の、合計十六人。
滞在期間を過ぎても島から戻ってこない人間に不審を感じた関係者が警察に通報し、踏み込んだ時には既に――。
玄関に倒れる二つの死体。背中と腹、それぞれに刺殺された痕があり、服にはどす黒い染みが広がっていた。
更に二階の廊下にも一つの刺殺体。この死体も同じような惨状になっていた。
そして、客人が泊まる各部屋には……刺殺体に留まらず、首を吊って息絶えている死体や撲殺された痕のある死体、更には身体中縄で縛られてから刺されたと見られる死体もあった。通算九体だ。
さて、残りの四体は――食堂である。外からは鍵を掛けられていた二階まで吹き抜けのこの食堂には、テーブルの上にナイフの刺さった刺殺体が一体、奥の厨房に三体。惨状は……いや、ここでは割愛しよう。いずれ、わかる。
結局のところ、そんな手遅れの状態の孤島へ今更のように踏み込んだ警察には、いくら最先端の科学技術を駆使しようとも、真相は全くわからず、口を利ける一人の人間もいないこの死の館で立ち往生しているしかなかったのである。
──前振りはこんなところだろうか。これからあなたには、そんな迷宮入りの怪事件、後に「孔雀の狂気」と呼ばれることになるこの難事件の一部始終を見ていただこうと思う。先に結末を云ってしまうと、果たして探偵役である筈の主人公は謎を解くことが出来ずに、自らも憐れな被害者の一人となりおおせてしまうのだ。
だが、心配するなかれ、あなたはことの真相を目の当たりにすることが出来る。どういった方法で、かは読み進んでいけば明らかにされるだろう。
さて、そろそろ物語を始めようか。
因みにこの物語の真相を掴み取るには、二回、この「物語」を読む必要がある。というのは、作者がこの物語を二部構成の複数主人公型にする予定だからである。第一部は「問題篇」、即ち正規の主人公視点で描かれるストーリーとなっていて、これで物語の流れを掴んで頂き、第二部の「解答篇」で、ある人物(犯人とは限らない)の視点で真相が知らされていく、という構造になる予定なのだ。くどいかもしれないが、作者はこの描き方をとらせて頂くつもりである。
何だか本文では偉そうなこと書いてますが、その、空気でそうしてしまっただけなので、ご理解いただけるとほっとします…。