下級魔貴族な私と高位魔貴族なかの人
梅雨が終わる前に間に合いました。
駄文ですがよろしくお願いいたします。
たしかに会いましたよ。
ほんの一度だけ…。
あったと言うより見たかなぁ?
「は?嫁入りですか?」
私はビックリしてガイドブックから目をあげた。
「サキラ、断れない筋からなんだ。」
お父様がそういいながらもニコニコしている。
よっぽどいい話なんだね。
私はもっと自由でいたいのに。
「すぐにじゃないですよね。」
私は『人界カマクラ観光~紫陽花の月光院』と言うパンフレットを出した。
一度いってみたかったんだよね。
「おまえ…まさか…翠家末端とは娘を外に出せるか!」
お父様が翠家の常識を言った。
まあ、貴重な上級人型魔族の女性を出さないのが翠家の常識で引きこもるための部屋まであるもんね…。
まして、当代魔王様が翠家から出たから価値は鰻登りだしね…。
「お嫁入りするなら外に出ますから。」
私はそういいながら通信機の申し込み画面を出した。
「……相手が出すわけないだろう?貴重な純血の上級人型魔族の女を!」
お父様が一応見合い写真らしいものを机に叩きつけた。
貴重な純血の上級人型魔族の女ね…。
一度くらい観光してみたいもんね。
コンビニもいってみたいけど…。
カマクラもいきたい。
人界は梅雨で降ってた。
ツアーバスっていっぱい人がのるんだね。
時間かかるし…。
同じバスのおば様が外国人さん?、ハーアーユーって言われたときどうしようかと思ったよ。
本性の金髪と緑の目って目立つのかな?
ニホン人ぽく黒髪の方がよかったかな?
でも…つれも金髪碧眼隠してないしな…。
「サキラちゃん、きれいだね。」
一緒にきた本家のリズンが紫陽花の咲く坂を私をエスコートしながら優雅におりていく。
「なんで…リズンついてきたのさ?」
ダブルで目立ってますけど。
もっと地味な格好してくればよかった。
「えーと…あいつに殺されたくないし…サキラちゃんの嫁入りは僕のおかげだしね。」
悪びれなくリズンが笑った。
周りの人間たちがぽっとなった。
さすが外国人は色気があるわーっておば様の一人が呟いた。
魔族ですけどね。
…まって…今、何て言った?
「僕の友達がさ、魔王様の側近でぜひ翠家の娘を嫁にと…新稲は紹介したくないし。」
リズンがうっとりするような微笑みでごまかそうとした。
人間とのクォーターのハトコの新稲ちゃんを溺愛してるからな、リズン。
私もか弱い(魔族目線だと)新稲ちゃんにおしつけたくはないし…そうじゃなくても新稲ちゃんにはストーカーが…。
「…カマクラアジサイ抹茶パフェで手を打つ。」
こいつのせいだったのか…。
私はため息をついた。
末端とはいえ私も翠家の女だし、仕方ないか。
リズンならさすがに変な男は紹介しないだろうし…。
「うん、いいよ、もちろん。」
リズンがニコニコ言った。
水に濡れた紫陽花がお寺の坂道を彩ってる。
このまま静かに時が過ぎればいいのに…。
紫の花がいくつも咲いていて夢の世界のようにきれいだった。
抹茶色のゼリーとムースとワラビ餅が生クリームと土台を作った上に青紫と水色と透明のクラッシュゼリーにソフトクリーム、アジサイを模した生菓子がのっている。
その向こうに二人の人影…。
「…なんであなたがいるんですか?」
私は恨みがましい目で目の前に優雅に座る水色の長い髪と水色の目の美青年を睨み付けた。
お見合い写真そのものの美青年をみて、最近ああいう染め粉流行ってるにかしら~とおば様が噂している。
「いつか見た翠の珠が欲しいとリズンに頼んだのですよ。」
美青年が優雅に抹茶ミルクを飲みながら答えた。
「脅したの間違いだよね、サキラを寄越さないなら美稲に変態をけしかけるとか…。」
リズンがぶつぶつ言った。
そう言う裏があったのか…。
翠の珠って…どういう意味だろう?
