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―遠望― 死を運ぶ風

アークライ達が別宅へと向かった同時刻。

競売会場では阿鼻叫喚の地獄絵図が描かれていた。

描いたのは一人の男。

紺色の布で作られた、東方の民族衣装の上にマントを羽織、腰には二本の剣を差している。

しかし、何よりも目につくのはその男の髪が透き通るような白髪だろう。

それは老化のそれとはまた違う、神々しさを感じさせる白であった。

男の目の前にはおよそ30人ばかりの人。

それらは全て、この競売会場を警備するために呼び寄せられた人間達であり、誰もが己の腕に自身がある猛者であった。

それらが、今恐怖に足を震わせている。

こんな筈ではなかった……こんな筈では……そう心の中で叫び悲鳴を挙げている。


「こ、このバケモノが……。」


警備の一人が、声を震わせてそう叫ぶ。

男の足元には真っ二つに斬りされた人の死体が無数に転がっている。

それは全て、彼に向かい返り討ちにされた人間達である。


「それで、ここの結界の要とやらはどこにある?」


白い髪の男が尋ねる。


「こ、答えるものか、それにお前を囲むのはこの数ぞ、いくら貴様が強かろうと、この数を相手にして生きて帰れると思っているのか!?」


警備の一人が声を震わせながら叫んだ。

それに便乗するようにして他の警備のモノ達も鼓舞する。

そうだ、男がいくら強かろうと、数で勝るこちらが負けるはずがないと……。


「黙れ。」


それに対して白い髪の男は静かにそれでいて辛辣に言った。


「五月蝿いのは嫌いなんだ、実力が無い木偶どもが粋がるな。」


心底、侮蔑するようにして言う。

それが、そこにいた者達の神経を逆なでした。

プライド完膚なきまでに侮辱されたのだ、彼らが先程まで感じていた震えを忘れる程に怒ったのも無理もない話だった。

そうして、その内の3人が襲い掛かる。

まず初めに一人がナイフを投擲する、それに続き魔法の詠唱を終えた警備が火弾を放つ。

そしてそれと同時に最後の三人目が駆けた。

白い髪の男はナイフと火弾を最小限の動きで回避する。

その魔法の背後の死角から、最後の一人が現れる。

それは投擲、魔法の二弾構えをフェイントにした三段構えの連携。

回避を終えた時に発生する微かな体の硬直、それが不可避の攻撃を生む。


「殺った!!!!」


完全に虚を付いた不可避の連携。

警備の者達はその状況に勝利を確信する。

しかし、白い髪の男は静かにそれを見据えていた。

既に諦めたのか、否……それは―――ただ、白い髪の男に取って取るに足らない攻撃であった、それだけの事である。

白い髪の男は腰にある、剣の鞘を左手で握り右手で柄を持つ。

そしてその後、即座に腰のバネを活かして抜刀、即斬。

神速にも達する速度で放たれたそれは襲いかかった者の攻撃が届く前に、その体ごと真っ二つに割断した。


「參の風『旋』。」


そして、そのまま走り接敵、剣で魔法を放った者とナイフを投擲した両名の首を飛ばす。

不可避の連携それが男の超常的な居合術によって攻撃を当てる前に容易く破られたのである。

目の前で起こった事が信じられずに呆然と眺める警備達。


「まったく、肩透かしもいいところだな、それで要は何処だ?吐いた奴は殺さないでやるぞ?」


呆れたように、それでいてうんざりしたかのように白い髪の男は言う。


「ひ、ひっ……ひぃぃぃぃぃ。」


それからは酷いものだった、ただ一方的に行われる大虐殺。

数十人という数がたった一人の膨大すぎる個に蹂躙されていく。

白い髪の男の足元には次々に斬られた人の成れの果てが転がる地獄絵図が描かれた。

描いたのはただ、一人の男。

それは剣の毒に侵された餓鬼であった。

白い髪の男はその全てを殺し終え、競売会場の外に出る。

そこでは2人の黒い装束の男たちが膝をつき頭を垂れていた。


「ご苦労で御座います。」


2人が声を合わせて言う。

それを見て、白い髪の男は納得したように


「ん、誰も知らなかったみたいだから中にあったものテキトーに斬ったが当たりがあったみたいだな。」


そう感想を漏らした。


「まあいい、あとは貴様らに任せる、俺は肩すかしな敵の相手などする気も起きん。捕獲はお前らでやれ。」

「―――――御意。」


そういって、黒装束の2人は白い髪の男の前から姿を消した。

それを見届けた後、空を見る。

空には半分に欠けた月が弱く青く光っていた。


「まったくつまらん夜だ。」


そう感想を漏らして白い髪の男は闇へと姿を消した。

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