表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/26

1-2 LU3004年149の日その2(虚ろなる魔)

「まずは、ミア・クイックのプロフィールについていくつか説明しておこう、性別はまあ、名前の通り女だな、年齢は17、出身は――――」

「ちょっと待ってくれ。」


アークライはそのまま続けるようにして説明を始めたクレアを遮った。


「言葉の響きがあんまりよろしくないな、救出じゃなくて奪取とはね…。」

「事実そうなのだから仕方あるまい。」


クレアは特に悪ぶれもなくそう言う。

救出ではなく奪取、つまりこれは、このミアという少女を攫って来いと言っているのと同義である。


「それが騎士団が大っぴらに動けない訳か?」

「そういう事だ。」


帝国から警察権を得ている帝国騎士団といえども、人を攫う権利などは無い。

この少女がなんらかの犯罪者であり、それを捕らえるという形ならば可能かもしれないが、わざわざ奪取という言葉にしたのは、この少女は普通の人だという事だろう。

アークライは苦い虫を噛み潰したような表情で、


「どうも嫌な臭いしかしないな…想像していた以上に面倒事らしい。」

「ああ、事実、面倒事だ。」


クレアはこういう所で言葉をオブラートに包んで話さない人物だ。

それ故に、人当たりがよくないと周りから言われることもあるのだが、アークライはこういうクレアの愚直な所は昔から嫌いではなかった。

アークライは仕方ないと肩で息を吐く。


「まあ、いいよ、旧知のよしみだ。最後まで話を聞こう、それで?」

「助かる。この少女、名前はミア・クイックという。性別は見ての通り女、年齢は17、生まれは不明だが出身は帝国東にある貿易都市だそうだ。そこの貿易都市のパン屋に住み込みで働いていたらしい。」

「聞く限り、今時珍しいぐらい普通の子じゃないか…それでなんでこの子を奪取なんて事をしないといけないんだ?」

「そうだな…どこから話すべきか…実は、このミアという娘、半年程前にとある奴隷商に売り渡された。原因は彼女が務めていたパン屋の借金の肩代わりをさせられたらしい。」

「ふむ。」


これ自体は昨今の帝国ではそれほど珍しい話ではない。

どこにでも法外な金利で金を貸す悪徳な輩というものはいるものだ。

そしてその担保に人間を扱う者も…。


「でも、それなら、別に犯罪として取り締まれば、彼女を救出することも出来るんじゃないか?基本的に法外な金利での金貸しはこの国でも認めてないだろ。」

「ああ、そうなのだがな、当時、養母も私も彼女の存在をしっかりと把握出来てなかったのが遅れに繋がった。彼女にはすぐに買い手が付いたのだ。」

「まあ、容姿は良さ気だしな…。」


そう言いながらアークライは写真を見る。

少女は一言で言えば美人であったし、どこか目を離せない儚さのようなものも感じさせる。

この容姿を気に入る人間は多いだろう…しかし、やはりこの写真どこかに違和感がある。


「問題は買い手なのだよ、買ったのは個人なのだが、これはとある組織がモノを買う時に使う法人名でな…」

「組織?」

「その組織の名を『白い部屋』という。」


アークライはその名を過去に聞いた事がない記憶を検索するようにして、少し考えた後、


「――――聞いた事がないな。」


そう応えた。

クレアはそうだろうと頷く。


「設立自体は既に400年近くも前からある古株の地下組織だ。かつての神聖教国で作られた研究機関でな…君も知っての通りかの宗教の目的は救世の力を持った者を探しだす事、この『白い部屋』はその際に出来た救世の力そのものを研究する事を目的としている。」

「まてよ、それって…。」


アークライもクレアが何を言いたいのかを察する。

どうも、この写真の少女はアークライが考えていた以上に面倒な少女らしい。

それはつまり…。


「そうだ、『白い部屋』は教団に作られた虚属性獲得者(ヴァニティ・ホルダー)を研究そして選別する為の機関だ。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