みたことある。
たしかに翠本家の女性部屋から男性用居間を覗いた時に…たしか。
「ファーレシシ・空・ファーイリア様、私はあなたに観光を邪魔されるいわれはありません。」
抹茶ミルクも美味しそうと思いながらパフェにスプーンを入れる。
「私はサキラの夫ですから。」
ファーイリア様が微笑んだ。
あきらめたそばから騙し討ちするんじゃない。
リズンを横目でみると視線がずらされた。
「まだ、ちがいますよ。」
抹茶黒蜜クズキリを追加注文してやると心にちかって店員を呼ぶ。
「サキラはもう私のものです。」
ファーイリア様がそういって店員(男)を横目で軽くにらんだ。
そこでぽっとなるんか…上級魔族の色気は男にもきくのか…。
「みたこともない私によくそんな甘いこと言えますね。」
ため息をついて抹茶ゼリーを口に含んだ。
私はみたけど高い位置の透かし窓から見えるわけないと思うし…。
「美味しそうですね。」
それに答えずファーイリア様がほほえんだ。
「食べますか?」
私はスプーンを差し出した。
その手をつかまれて引き寄せられる。
綺麗な水色の目が近づいて…。
「美味しいですね。」
おもっきり大人のキスをしたひとが言った。
「……抹茶黒蜜クズキリでございます。」
ウェートレスさんが少し口ごもってからテーブルに朱色の塗りのお椀に盛られた涼しげなクズキリを置いた。
「なにするんですか!?」
私が手を離そうとすると立ち上がったファーイリア様にだきよせられた。
「さあ、いこうか?」
耳元でささやかれた。
「リズン。」
私はリズンに目で助けを求めた。
「うん、支払いとあとはまかせといて。」
軽くてをふられて見捨てられた。
お幸せに~ってなんだよ。
しかも抹茶黒蜜クズキリ食べてるし~。
私の抹茶黒蜜クズキリ~。
「サキラ。」
ファーイリア様が私を抱き込んで外に出た。
そのまま鵬に変化して私をつかんだままとびさった。
おば様たちがキャーとかギャーとかさわいでる。
まあ、人が怪鳥にさらわれてる図にしかみえないしね。
あー、一応上級人魔族でよかった…。
下級だったらだいダメージだよ。
リズンがあー、後始末がめんどーって言ったのが聞こえたけど、ざまー味噌漬けだよ。
空家は風属性系だっけ?
雨空はいつの間にか晴れて虹がみえていた。
サキラを初めて見たのは翠本家に招かれたときだ。
高い壁の屋敷側の透かし窓から気配を感じた。
『あんまり、女性部屋に意識を向けるのは失礼だよ
レシシ。』
リズンが私が透かし窓の方を見たのに気がついて牽制した。
『誰だ、あの女性は。』
空家の私は目がいい綺麗な緑の目がイキイキと私の灰色の翼をみているのがわかった。
その瞬間に思った…私の番だと。
『え?美稲ちゃんはだめだよ、僕のなんだから。』
リズンが意識をむけた女は黒髪に琥珀目の方だな。
ちがう、あの女じゃない。
あそこで熱心に私を見てる金髪の女だ。
空家は風属性で空を飛ぶのが多いせいなのか目がいいのが多い…まさに翠の珠のような煌めきだ。
そのあとも何度か翠本家に行った。
一度もあえないイライラがつのった。
それでも仕事はある。
その日も魔王宮で魔王様の執務の補佐をすべく積めていた。
『アールセイル、オレのミゼルを取るんじゃない!』
執務に来るはずの魔王イルギス様が回廊の向こう叫んだ。
腕には魔王妃ミゼル様を抱いている。
『ええ?ミゼル様とお茶を飲むだけですわよ?』
魔王様とほぼ実力が一緒とされている橙家令嬢アールセイル嬢がのんきについてきている。
あの方は魔王妃最有力候補だったはずだが…。
本人の性格がな…。
しかも花嫁は魔王様の独断で決めたしな。
橙家はじめだいぶ反対したそうだが…。
アールセイル嬢はミゼル様をきにいってるらしいな。
『断る!』
魔王様はミゼル様を抱き抱えて走り出した。
『ミゼル様の意志はどうなりますの~。』
アールセイル嬢がのんきにおっていった。
案外足が早いな追い付くのも時間の問題かもしれない。
『あー、もう仕事にならない~、魔王様もミゼル様にメロメロだね~。』
リズンがそういいながら書類を机においた。
なんだかんだ言って優秀だからこその魔王様の側近だからな。
側近…側近か!
『リズン、翠家の女性を嫁にくれないか?』
私はさりげなさを装って聞いた。
『ん?なんで今?』
リズンが怪訝そうに聞いた。
『ミゼル様の側近を作ればアールセイル嬢もそうそう手が出せないだろう、それには既婚者がふさわしい。』
私は極めて冷静を装おった。
『………まあ、そうだね、魔王様と同じ翠家の女性の方がいいかもね…。』
リズンが考えるように言った。
『ぜひ、紹介してくれ…いつかみた翠の珠を。』
私は真剣な眼差しで言った。
リズンは本当に仕事熱心だね~翠の珠ってなに?と言ったが承諾してくれた。
ちがう、私はかけたのだ。
この腕の中に我が番が来ると信じて…。
そして…かけにかった。
魔界の浮遊島に建つ高い塔のバルコニーで私は物思いにふけっていた。
浮遊島は空家の本拠地でファーレシシ様は本家の若き当主なんだそうだ。
森深く見える塔の下はツリーハウスや塔のような高い位置の建物が多い。
もちろん一番高いのがこの塔…空本家だけどね。
湖がまわりを取り巻いているので飛べない私には脱走は不可能だ。
出入りは鳥型の旦那様につかまれてしている。
「はあ…もうすぐ夏ですね…。」
灰銀色の雲が雨を降らせながら少しずつちぎれていく…梅雨特有の青紫色系の刻々と色を変える空のはしっこが夏空の陽の色の黄色から金色にかわりつつある。
混ざりあったところはちょうど抹茶色だ。
遠くから鳥が飛んでくるのが見えた。
あの時…ファーレシシ様を見たのは…。
翼があれば広い世界にとびださせると思ったから…。
翠家の女性に自由は少ない。
貴重な上級人型魔族の女性だから…。
本当は…下級人型魔族みたいに自由にそこらじゅういきたいな。
憧れはコンビニスイーツだよ。
「ただいま。」
飛んでたのは誘拐犯人な旦那様だった。
人型をとって抱き込む。
「お帰りなさい、旦那様。」
私はそういって肩越しに空を見つめた。
空を飛ぶのは気持ちよかったな…。
「お土産だよ。」
ファーレシシ様が甘く言った。
明らかにコンビニの袋をファーレシシ様が見せた。
「人界言ったんですか?うらやましい。」
私は憧れのコンビニ、スモフィンの袋を見つめた。
「そのくらい熱心に私を見て欲しい。」
少し落胆したようにファーレシシ様が私にキスをした。
あのあとそのまま結婚しましたよ。
両親は高位魔貴族の旦那様に大喜びでした。
「わー、夏限定の生クリームマンゴーどら焼だぁ。」
旦那様は私よりお菓子ですかぼやきながら私を抱き上げた。
今度一緒にコンビニいく約束して仲良く二人で食べましたよ。
ミゼル様がコンビニ好きなんで魔王宮にはコンビニがあるんだって。
今度行ったときによってみよっと。
旦那様はつれていきたくなさそうだけど。
ミゼル様の側近ってことでめとったんだから。
ぜひいかないとね。
「それは口実だ。」
旦那様が苦々しい顔でいったけど。
聞いてませ~ん。
その後ミゼル様とアールセイル様とコンビニ巡りするために度々人界に出ることになるんだけど。
そのたびに旦那様が過保護なるんだよね。
でも、私、魔王妃様の側近だから…。
自由を愛する空家の男性ならわかるよね。
翠家よりずっと自由になったよ。
結婚してよかったなぁ。
今日はどこのコンビニいこうかな。
今日の空は金色夏空です。
駄文を読んでいただきありがとうございます♪